『ゴジラ』をはじめとする東宝怪獣・特撮映画で使用された貴重な造形物や、精巧に作られたレプリカを間近で見ることのできる絶好の機会が到来した。2018年12月19日から2019年1月27日まで、東京・蒲田にある日本工学院専門学校「ギャラリー鴻」にて、「特撮のDNA -『ゴジラ』から『シン・ゴジラ』まで-」と題された展示会が催されている。

『株式会社JTBコミュニケーションデザイン』による「特撮のDNA」展は、これまでに福島(2016年)、兵庫(2018年)、佐賀(2018年)で開催され、いずれも大人から子どもまで幅広い世代のゴジラファン、特撮ファンが多数来場し、大盛況となった。今回、初の東京での開催となった「特撮のDNA」展の会場は、2016年に公開されて大ヒットを飛ばした『シン・ゴジラ』でゴジラの第二形態が襲撃したゆかりの地である「蒲田」が選ばれた。

入場者を出迎える役割を担ったのは、『シン・ゴジラ』の“主役”というべきゴジラ(第四形態)の巨大モデルである。『シン・ゴジラ』では、ゴジラの表現に従来のモンスター・スーツ(ぬいぐるみ/着ぐるみ)を使用せず、フルCGによってその生命が与えられた。「現実にはありえないものを具体化し、映像として表現する」ことが「特撮」の定義であり、そういう意味ではCGも特撮の技法のひとつに含まれるものだといえる。

『シン・ゴジラ』ゾーンを通り抜けると、いよいよ東宝怪獣・特撮映画の歴史をさまざまな造形物によってふりかえる展示エリアに突入する。記念すべき特撮怪獣映画の原点『ゴジラ』(1954年)の展示コーナーには、劇中で使用された小道具「オキシジェン・デストロイヤー(液体中酸素破壊剤)を中央に収めたカプセル」や、ゴジラが襲撃した東海道線の車輛ミニチュアなどを見ることができる。

ゴジラ最大・最強のライバルとして、初登場の『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)以来何度も地球を襲った宇宙超怪獣キングギドラ。その頭部レプリカが展示されているのは、キングギドラの2度目の襲来を描いた『怪獣大戦争』(1965年)のコーナーである。地球連合宇宙局の探査ロケット「P-1号」のミニチュアや、宇宙服のヘルメット、そしてゴジラ、ラドン、キングギドラを操って地球侵略を狙うX星人の乗る円盤(レプリカ)などが展示されている。

続いては、1960年代、1970年代に巻き起こった「怪獣ブーム」を受けて、人類の恐怖から子どもたちのヒーローに転じていったゴジラを主役に据えたシリーズを中心としたスペース。ここで注目を集めたのは、『メカゴジラの逆襲』(1975年)でゴジラを相手に激しい戦いを繰り広げたメカゴジラ2号機(1号機とは胸部の形状が異なるほか、フィンガーミサイルに改良が加えられている)の撮影用スーツである。ゴジラを模していながら、凶悪な顔つきや全身のフォルムに強い個性を持たせたメカゴジラは、一躍人気キャラクターとなった。

『メカゴジラの逆襲』以来、9年ぶりに“復活”を遂げた『ゴジラ』(1984年)を転機として、それまで子どもたちの味方だったゴジラが、ふたたび人類が作り出した文明社会を脅かす脅威に再度イメージチェンジを行った。そして5年後には新感覚のゴジラ映画『ゴジラVSビオランテ』(1989年)が誕生したことがきっかけとなり、ゴジラはキングギドラやメカゴジラ、スペースゴジラといった強敵からの挑戦を受けることになる。これらの作品群は「平成ゴジラVSシリーズ」と呼ばれ、1995年に『ゴジラVSデストロイア』でゴジラが壮絶な“死”を迎えるまで、日本のお正月ファミリー映画の覇者として君臨し続けた。

1996年~1998年の『モスラ』三部作に続き、来たるべき新世紀に向けた新しいゴジラ映画を目指して『ゴジラ2000ミレニアム』(1999年)が公開された。『ミレニアム』以後のゴジラ映画は「ミレニアムシリーズ」と総称され、1作ごとに独自の世界観を打ち出すことによってゴジラの持つさまざまな可能性を探っていこうとする使命を担った。『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)と『ゴジラ モスラ メカゴジラ 東京SOS』(2003年)では3代目のメカゴジラ「3式機龍」が登場。初代ゴジラの骨をベースにして作られた生体ロボットという設定の機龍は、その洗練されたカッコよさを秘めた外見の魅力だけでなく、悲壮なるドラマを背負った怪獣キャラクターとして特撮ファンから熱烈に愛されている。

