フジテレビが、コンピューターゲームを競技化した「eスポーツ」への取り組みを加速化させている。スポーツ実況で活躍中のアナウンサーが本格参戦したほか、これまでCSで放送されてきた専門情報番組『いいすぽ!』を、10月から地上波でレギュラー化した(毎週木曜深夜2:25~2:55)。

eスポーツに積極的な姿勢を見せる同局だが、その狙いは何か。格闘技イベント『RIZIN.13』の会場で格闘ゲーム『TEKKEN7』スペシャルマッチの実況を行った鈴木芳彦アナウンサーと、『いいすぽ!』の門澤清太プロデューサーに話を聞いた――。

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    『RIZIN.13』でのスペシャルマッチの様子

スポーツのメジャー化に名実況あり

もともとゲームが好きだという門澤氏がeスポーツに着目したのは、2015年。Amazonが買収したゲームプラットフォーム「Twitch」が日本に上陸するという情報を聞き、大きな波がやってくると予測して、突貫工事ながら16年4月に『いいすぽ!』をスタートさせた。番組開始に当たり、門澤氏は「実況者がいないとダメだと思ってアナウンス室に行ったら、格闘技実況をやっている鈴木アナがいたので、うまくマッチするんじゃないかと思ってキャスティングしました」と、立ち上げの経緯を振り返る。

とは言うものの、eスポーツの実況はリアルのスポーツと勝手が違う。格闘ゲーム1つとっても、人が人の上を飛び越えるなど現実にはありえない動きが頻発し、何よりスピードが段違いだ。それでも、鈴木アナは「練習をやっていくうちに、どんどん目と情報処理が慣れていきました」と、手応えをつかんできたという。また、従来の実況では「強パンチ」「弱パンチ」と言っていた呼称も「エルボー」「ジャブ」と、リアルスポーツと同じ言い方をするように心がけ、“スポーツ感”を出している。

その実況の練習は、鈴木アナをリーダーに、田淵裕章アナ、小穴浩司アナ、大村晟アナ、藤井弘輝アナで結成した「いいすぽアナ」のメンバーで、プロのプレイヤーも招いてフジテレビのアナウンス室で実際にゲームをしながら行っているそうで、「こんなに会社で堂々とゲームできる時代が来るとは思わなかったです(笑)」(鈴木アナ)と、楽しみながら新たなジャンルの実況技術を身に着けているようだ。

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    アナウンス室で練習する(左から)鈴木芳彦アナ、田淵裕章アナ、大村晟アナ

彼らのような世界選手権レベルのスポーツ大会で経験のあるアナウンサーたちが、eスポーツの実況に参戦することで、鈴木アナは「ゲームが“スポーツ”として中継できるようになると思うんです。eスポーツを文化として一般に広げていくためにも、テレビ局としてその橋渡し役ができるのではないかと思います」と意義を強調。

門澤氏も「どんなスポーツでも、メジャー化するにあたっては、競馬の杉本清さん、F1の古舘伊知郎さんのように、必ず優れた実況者がいるんです。そのためにも『いいすぽアナ』には頑張ってもらいたいです」と期待を寄せる。実況してもらったプレイヤーからも「技名を言ってもらえてうれしかった」と声をかけられるそうで、対戦のモチベーションアップにも貢献しているようだ。

eスポーツの未来予想図を具現化

そんな鈴木アナらは、昨年の11月に初開催された『Tokyo E-sports Festival』などで実戦経験を積んできたが、今回「いいすぽアナ」を結成して本格稼働の第1弾として選ばれた舞台が、9月30日に行われた格闘技イベント『RIZIN.13』。「那須川天心×堀口恭司」という注目の一戦など、リアル格闘技の試合の合間に、格闘ゲーム『TEKKEN7』の日韓戦が組み込まれたのだ。

残念ながら、当日は台風の接近により、メインイベントの後に実施されることになったが、さいたまスーパーアリーナの約3万人という従来にない大規模なキャパシティの中、eスポーツの対戦が神聖なリングの上で繰り広げられた。

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  • 『RIZIN.13』でのスペシャルマッチの様子

門澤氏は「『RIZIN』の世界観を踏襲した選手紹介のVTRやムービングライトを使った入場は、『RIZIN』が基礎としてあるからこそできた演出なので、すごくエポックメイキングだったと思います」と、eスポーツにとって歴史的な第一歩になったと総括。実況を担当した鈴木アナも「eスポーツの未来予想図が具現化されたものが、そこに詰まっていたと思います。それと、普通のスポーツの試合で実況は会場に聞こえないんですが、今回はそれを聞こえるようにしたのも画期的でした」と振り返る。

観客も盛り上がり「親和性はありました」(鈴木アナ)といい、『RIZIN』側も「継続していくことが大切だと言ってくれました」(門澤氏)と、年末の大会での実施について前向きのようだ。