※ドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。
■6位:美化もデフォルメもなし。NHKらしいLGBTドラマ『女子的生活』(NHK)
2018年は「安定した視聴率を得るため」「続編を視野に入れるため」に、一話完結型の作品が大半を占めるようになった反面、登場人物のキャラクターは多様化・細分化。
さまざまな家庭がコーポラティブハウスに会した『隣の家族は青く見える』(フジ系)、多ジャンルのオタクが登場する『海月姫』、生活保護受給者の実態に迫る『健康で文化的な最低限度の生活』(フジ系)など、性格や生き方の異なる人々をフラットな視点から描く作品が目立った。
なかでも多かったのがLGBTであり、その筆頭が『女子的生活』の小川みき(志尊淳)だった。みきは「性別は男性だが、外見は女性。しかし、恋愛対象は女性」という複雑なトランスジェンダー。そのことを秘密にしているものの、ジメジメとしているわけではなく、むしろ「自己肯定感が強く、毒舌を放つ」という愛すべきキャラクターだった。
「かわいい女子的な生活に憧れて田舎から都会へ出て、ファストファッション会社でOLをしている」という点は、どこにでもいる普通の女性。しかし、みきは職場、取引先、合コン、故郷などあらゆる場所で、不寛容な人々や厳しい現実に直面させられる……と、ここまではありがちな設定なのだが、当作はシビアな現状を描きつつも、どこかポップで明るさがあった。
「視聴率」や「スポンサー受け」という不安がないNHKらしく、痛快感ばかり求めたり、美化やディフォルメに走ったりなどの民放スタッフが犯しがちな悪癖は見られず。フラットで決して無理をしない脚本・演出のさじ加減がリアリティを醸し出していた。
自身がトランスジェンダーである西原さつきが監修・出演しただけあって、志尊の演技は表情から発声、所作、ヘアメイクの細部まで見事な仕上がり。私も審査員の一人である「第11回コンフィデンスアワード・ドラマ賞 主演男優賞」を獲得するほどだった。
惜しむらくは、当作がわずか4話で終了してしまったこと。「もっと見たい」という人は少なくなかったが、数カ月後、志尊は朝ドラ『半分、青い。』で漫画家となるゲイの青年を好演した。
■5位:TBSのエースチームが手がけた感動の家族ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)
今夏最大のヒット作となった『ぎぼむす』だが、放送開始前から業界内では、「そうなるだろう」と言われていた。脚本・森下佳子とチーフ演出・平川雄一朗のコンビは、これまで『白夜行』『JIN-仁-』『とんび』『天皇の料理番』らの名作を次々に生み出したTBSドラマのエースコンビ。視聴率以上に視聴者からの評判がよく、登場人物に感情移入させることに長けている。
しかも、現在はTBSの編成企画統括を務める石丸彰彦が当作に深く関与していた。石丸はかつて上記の作品すべてで二人と仕事をした名プロデューサーだ。さらに、ロボット的なキャリアウーマンのヒロインは綾瀬はるかだからこそ支持された感があったが、出世作の『世界の中心で、愛をさけぶ』から『あいくるしい』『白夜行』『MR.BRAIN』『JIN-仁-』『わたしを離さないで』らを手掛け、彼女の魅力を知り尽くしているのもこの3人。まさに“鉄壁の座組”だった。
「ある理由で契約結婚をした仮面夫婦」「一緒に暮らすことで徐々に愛情が育まれていく」という筋書きは、1980年代から見られたもので目新しさはない。しかし、「難病に侵されて娘を託す人がほしい」良一(竹野内豊)と「孤独な人生を歩んできたから家族がほしい」亜希子(綾瀬はるか)、「両親に先立たれて哀しみの淵に立たされた」娘・みゆき(横溝菜帆、上白石萌歌)と「キャリアを捨ててまで娘に愛情を注ぐ」義母・亜希子(綾瀬はるか)の両者が、ぎこちなさを漂わせながら心を通わせていく様子は感動的だった。
契約結婚という設定、火曜22時という放送枠、視聴率の推移などで何かと比較されがちだった『逃げるは恥だが役に立つ』は、「就職難」「派遣切り」「家事対価」など社会派の要素が濃かったが、当作はなし。難しい問題は絡めず、家族愛に絞ったことでヒューマン作としての純度を高めた。
「視聴率が獲れないから」という理由で激減した家族モノであることもドラマ業界全体にとって大きいだろう。それでも5位に留めたのは、原作の4コマ漫画が義母と娘の20年間を描いたのに対して、連ドラは10年間で消化不良なラストだったから。後半の10年間には、さらなる感動が詰まっているだけに、続編制作に期待したい。
■4位:意欲作続く「オトナの土ドラ」の自己ベスト更新か! 『結婚相手は抽選で』(フジ系)
質だけを見れば、秋ドラマの中でNo.1だったのではないか。
「少子化対策のため政府が“抽選見合い結婚法”を制定する。それは25~39歳の独身男女を対象に、年齢プラスマイナス5歳の見合い相手を抽選するというものだった」という設定は、“荒唐無稽なファンタジー”と侮られがちだったが、フタを開けてみたらバリバリの社会派ヒューマン作。コミュ障、潔癖症、オタク、不美人、デブ、LGBT、病歴など、抽選見合いに挑む男女の悩み描写が繊細で、一つ一つのセリフにリアリティが宿っていた。
さらに、見合いで断られながらも女性たちの哀しみを知って行動を起こす主人公の成長物語としても秀逸。最終回で見せた決死のスピーチは、社会派ドラマの締めくくりにふさわしい力強さと希望で満ちていた。
主演の野村周平は、自身のやんちゃな印象とは真逆の役柄を好演。また、彼と対峙した2話ゲストの富山えり子と、3話ゲストの平岩紙が真に迫る熱演を見せて、当作の評価をグッと引き上げた。
今年も「独身女性が結婚を目指す」というステレオタイプなラブコメが多かったことで、相対的に当作の希少価値がアップ。2018年も東海テレビ制作の『オトナの土ドラ』は、『家族の旅路 家族を殺された男と殺した男』『限界団地』などインパクト大の作品を手掛けて独自の存在感を放った。
特に栗原美和子プロデューサー、石川淳一監督ら共同テレビ勢とタッグを組んだ当作は、ストーリーの深みと、映像のクオリティがワンランクアップ。テーマの本質をあぶり出すような、文字通り“オトナ”の試聴にふさわしい作品に仕上がっていた。