かくしてモモタロスの力を使って電王 ソードフォームへの変身を遂げた良太郎だったが、これ以降もさらなるイマジンが彼のもとにやってくる。第5話からは、口が達者で人を騙す技術に長けており、中でも女性の心をトリコにしてしまうナンパテクニックが抜群なウラタロス(声:遊佐浩二)が登場し、第9話からは曲がったことが大嫌いで人情家のキンタロス(声:てらそままさき)が良太郎と遭遇。そして第13話では、子どものように無邪気で少し危うい性格のリュウタロス(声:鈴村健一)が現れ、結局良太郎はこれらのイマジンにかわるがわる憑依されることになった。モモタロスが入れば粗暴になり、ウラタロスが入れば口の巧いプレイボーイ(電王 ロッドフォーム)に、キンタロスが入ると武骨なガンコ者(電王 アックスフォーム)に、リュウタロスが入ればストリートダンスを得意とする都会派の若者風(電王 ガンフォーム)となる。

ここで特筆すべきは、良太郎を演じる佐藤健の見事な演技力だろう。当時の佐藤はまだ17歳という若さで、『電王』がテレビドラマ初主演作だったのだが、ベースとなる良太郎、およびモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスとまったく性格の異なる5つのキャラクターを巧みに演じ分けてみせ、視聴者はもちろんのこと製作スタッフ陣をも驚かせた。放送から10年以上を経た現在、佐藤は日本を代表する若手俳優のひとりとしてテレビドラマや映画で大活躍を続けているが、その才能の輝きは『電王』の良太郎役において、すでに確認することができる。

そして、4体のイマジンの「演技」を担当した高岩成二(モモタロス)、永徳(ウラタロス)、岡元次郎(キンタロス)、おぐらとしひろ(リュウタロス)と、「声」を担当した関俊彦、遊佐浩二、てらそままさき、鈴村健一のコンビネーションも、熱烈な『電王』ファンを生み出す要因のひとつとなった。イマジンたちがデンライナーの食堂車でくつろぎながら、ほんとうに他愛もないことがきっかけで派手なケンカに発展したり、食堂車従業員のナオミ(演:秋山莉奈)の入れた独特な色味をしたコーヒーを味わったりする日常のシーンは、回を追うごとにどんどん深みを増していき、だんだんと本作にとって欠かすことのできない重要なものになっていった。常にひょうひょうとした態度でモモタロスたちの騒ぎを静かに見守りつつも、時の運行を乱す者には厳しいルールを貫きとおすオーナー(演:石丸謙二郎)の、ミステリアスかつコミカルな存在感も重要である。

また、電王のフォームチェンジをすべて1人で演じ分けたスーツアクター・高岩成二の卓越した表現力、演技力も『電王』という作品を語る上で外せない魅力といえる。さらに高岩は4フォームだけでなく、"てんこ盛り"と称されるモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスがまとめて良太郎の身体に憑依した「クライマックスフォーム」も演じており、たったひとりで4体分の芝居をこなすという超絶演技を披露し、視聴者を魅了した。

歴史改変を企むイマジンたちは未来から現代に来る際に実体を失っており、目をつけた人間の"願い"を叶えることで「契約」を完了して、初めて実体化することができる。身体を得たイマジンは契約者の"記憶"がもっとも強い過去に飛び、そこで破壊の限りを尽くすが、時の運行を守る使命を担う電王はデンライナーで同じ時代に向かい、イマジンと戦うのである。デンライナーは時の流れを走り続けるだけでなく、イマジンとの戦闘でも大活躍を見せる。電王はデンライナーの先頭車輛にある「マシンデンバード」と呼ばれるバイク型コントローラーで操縦を行い、巨大化したイマジンを攻撃するのだが、マシンデンバードは車輛から分離して、猛スピードで走るオートバイとしても使用することが可能。このあたり、電車に乗る仮面ライダーでありながら、仮面ライダーの基本要素というべきバイクアクションへの配慮も行き届いているというべきだろう。

奇抜な設定や魅力的なキャラクター同士のかけあいが目立つ本作だが、毎回のエピソードに登場するイマジンの契約者(ゲスト)にまつわる切ない"過去"の出来事や、良太郎を優しく見守る姉・愛理(演:松本若菜)の記憶から欠落している婚約者・桜井に関する"謎"など、ストーリー面での魅力も決して外すことができない。第19話からは愛理の婚約者と同じ名前を持つ謎の男・桜井侑斗(演:中村優一)が本格的に活躍を始め、ゼロノスカードを使って仮面ライダーゼロノスへと変身し、イマジンとの戦いに臨んでいる。共にイマジンと戦っている良太郎とも距離を置こうとするクールな性格の侑斗だが、やたらと彼の世話を焼くイマジンのデネブ(声:大塚芳忠)とのコンビは、まるで親子(例えるなら、世話好きの母親とヤンチャな息子)のような、ほほえましい空気を感じさせている。

第23、24話は2007年8月4日公開の映画『劇場版 仮面ライダー電王 俺、誕生!』とリンクするエピソードとなっており、高貴なイマジン・ジーク(声:三木眞一郎)が登場。映画における「電王ウイングフォーム」への変身につながっていく。ジークは登場回数こそ少ないものの、人の話をまったく聞かず自分の世界に陶酔するという極端な性格が強いインパクトを残し、人気キャラクターの仲間入りをしている。また第37話からは、イマジンの首領的存在の青年カイ(演:石黒英雄)が登場。冷酷なカイは自分自身の"未来"を手に入れるべく、「分岐点の鍵」となる人物を探して抹殺しようと企んでいる。桜井侑斗(現代)が命を懸けて守ろうとしている、その人物とは誰なのか?というミステリアスなストーリー展開も、視聴者の興味をひいた。

本作は「人間の記憶こそが時間」というテーマのもと、良太郎とモモタロスたちがはぐくんでいく友情の描写や、イマジンに狙われた被害者(契約者)たちそれぞれのエピソードなど、一貫してヒューマニズムを重視したほろ苦くも優しさのあるストーリー展開が、大いなる魅力となった。最終回(第49話)を迎えてなお、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュタロス、デネブを中心とするイマジンたちの人気は高く、彼らと電王をメインキャラクターとした映画がその後もぞくぞくと作られ、いずれも好評を博している。

愛すべきキャラクターたちを多く生み出して好評を得た『仮面ライダー電王』に続いて製作されたのは、親子二世代にわたって繰り広げられる激しい「争い」と「愛」のもようを描きあげた野心作『仮面ライダーキバ』(2008年)である。次回は『仮面ライダーキバ』が平成仮面ライダーシリーズにどのような"爪痕"を残したのか、その深淵なる魅力について解説を試みたい。

映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』は2018年12月22日より公開される。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

(C)石森プロ・東映
「ジオウ&ビルド」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映