転職やUターンなど、住まいを売却する理由はさまざまなケースがあります。自分たちの住まいだけでなく、最近は親が高齢者施設に入居したり、亡くなってしまって空き家になったりして、親の住まいを処分するケースが「実家仕舞い」として、よく話題になります。

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    家を売却する理由にはさまざまなケースがある(画像:マイナビニュース)

住まいを売却する際は、売却して別の物件を購入するのか、親の住まいを引き継ぐために売却だけなのか、また実際に住んでいた居住用の財産であるかどうかで、売却益に対する税金の扱いが異なります。不用意な売却で多大な税金を納めなければならなくなる事態を避けるために、売却に対する知識は大切です。

売却にともなう一般的な費用

仲介手数料

売却するには、不動産会社などに依頼して買い手を探してもらうのが一般的です。知り合いに売却や不動産会社に直接売却などのケースもなくはありませんが、それ以外は仲介手数料が発生します。仲介手数料は次の計算式で算定します。

仲介手数料=(価格×3%+6万円)×消費税率
売買価格を3,000万円とすると
仲介手数=(3,000万円×3%+6万円)×1.08=103万6,800円

印紙税

印紙税とは住まいの売買契約書や住宅ローン借り入れのための金銭貸借契約書などに課せられる税金です。不動産の売買契約書に課せられる印紙税は、2020年3月31日までは税率の軽減措置が設けられていて、下記の表のようになっています。

  • 印紙税(不動産譲渡契約書) (C)佐藤章子

登記費用(抵当権抹消費用・司法書士報酬料)

住宅ローンが残っていれば、残債を返済して抵当権を抹消しなければなりません。抵当権抹消の登記費用は1家屋1,000円で、あまり高くありません。土地にも抵当権があれば1筆当たり同じ1,000円必要です。その他、事前に権利関係を確認するためと事後の確認のために謄本(登記事項証明書)を取得するための手数料がそれぞれ600円ほど必要です。

売買契約、残債返済、抵当権などを一挙におこなうので、司法書士などに依頼するのが無難です。そのための司法書士の報酬料が数万円必要です。

譲渡所得税

家を売却すると売却に伴う譲渡所得が発生します。所有期間が10年を超える居住用財産の場合譲渡所得と譲渡所得税は下記のように計算します。 譲渡金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除3,000万円=譲渡所得金額 譲渡所得税=譲渡所得金額×14.21%(所得税+復興特別所得税10.21%、住民税4%)

取得費とは購入価格ではありません。購入価格と購入に伴う不動産取得税、登録免許税、印紙税の合計から経過年数に応じた償却費相当額を差し引いた金額となります。

また譲渡費用とは、譲渡のための仲介手数料、印紙税、測量費、建物の解体費などです。詳細は国税庁HP「譲渡費用となるもの」を参照ください。

特別控除とは居住用財産を譲渡するときの特例です。ただし、親族への譲渡や一時的な使用のものなど要件に該当しないケースもありますので注意ください。

所有年数で違う譲渡所得税

不動産の譲渡に関する所得税は、所得年数、居住用の不動産であるか否か、で大きく違います。所有期間とは売却した日ではなく、売却した年の1月1日現在でその不動産を所有していた期間ですので、注意が必要です。2037年までは復興特別所得税として所得税額の2.1%が加算されます。

短期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合)
39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)

長期譲渡所得(所有期間が5年超の場合)
20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)

所有期間が10年超のマイホーム 軽減税率の特例
譲渡所得6000万円以下の部分→14.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%+住民税4%) 譲渡所得6000万円超の部分→20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)

マイホームを売却して、新規に取得するときの税金の選択

マイホームを売却して、住まいを買い替えるケースもあります。その場合の税金の選択肢はいくつかあります。

1. 前述の居住用財産を譲渡する際の3,000万円の特別控除を利用する

2. マイホームの買い換え特例を利用する

所有期間10年を超えるマイホームを買い換えた場合は次の特例が利用できます。譲渡益は新しく購入した住まいを売却する際に繰り延べられます。

譲渡価格≦新規購入価格→譲渡所得なし
譲渡価格>新規購入価格→差額が課税対象(土地建物の長期譲渡所得)

土地建物の長期譲渡所得=
譲渡価格-取得価格-(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×(譲渡価格-取得価格)/譲渡価格

3. マイホーム買い換えの損失の繰り越し控除を利用する

住まいを売却した際に、譲渡価格が取得費と譲渡費用の合計より下回った場合、マイナス分を3年間にわたって各年の所得から控除できます。新規に取得する住まいの住宅ローンを借り入れていることなど要件がありますので、この制度を選択する際は、詳細を確認ください。

意外にかかる解体費用

老朽化した家屋が建っている場合は、解体して更地にして売却することが一般的です。その解体費は廃棄物処分の規制が厳しくなり、かなり高額になります。また敷地の測量図がなかったり、隣地や道路との境界線が不明瞭であったりすると、基本的には明確にしなければ売れません。その測量費も必要です。建物の構造や面積、土地の規模などで費用は大きく異なりますが、解体費は一般的に100万円以上かかります。境界線の確認は隣家の所有者や道路管理者などと協議を行わなければならず、時間もかかります。

取得初期の費用などは、販売者や住宅メーカー、建設会社に詳しく問い合わせましょう。正確に諸費用などを提示できないところは、安心できません。また、維持管理などは自分でできる範囲をこまめに行うことによって、費用を抑えることが可能です。せっかくのマイホーム、大切な資産ですので、愛情をもって管理していくことが費用を抑えるポイントです。

■著者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。