世界のエンタメ事情の現場を熟知する久保田氏に、リメイクに関する素朴な疑問も尋ねてみた。リメイク作品はオリジナルと比べて出来の良し悪しが分かれることも多いが、なぜ差が生まれるのだろうか。
「作品によってリメイクに向き不向きがあることも事実です。また、リメイクは先ほど説明した通り、オリジナルのアイデアを活用できる一方で、自国の文化になじませて作ることに難しさも伴います。原作にリスペクトを抱けば抱くほど、アレンジができなくなり、結果、うまくいかないケースも実際にあります。日本版『グッド・ドクター』が成功したのは、フジテレビが医療ドラマのノウハウを持っていることも大きいです。韓国版『空から降る一億の星』は、完成度の高いリメイク作品のひとつで、それはやはり韓国がラブサスペンスのノウハウを持っているからでしょう。感心するほど出来の良い作品に仕上がっています」。
■海外展開の流れでハリウッドドラマの日本リメイクも
フジでは昨年10月クールに織田裕二主演で『SUITE/スーツ』の日本版が放送され、TBSでは今年1月クールに『グッドワイフ』の日本版が放送されたところ。テレビ朝日では『24‐TWENTY FOUR』をリメイクする話も進んでいる。今後もフジではハリウッドのドラマを戦略的にリメイクしていく計画があるのだろうか。
「リメイクに限らず、良い作品を作りたいということにこれまでも、これからも変わりはありませんが、今までは海外のドラマの原作権を購入しようにもルートがなかなか作られていませんでした。それが最近、世界のコンテンツ市場全体でドラマリメイクの機運が上がったことで、ハリウッドもリメイク権を積極的に売るようになってきたのです。アメリカもアジアを取り込んでいきたいという思いが以前より強くなったので、リメイクの話が進んでいますが、欧州からの注目度も高いです。国策の違いや政治状況によって流通状況が左右されることもありますが、コンテンツのクリエイティブはそこを突っ切ることができるものです。日本に魅力を感じる海外のクリエイターは多く、国際的なコンテンツ交流は活発化されていくと思います」。
日本のドラマが世界でリメイクされるケースも、海外ドラマが日本で人気のあるキャストによって作られるケースも引き続き増えていく傾向にありそうだ。現在フジでは『SUITS/スーツ』のアメリカ版シーズン1が毎週月曜深夜に放送(FOD、TVerで見逃し配信)されているが、これからはオリジナル版とリメイク版の見比べも、ひとつの楽しみ方としてオススメしたい。
●久保田哲史
1969年生まれ、奈良県出身。テンプル大学卒業後、95年にフジテレビジョン入社。『ムコ殿』『離婚弁護士II』『人にやさしく』『医龍-Team Medical Dragon-』『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』などのドラマを演出し、現在は総合事業局コンテンツ事業センターコンテンツ事業室部長職としてドラマの海外ビジネスを担当。
■著者プロフィール
長谷川朋子
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。