奥に設置されたスペースには、『ゴジラ2000ミレニアム』のゴジラやモスラを中心にした、迫力満点のフォトスポットが作られた。暗い海面には、骨を残して海に没した初代ゴジラをモチーフにした巨大ジオラマが配置されている。

ここからは、展示物の中から目立ったものをピックアップして、ひとつずつ紹介していこう。こちらのゴジラはシリーズ第2弾『ゴジラの逆襲』(1955年)時期、造形師の利光貞三氏と、ゴジラのスーツアクションを務めていた中島春雄氏が製作したラテックス(合成ゴム)製のモデルをもとに、FRPで忠実に再現したものだという。

『大怪獣バラン』(1958年)で大暴れしたバランの飛行用人形。ゴジラの破壊力とラドンの飛翔力を受け継いだかのようなバランは、両腕と両足の間に張った被膜を広げ、上昇気流に乗ることによって空中を高速で飛行することができる。展示物は撮影当時のオリジナル飛行モデルをラテックスにて再現している。

海底で文明を築いたムウ帝国との戦いに勝利した『海底軍艦』(1963年)の轟天号。撮影用のオリジナルミニチュアをもとに、FRPと金属を用いて製作された。東宝特撮映画屈指のスーパーメカニックの勇姿をぜひ間近で見ていただきたい。

『怪獣大戦争』(1965年)よりX星人の円盤。当時はUFOという言葉よりも「空飛ぶ円盤」のほうがポピュラーだった。こちらのモデルも撮影用オリジナルモールドから、実際のミニチュアに忠実にレプリカが作られている。

『怪獣総進撃』(1968年)のムーンライトSY-3号乗組員が被っていたヘルメット。後に『ノストラダムスの大予言』(1974年)でニューギニア調査団の放射能遮断服ヘルメットに使われたため、銀色に塗装されている。

『メカゴジラの逆襲』(1975年)より、メカゴジラ2号機の勇姿をさまざまなアングルからお楽しみいただこう。

ファンタジー要素を含む痛快SFアクション作『緯度0大作戦』(1969年)に登場する合成怪獣グリホンの頭部。ライオンの背中に鳥の羽根が生えているグリホンには中島春雄氏が入り、野獣の凶暴性をうかがわせる名演技を披露した。

『ゴジラ対メガロ』(1973年)でゴジラの味方となってメガロ、ガイガン組と戦う正義の電子ロボット・ジェットジャガーは、現存するオリジナルの頭部と、飛行用ミニチュアモデルを展示。

『メカゴジラの逆襲』より。恐竜怪獣チタノザウルスの頭部と、メカゴジラ2号機の体内に隠されていた「人工頭脳」。いずれも撮影で使用されたオリジナルの造形物である。

『メカゴジラの逆襲』以来、9年ぶりの新作となった『ゴジラ』(1984年)では、第1作にも通じる“恐怖のゴジラ”を甦らせるべく、粘土による検討用モデルを製作。これをベースにして、5メートルもの巨大な“サイボットゴジラ”とスーツが作られた。展示されているのは、FRP製のゴジラひな形モデル(全高約1メートル)で、スーツのイメージに合わせてディテールアップされている。

川北紘一特技監督による『ゴジラVSビオランテ』(1989年)で、ゴジラのスタイルは頭部が小さく、下半身がどっしりとした重厚かつ戦闘的なものに変化した。以後、『ゴジラVSデストロイア』(1995年)まで6作品にわたって活躍した通称「平成VSゴジラ」は、現在TOHOシネマズ日比谷に置かれているゴジラ銅像や、TOHOシネマズ新宿最上階にある巨大なゴジラヘッドと外見の印象が共通している。

『ゴジラVSメカゴジラ』(1993年)に登場したメカゴジラの頭部(オリジナルモールドから製作されたレプリカ)と、造形用のひな型モデル。かつては宇宙人の侵略兵器だったメカゴジラは、本作では国連G対策センターに属する対ゴジラ部隊「Gフォース」が操縦する巨大ロボットという設定となった。

