※ドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

■3位:NHKドラマの存在意義を示し、『コウノドリ』を超えた『透明なゆりかご』(NHK)

清原果耶

清原果耶

放送前は、「『コウノドリ』の二番煎じ」「無名の10代女優が主演でいいのか?」と否定的な声が目立っていたが、まったくの杞憂だった。

テーマは、「産婦人科の影」という、これ以上ないほど重いもの。アウスと呼ばれる人工妊娠中絶、乳児虐待(疑惑)による死、網膜症で失明の危機がある中での出産、女子高生がたった一人で危険な出産、夫が意識不明の中での出産、妊婦が出産直後に急変して死亡、女児への性虐待などのつらく悲しいエピソードが繰り返された。

近年、視聴者の機嫌をうかがうような「スカッと解決」「とにかく笑いの要素を入れよう」というエンタメ志向の作品が多い中、当作のベクトルは、まるで医療ドキュメンタリー。リアルとシビアをひたすら追求し、「安易なエンタメ演出はしないぞ」という矜持を感じさせた。少なくとも当作が視聴率とスポンサーを考慮しなければいけない『コウノドリ』(TBS系)が踏み込めない領域まで踏み込んでいたのは間違いない。

ただ、影ばかり描いていたのではないのが当作の凄いところ。つらい現実を目の当たりにしつつ懸命に光を見い出そうとする17歳の主人公、小さく愛おしい赤ちゃんの姿、やわらかな陽光が差し込む病院、のどかで美しい海辺の風景、母性を感じさせる劇伴やエンディング……さまざまな工夫で真っ黒な影を薄め、後味の悪さを感じさせることはほとんどなかった。

主人公のアルバイト看護助手・青田アオイを演じたのは、16歳の清原果耶。そのみずみずしい演技が、未熟なヒロインの純粋さや戸惑い、疑問や憤りに重なり、嘘を排除した作品の世界観にフィットしていた。

この作品も、妊婦役でゲスト出演した女優たちが熱演を披露。安藤玉恵、平岩紙、田畑智子、鈴木杏などの演技派中堅女優にじっくり演じる場を与えたほか、10代の妊婦役に蒔田彩珠、花田優里音、モトーラ世理奈ら新世代の女優を配したキャスティングは見事だった。

重いテーマ、映像美の追求、知名度に左右されないキャスティングなど、あらゆる面でNHKにしかできないプロデュースが見られ、民放との補完性の意味合いは限りなく大きい。「重いからこそ、知名度の低い若手俳優だからこそ生まれる感動があることをひさびさに体感した」という視聴者が多かったのではないか。朝ドラが明るさや知名度の高さを重視するようになった今、『ドラマ10』の目指すところはここだろう。

■2位:クリエイティブファーストを貫いた最高品質ドラマ『dele』(テレ朝系)

菅田将暉

菅田将暉

業界関係者やドラマフリークから、「刑事・医療のシリーズばかり」「中高年向けで若者無視」と揶揄されがちなテレビ朝日が見事に汚名返上。『おっさんずラブ』のヒットがプロデュースの妙なら、当作は情熱と技術を注ぎ込んだプロフェッショナルの仕事が光った。

「何を残すか」より「何を消すか?」にフィーチャーした“デジタル遺品”という現代性の高いテーマ、山田孝之と菅田将暉のダブル主演と2人へのあて書き、6人の脚本家が渾身の物語を持ち寄る競作体制、映像や音楽のディテール。山田兼司プロデューサーが、「『面白いドラマを作る』ということを一直線に目指した“クリエイティブファースト”の希有な企画」と胸を張った類を見ない意欲作だった。

山田と菅田のコンビは、単なるバディを超えた刺激的な関係性を漂わせ、かすかな信頼関係が芽生え、確かな絆に変わっていく過程はリアルであり、映画では味わえない連ドラの魅力があふれていた。

デジタル遺品に宿る人間ドラマも引力十分で、エピソードのバリエーションはこちらの想像を超越。視聴者の感情を大きく揺さぶった上で、含みを残して考えさせる各話の結末も、昨今のエンタメライクな風潮に一石を投じたのではないか。

