「労災」という言葉をご存知でしょうか? 労災とは「労働災害」を指し、仕事が原因で、ケガをしたり病気になったりすることです。

この連載では、労災かそうではないか判断に迷う読者の悩みを紹介します。

Q.出張中に宿泊先のホテル内でケガをした。これは労災になりますか? (埼玉県・男性・会社員・52歳)

A.業務災害として認められる可能性が高いです。

  • 出張先のケガは労災か?

判断基準は、業務遂行性と業務起因性

この結論は、意外に思われる方が多いかもしれません。

労災といえば、「通常の業務中に機械に指を挟まれてケガをした」というような業務災害が典型的な例で、分かりやすいですね。

どのような条件で労災として認められるのか、少し理屈を説明しましょう。

まず、業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡をいいます。

そして、業務災害として認められるには、業務遂行性と業務起因性という2つの要件を満たす必要があります。

労災の要件を簡単に解説

簡単にいうと、業務遂行性とは、労働者が使用者の指揮命令下にある状態をいいます。業務起因性とは、業務が原因となって傷病等が発生したことをいいます。

つまり、冒頭の「通常の業務中に機械に指を挟まれてケガをした」というケースにあてはめると、

「通常の業務中」=労働者が使用者の指揮命令下にある状態であり

「機械に指を挟まれてケガをした」=業務が原因となって傷病が発生した

ということで業務災害が認定されるわけです。

出張過程は、まるごと業務災害

それでは、出張中のホテルでの傷病、たとえば浴室での転倒だとかレストランでの食中毒などは、どのように判断されるのでしょうか。

じつは、労災保険では、出張については独特な考え方をしており、出張中は特段の事情がない限り、出張過程の全般について事業主の支配下にある(つまり業務遂行性がある)、と判断されます。

出張過程の全般ですから、自宅から出張先に直行する経路で事故に遭った場合も通勤災害ではなく、業務災害とみなされますし、業務終了後のホテル内での入浴中であっても業務災害とみなされます。

業務そのものではなくても、出張という業務に付随する行為と認められる(つまり業務起因性がある)からです。出張中は「まるごと業務災害」と考えてよいでしょう。

ちなみに、出張以外でも、職場の休憩中などで、会社の施設環境やその管理に原因があるケガなども、業務起因性が認められて業務災害とされる可能性が高いです。

積極的な私的行為は対象外

しかし、あまりに私的行為が行き過ぎて「泥酔状態で転倒した」「夜の歓楽街で長時間遊んでいる最中にケガをした」場合は、さすがに業務災害とは認められません。

くれぐれもハメを外さぬよう、ご注意ください。

著者プロフィール : 米澤 実(よねざわ みのる)

社会保険労務士事務所 米澤人事コンサルティングオフィス代表
千葉県船橋市出身。株式会社リクルート(現リクルート・ホールディングス)でクリエイティブディレクター、ライン組織マネジメント、グループ企業の人事部長を経て、2010年独立。現在は「元気で強い成長企業の実現を支援する人事労務コンサルタント」として活動している。