日本で働く外国人労働者の数は年々増えており、10月には届け出義務化以来、過去最高となる約128万人を記録しました(厚生労働省の発表より)。

出入国管理法改正の影響もあり、これからもさらに外国人労働者は増えていくでしょう。今は職場に外国人がいなくても、そう遠くない将来、外国人の同僚ができるのは間違いありません。

  • 外国人の同僚と働くとき、何を注意するべき?

一方で、文化の異なる外国人とどう接すればいいのかわからず、不安に感じている人もいるかもしれません。日本とは異なる宗教・文化を持つ仲間とどう付き合っていけばいいのか。

注意すべき点は何か。異文化コミュニケーション研修を提供する、リンクグローバルソリューション 代表取締役社長 一色顕(いっしき・あきら)さんと、水上将人さんに聞きました。

外国人の同僚は何が違う?

――外国人の同僚ができたとき、日本人が一番違和感を覚えるのはどういった点でしょう。

一色さん「よくいわれるのは、外国人の同僚からの『それは僕の仕事じゃないです』という発言です。外国人は自分自身の専門スキルをいかせる業務に集中したい、と考えているケースが多く、それが日本人から見るとチームに非協力的に映ることがあるようです。

ですが、それは自分勝手で、チームプレーができないわけではないんです。そもそも専門スキルを評価されて、それをいかすため入社したという認識なので『それ以外の仕事に関しては自分は適任ではない』『チームとして効率的ではないからやるべきではない』という考え方なのです」。

  • リンクグローバルソリューション 代表取締役社長 一色顕(いっしき・あきら)さん(右)と、水上将人さん(左)

――そもそも仕事の責任範囲に対するスタンスが違うのですね。

一色さん「あえてステレオタイプ的にいうと、日本の会社組織はアメーバ式、日本以外の多くの国ではテトリス式と分類できます。アメーバ式は『自分の責任範囲は、時には融通を利かせて、担当領域を超えてでも、組織やチーム全体に対して貢献すること』という考え方、テトリス式は『自分の担当業務に専念して専門性をあげていくことが自分の責任範囲であり、チームへの貢献である』考え方です。

どちらが優れているというわけではありませんが、世界的に見ると特殊なのは日本のスタイルです。

よく『日本VS海外』『日本VS欧米』とくくられがちですが、そうではありません。そもそも『グローバルの中の日本』です。日本の仕事や組織に対する価値観や文化、コミュニケーションスタイルは、世界の国の中で突出して変わっているという認識をもつべきです。

日本の組織に多く見られる責任範囲に対する考え方を規定しているのは世界に類をみない新卒一括採用システムです。専門スキルを持たない新卒社員を採用し、入社後に育てること前提にすると、組織の中の責任範囲や役割分担、働き方はアメーバにならざるを得ないのです。

一方、海外企業では求められる仕事・専門スキルベースで採用が行われるため、組織のつくりかたもテトリス式になります。逆にいうとスキルがないと入社できないため、特に若年層の失業率は高くなりがちです」。

外国人社員には全て説明する

――そうした違いを踏まえた上で、外国人の同僚に対して注意すべき点は何でしょうか。

一色さん「もっとも重要なことは、彼ら彼女らの言い分を背景と共に客観的にとらえ、理解してあげることです。すぐに評価を下さない。そのうえで、必要なことは言葉でしっかり説明することです。日本はハイコンテクストな文化で、あ・うんの呼吸で通じることが多い。

『1を聞いて10を知る』という言葉もあるくらいです。ところが海外の多くの国、特に英語圏はローコンテクストな文化です。『1を聞いたら1を知る』『10を知らせたいなら10を伝える』が原則です」。

水上さん「外国人の同僚に対して、日本はとにかく説明不足になりがちです。とある流通系の企業で外国人新卒採用を行った際、『冷凍庫に入って仕分けをする作業』『たびたび残業が生じる』を理由に、入社後に多数の外国人社員が辞めてしまいました。

『業務では、冷凍庫に入って在庫整理する作業が発生することもある』『お客様からのオーダーに応えるために残業が発生することがある』といったことを明確に説明していなかったことが原因です」。