『ゴジラVSスペースゴジラ』(1994年)に登場した、リトルゴジラ。『ゴジラVSメカゴジラ』のベビーゴジラが成長したという設定で、愛嬌たっぷりの動きが特徴である。

ゴジラシリーズに代わって1996年より『モスラ』の新シリーズが始まった。写真はシリーズ第2作『モスラ2 海底の大決戦』(1997年)に登場したレインボーモスラ。

新『モスラ』3部作のあとを受けて公開された『ゴジラ2000ミレニアム』(1999年)では、ゴジラ造形をMONSTRESの若狭新一氏が担当し、巨大な背ビレ、大きく裂けた口というようにゴジラのスタイルを大胆なまでにリニューアル。鮮烈な印象を観客に与えている。展示されたのは、水中での撮影に用いられた上半身のみのスーツ。

平成『ガメラ』シリーズで特撮ファンに注目された金子修介監督が手がけた初のゴジラ映画は『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)。映画では、バラゴン、キングギドラ、モスラの3怪獣が巨大なゴジラに挑んでいるが、企画段階ではキングギドラとモスラではなく、アンギラスとバランが登場することになっていた。造形師・品田冬樹氏が検討用に製作していたアンギラス、バラン、バラゴンのモデルが今回展示されているほか、オープニングタイトルの背景として作られた「ゴジラの表皮」「キングギドラのウロコ」も展示された。

『大怪獣総攻撃』に登場した史上最恐・最凶のゴジラ頭部(オリジナルモールドからのレプリカ)。人間の感情移入を拒絶する“白眼”がこのゴジラの大きな特徴である。

『ゴジラ×メカゴジラ』に登場した、メカゴジラこと「3式機龍」。撮影用オリジナルスーツが展示されている。

『ゴジラ×メカゴジラ』の水中撮影用に使われた、ゴジラの上半身スーツ。『ミレニアム』『×メガギラス』のゴジラより頭と背ビレが小さくなり、より洗練された印象を受ける。

『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』に登場した怪獣カメーバ(撮影用オリジナル)。カメーバはかつて『ゲゾラ ガニメ カメーバ 決戦!南海の大怪獣』(1970年)で活躍した大ガメ怪獣で、異例のゲスト抜擢となった(ただし残念なことに死体役だったが)。

ここより東宝が製作した特撮テレビ作品のコーナーへ。『行け!ゴッドマン』(1972年)『行け!グリーンマン』(1973年)や『電脳警察サイバーコップ』(1988年)、『七星闘神ガイファード』(1996年)、『超星神グランセイザー』(2003年)といった作品群のヒーローマスクや小道具(武器)などが展示されている。

怪獣ブームの絶頂期に製作された『流星人間ゾーン』(1973年)より、ヒーローのゾーンファイター(飛行シーン用ミニチュア、マスク&ボディ)、そしてゾーンファミリーの仇敵・ガロガバラン星から来たガロガ(頭部)。『ゾーン』はゾーンファイターの頼もしい味方としてゴジラがセミレギュラー出演しているほか、キングギドラ、ガイガンといった東宝の映画スター怪獣がテレビに進出したことでも知られる特撮ヒーロー作品である。

怪獣造形のテクニックを解説するコーナーの脇には、実際に手で触れることのできる「ゴジラの足」が置かれている。怪獣の質感を確かめる、またとない機会だといえよう。

内覧会後半では、『ゴジラ2000ミレニアム』をはじめ、多くの作品で怪獣造形を手がけた若狭新一氏によるギャラリートークが行われた。ゲスト来場者は若狭氏のエネルギッシュな解説を興味深く聞きつつ、生物感に満ちたゴジラやさまざまな怪獣たちの造形の妙味に目を見張っていた。

「特撮のDNA -『ゴジラ』から『シン・ゴジラ』まで-」は2018年12月19日から2019年1月27日まで、日本工学院専門学校「ギャラリー鴻」にて開催中。本展示会にあわせて大田区の交通各社と連携した「スタンプラリー」を実施しているほか、『シン・ゴジラ』のロケーション撮影地でもある蒲田での開催を記念した「プレミアムチケット」の販売も行っている。

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