野田洋次郎、コムアイ、般若らアーティストから、高橋源一郎、小橋賢児、石橋静河まで、枠にとらわれないキャスティングも含め、すべてのピースがピタッとハマった近年まれにみる高品質ドラマ……。ただ、長い年月をかけた努力の結晶だけに、続編を望むのは酷なのかもしれない。

だからこそテレビ朝日には、この作品をプライムタイムで放送して、もっと多くの人々に見せてほしかった。「プライム帯は視聴率、深夜帯は冒険」という割り切ったスタンスは視聴者に見透かされているだけに、『dele』のような力作でその印象を覆してほしい。

■1位:圧巻の最終回。ラストカットまで視聴者を惹きつけた『モンテ・クリスト伯』(フジ系)

ディーン・フジオカ

ディーン・フジオカ

1~3位の順位は迷ったが、決め手になったのは、最終回のカタルシス。やはり3カ月に渡って放送される“連ドラ”では、定型的な一話完結より、終盤に向けて盛り上がる作品を優先させたい。その意味で当作は、今年一番の最終回らしい最終回を見せてくれた。

真海(ディーン・フジオカ)は、南条幸男(大倉忠義)、神楽清(新井浩文)、すみれ(山本美月)を集め、「最後の晩餐会」を開く。かつての悪行を自白させた上で、15年前に行ったサプライズプロポーズの映像を流す深海。さらに復讐をやめることを条件に、再びすみれにプロポーズし、彼女もそれを受け入れた。

しかし、その返事を聞いた真海は、かつての暖に戻ったような笑顔を一瞬浮かべたが、大きく息を吐いて「バンザイ……」とつぶやく。そのフレーズは15年前にプロポーズが成功したときと同じものだったが、復讐の虚しさ、そして復讐劇が終わることを悟る瞬間となってしまった。

深海は3人を解放したあと、自ら火を放って炎に包まれ、「ああ、楽しかった……」とつぶやいたが、自分が満足していないことに気付き、愛梨(桜井ユキ)と土屋(三浦誠己)に助けられる。深海と愛梨の姿が映し出されてドラマは終了―。

視聴者の批判を恐れたような安易なハッピーエンドが大半を占める中、視聴者に「待て、しかして希望せよ」というメッセージを残す、余韻たっぷりのエンディングは味わい深かった。

こうして文章にしてしまうとチープになってしまうが、主人公の心の機微を丁寧に表現したほか、すべての人間関係を回収し、かすかに光を見せるラストまで、黒岩勉の脚色が冴え渡った。

また、ここまで演技力についていろいろ言われることも多かったが、今作におけるディーンの演技は一見の価値アリ。無垢な漁船員から、スマートな投資家、冷酷な復讐の鬼までの落差を演じ切り、最終回はわずかなセリフと表情だけで繊細な感情を表現し、「コンフィデンスアワード・ドラマ賞 主演男優賞」に選出された。

西谷弘、野田悠介、永山耕三の演出陣が手がけるダイナミックかつ洗練された映像、さらに、太田大プロデューサーが「大河ドラマ級」と語ったスケール大のキャスティングも、2018年の1位にふさわしいほどの厚みがあった。

近年、復讐劇の連ドラが大量に制作されているが、当作は一線を画すものであり、「まだ見ていない」という人はオンデマンドでの視聴をおすすめしたい。

その他、フジ系では『コンフィデンスマンJP』『シグナル 長期未解決事件捜査班』『僕らは奇跡でできている』、TBS系では『アンナチュラル』『この世界の片隅に』、日テレ系では『anone』『リピート ~運命を変える10か月~』、テレ東系では『ヘッドハンター』『ハラスメントゲーム』、NHKでは『昭和元禄落語心中』(NHK)などの良作があった。

終わってみれば2018年のドラマ界も力作ぞろいで、ここで挙げたものは一部にすぎない。未視聴のものは年末年始の休みを利用してオンデマンドで視聴してみてはいかがだろうか。

最後に、ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2019年も「多くの人々を楽しませる」「心から感動できる」ドラマをよろしくお願いいたします。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。ウェブを中心に月間20本超のコラムを提供し、年間約1億PVを得るほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。取材歴2000人を超えるタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。