今や人生100年を想定して人生設計が必要と言われています。厚生労働省の調査によると2017年の日本人の平均寿命は女性が87.26歳、男性が81.09歳だそうです。これらの数値はあくまで平均ですので、それよりも長生きされる方も半数くらいはいる勘定です。女性などは普通に100年に達することが考えられます。

生きている限り、住まいは必ず必要なものですので、住まいに関する計画も当然人生100年を想定しなければなりません。今回は「購入」することを前提に、人生100年にどう向き合えばよいかを考えてみましょう。

住まいは資産である

大切な預貯金から頭金をねん出し、多額の住宅ローンを借り入れて手に入れる住まいは、「資産」でなければなりません。

「資産」の意味は、いろいろ活用できるということです。必要であれば売却や賃貸物件として現金化したり収益を得たりができなければなりません。そのためには、性能の良いもの、市場性の高いものを手に入れることが何よりも大切なのです。もちろん日ごろの維持管理も大切です。

現在の年齢と建物の耐用年数の関係

子供のない老夫婦が新築物件を購入する意味は、あまりありません。ただしどちらか一人になった時は施設に入居する予定であれば、入居資金にするために売却なども想定した物件である必要があります。

また、20代の新婚夫婦が入居するのであれば、人生100年を想定すれば、どこかで買い替えるか、建て替えることを想定しなければなりません。購入者の年齢と建物の築年数は密接な関係があります。

子供に故郷を与えよう

これは、いつも住まいを考えるときに強調しているのですが、故郷を持つということはとても大切なことです。住み替えたり、購入したりするときは、「子供の学校を変えなくても済む場所に」とは、親であればだれもが考える点ですが、もっと積極的に子供の故郷のことを考えてもよいと思います。

自分の人生100年だけでなく、子供の人生にとっても住まい選びは大切です。なにも同じ建物を継承することばかりではありません。住み替えたり、子供が独立したりするときにも同じ地域で物件が選べる地域がベストです。

住まいの耐用年数とリフォーム費用

住まいは購入しておしまいではありません。定期的なメンテナンスとその費用は必要ですし、私が住むマンションでも多くはリフォームも行っています。購入後の維持管理に対する考え方をマンションと戸建てに分けて考えてみましょう。

マンション編

(大規模修繕)
マンションは毎月修繕積立金が徴収されます。購入時に一部を一括で支払うケースもあります。10数年毎に大規模修繕が行われますが、積立金でまかなえない場合は不足分がその都度徴収されます。

大規模修繕費で注意するのは、規模が大きいと割安だということです。50戸と250戸のマンションでは1住戸当たりの修繕費には大きな違いがあります。また大規模だと、住民の中に建築関係のプロが住んでいる確率も高くなり、見積もりや工事へのチェック機能が働きます。

大規模修繕費は特別なケースを除き、1住戸当たり30万~120万円程度です。我が家は200世帯以上ありますので、30万円台で、月々の積み立てで十分に賄え、かなりの金額をいずれ建て替えの時の解体費などに蓄えています。

中古物件を購入する場合は、次回大規模修繕の時期の見込みと修繕積立金の残高は必ずチェックしてください。購入してすぐに大規模修繕となり、修繕積立金の不足分を支払う事態は避けたいものです。

(住戸内リフォーム)
そのほかに、住戸内のリフォームがあります。個々に大きく異なりますが、新築で若い頃に初めて購入して、生涯住み続けるとなると大きなリフォーム1回とそれに準じるリフォーム1~2回は必要かもしれません。

「内装が痛んだ」「設備が古くなった」「子供が独立した」「自宅で仕事をするようになつた」など、老朽化や生活スタイルの変化によってリフォームが必要となります。規模や考え方によって全く異なりますが、総リフォーム1,000万円、設備交換も含めたリフォーム500万円、部分リフォーム30~300万位など、できれば知人等のケースを参考に目安を立てることをお勧めします。60年間で総リフォーム費が600万円必要とすると年間10万円、月々約9,000円程度は必要となります。最後の数10年は、リフォームは不要ですので、50年で割り振ると月々1万円程度はリフォーム準備金として用意が必要でしょう。

(耐用年数)
鉄筋コンクリートの耐用年数は、一般的には60年~100年位です。長寿命化を考えて設計されているかどうかや日々のメンテナンスでも大きく違います。しかし分譲マンションの場合は、実質、住民の建て替え決議で寿命が決まります。まだ十分に使えても、自分は建て替えたくなくても、議決権総数の5分の4の賛成があれば議決されてしまいます。

戸建編

(修繕費)
修繕はこまめに行った方が、はるかに低コストで行えます。住宅メーカーでは定期点検や長期のメンテナンス契約などで、建築後も工事店が修繕を行う傾向ですが、同じ木造戸建て中心のアメリカではメンテナンスの主軸は住み手であり、日本も昔はそうだったはずです。簡単な修繕は自分たちでもできるようになればコストは大幅に削減できます。

また、政府は住宅の長寿命化に長年取り組んできました。短期間で建て替えられる日本のスタイルが、地球環境保全面から問題視されてきたからです。私もカナダの製材工場に視察に行ったとき、工場側から日本の木材に対す意識にたいして、不満を言われたものです。

下図は、長期優良住宅の建設費と修繕費のイメージです。長期優良住宅の寿命は一般の住宅の4倍程度とすると、長期優良住宅1回建設する年数の間に一般住宅は4回建て替わります。コストは反対に2分の以下です。仮に200年維持するとしたら、子供や孫の世代は新規住宅取得費を考えなくても済み、その分、老後の準備に回せるでしょう。建築図書や修繕・リフォーム履歴の保管が義務付けられていますので、売却も有利です。

最近の住宅メーカーの品質は、ほぼそのままでも長期優良住宅の性能に近いレベルに達しています。そのために長期優良住宅の建設費は極端に高くなるものではありません。

  • 長期優良住宅のコストイメージ

(リフォーム費)
住宅のリフォームに対して、最初に考えなければならないのは、構造面の強化です。もともと新耐震基準で建てられた住宅は、その性能を維持した上で、使いやすくリフォームすることが大切です。旧耐震で建てられた住宅は、耐震補強を最初に考え、その次に設備の刷新や間取りの改善などが順序です。リフォームのためのローン控除などの優遇措置は、耐震補強がメインに考えられています。

リフォームの費用は、当初の間取りの柔軟性やそれぞれの生活スタイルの違い、日々のメンテナンスの違いなどにより、大きく違います。現在の住まいをチェックして、子供が独立したら、リタイアしたら、どう改善する必要があるかを考え、あらかじめリフォーム費用の概算を把握し、毎年積み立てていってください。

建物の建築費が2,500万円とすると、毎年建築費の1%ずつを積み立てると10年で250万円のリフォーム費が準備できます。20年後にリフォームするとすれば500万円となります。リフォームしたい内容にたいする準備として金額が不足するようであれば、毎年の積立金額を増やす必要があります。

■著者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。