  • 水上さんは企業の外国人社員採用をサポートしている

――重要な事項であるほど後で取り返しのつかない事態になりそうですね。

一色さん「たとえば企業のトップが全社員に『会社の生産性を上げよう』と伝えたとします。実は、日本人社員には当たり前のテーマかもしれませんが、外国人社員には非常にナーバスに受け取られる可能性があります。なぜなら『会社の生産性を上げる』方法の1つとして、人員整理があります。人件費を下げれば、生産性は上がります。

ですが、法律はもちろん、終身雇用的な雇用慣習が強いこともあり、日本人はあまりそういう発想をしません。しかし、外国人にはそうとは限らず、解雇や降給といったことを常に意識しているケースもあります。ですから『生産性を上げよう』と伝えるのであれば、そこに具体的な方法、たとえば『時間あたりの売り上げを増やす』『高単価の商品の売り上げをあげる』『人件費以外のコストを下げる』などを伝える必要があります」。

――たしかに大変ですね。意識していても思わぬ失敗がありそうです。

水上さん「とにかくコミュニケーションをとればいいのです。『変なことを言って問題になったらどうしよう』と心配してコミュニケーションが減ってしまうのが問題です。一度伝えて誤解されても、それを踏まえて、もう一度伝えればよいだけです。伝達不足だった点は補足していけばいいのだと思います。説明さえしっかりすれば、文化の違いなどからくる誤解も次第に解消できます」。

外国も様々な人がいることを認識

――そういったコンテクスト文化は国によっても程度が異なるのでしょうか。

水上さん「国ごとの特徴は明らかに存在します。たとえばもっともハイコンテクストな国は日本ですが、実はタイや中国、韓国もハイコンテクストなコミュニケーションが多い国だといわれています。逆にもっともローコンテクストな国はオランダです。

そうなると日本人とオランダ人との間のコミュニケーションは相性が悪いように思われるのですが、そうとも限りません。ハイコンテクストとローコンテクストの間のコミュニケーションは、ハイコンテクスト側がローコンテクストに落としてコミュニケーションするしかありませんので、問題はシンプルです。

逆に中国や韓国などは、日本と同じハイコンテクストです。このハイコンテクスト同士の場合、コンテクストの中身が全く違うにも関わらず、コンテクストを明確に伝える習慣やスキルを双方が持たないため、トラブルになりやすい面があります」。

  • リンクグローバルソリューションも多数の外国人の従業員がいるため、社内コミュニケーションにもケアが必要と話す一色さん

――国によって千差万別なのですね。

水上さん「注意していただきたいのは、今のような話から『この国はこうである』と思いこみすぎないことです。日本はハイコンテクストで、オランダはローコンテクスト。それならオランダで育った日本人はどうなりますか?

実は、私はハワイで生まれ、18歳まで暮らしていました。両親は日本人で、家の中は日本、一歩外にでるとアメリカという環境で育っています。ですから、典型的な日本人でもないですし、もちろん典型的なアメリカ人でもありません。

たとえば、私はどちらかといえば自分の専門スキルや担当領域にこだわりたいテトリスタイプの人間です。一方で、幼少期から日本語の敬語は教わってきたので、アメリカ人のような年代や役職を超えた平等性はあまり肌に合わない(笑)」。

――たしかに、一概に判断できませんね。どうすればいいのでしょうか?

一色さん「重要なのは、文化や価値観、考え方の違いがあることを前提に、目の前の人としっかり向き合うことです。国ごとの特性も知っておいた方がいいとは思いますが、それに振り回されて、『この人は○○国の人だから』とステレオタイプに捉えたり、コミュニケーションをとらないで決めつけたりすること、が最も良くないことです

日本人も千差万別です。ただ世界と比べると文化や価値観の違いの幅は狭い。だから日本人には異文化の相手と交わる筋力がついていないことが多い。ぜひ、異文化の外国人に自らコミュニケーションを取り、その筋力を養ってほしいと思います。そうすると自分の世界も広がっていくのではないでしょうか」。


外国人の同僚とうまく付き合っていくために大事なのは、文化的背景からくる違いを踏まえた上で細かいことでもしっかりと説明すること。しかし、それ以上に大切なのは、目の前の人を安直なステレオタイプで決めつけず、一人の人として向き合うことでした。

もし、職場に外国人の仲間がやってきたら、今回の記事を参考にコミュニケーションしてみてください。