あらゆるビジネスパーソンにとっての必須のスキルとなっている「論理的思考力(ロジカルシンキング)」。代表的なツールには、「MECE(ミーシー)」や「ピラミッドストラクチャー」などがあるが、使いこなそうとすると、これがなかなか難しい。関連書籍を購入するも途中で断念する人が少なくない。わたしもその一人である。

もっとシンプルで使いやすい方法はないものか、そんなことを考えていると、小学生の子どもをもつ知人が『「ビジネスマンの国語力』が身につく本』(大和出版)という本を教えてくれた。

子ども向けの国語力が大人にも通用

ビジネスマンの国語力!? 論理的思考力とどんな関係が? と思って、ページをめくってみると「形式が内容をコントロールする」「3つの公式を覚えよう」……、これまでわたしがイメージしていた国語とはだいぶ違う。何やら面白そうだ。

  • 「ふくしま国語塾」を主宰する福嶋隆史氏

国語とは論理的思考力のことであり、「複雑なものごとを整理・単純化する力」である、と本書では定義づけていた。そして「言いかえる力」「くらべる力」「たどる力」のたった3つの力をマスターするだけで、自分の考えをまとめる力が身に付き、説得力をアップすることができるというのだ。

著者の福嶋隆史氏は、横浜にて小・中・高校生向けに「ふくしま国語塾」を主宰し、週に90人近くの子どもを指導している先生である。「ふくしま国語塾」は、一貫した国語力育成法が高く評価され、他都県からの通塾生も多いそうだ。

論理的思考力に年齢は関係ない

まずは、子どもたちに教えていることがビジネスパーソンにも当てはまると考えた理由を、福嶋氏に聞いてみた。

福嶋氏:論理的思考力は、子どもに限定されません。論理に年齢は関係ないからです。論理的思考の世界である囲碁や将棋の対局において、年齢が無関係であるのと全く同じ。高校生棋士、藤井聡太さんの活躍が顕著な例です。だから、私の教える国語力は子どもだけでなく、大人にも適用できると考えていました。

なるほど、囲碁や将棋の例は非常に納得できる。さすが国語の先生だ。とてもわかりやすい。さらに、国語力が重要なもう1つの理由として、学校教育の問題があると福嶋氏は指摘する。

  • 国語に対する教育問題を指摘する

福嶋氏:ほとんどの大人は日本語が普通に話せるので、「できるものだ」と勘違いしています。外国人と比べるとよくわかりますが、外国人は語彙力がないので、例えば「の違いはなんだろう」というようなことを一つひとつ調べて、覚えようとしますよね。でも、日本人(の大人)はそんなことを意識しないで、文章を書いたり、言葉を話したりします。

仕事柄、判り易い文章や表現は常に意識しているが、福嶋氏が言うような、言葉の細かな違いまで意識することはきわめて少ない。自分に当てはめても納得できる。

福嶋氏:こうした意識が根付いてしまったのは、小・中・高等学校で論理的な読み方や書き方を教わってこなかったからです。本来、国語にも算数のように公式や解法があるべきなのに、教師は「とにかくたくさん読んで、書いて、センスを磨こう」としか教えません。まずは「どう書くか」「どう読むか」という型(公式)こそ大切なのに、「何を読むか」「何を書くか」ばかりを強調します。

型は誰もが簡単に真似ることができ、使いこなせば確実に自分の武器になります。型(公式)こそ大切なのに、それに気づいていないのです。

なるほど、算数との比較も、わかりやすい。段々と期待が膨らんできた。

論理的思考力が仕事で差をつける

「せっかくの機会なので、本にもあまり掲載していない、覚えやすく、すぐに使える技術を紹介しましょう」と福嶋氏が教えてくれたのが、「7つの観点」というものだ。

時間の観点 いつ? 時分秒、年月日、朝昼晩、午前・午後など
時間の長さは? 時間・期間の長短、遅い・速いなど
時間のつながりは? 時間の連続性・断続性など
空間の観点 どこ? 上下、左右、前後、表裏など
空間のようすは? 長短、広狭、大小など
自他の観点 自分としては? 他人としては?
心理の観点 心理的には? 気持ちとしては?
五感の観点 五感では? 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚
目的・手段の観点 なんのために? どうやって?
プラス・マイナスの観点 プラスかマイナスか? 善悪、明暗、幸・不幸など

福嶋氏:論理的思考力には、言いかえる力、くらべる力、たどる力という3つの要素があります。その中で「くらべる力」(一見バラバラに見えるもののなかに「対比関係」を見つけ出し、整理する力)のエッセンスが、この7つの観点には含まれています。

時間、空間、自他など、何やら聞き覚えがあるような言葉が並んでいるが、ビジネスシーンでどのように活かせるのだろうか。福嶋氏によると、「それはズバリ違いを明確にできること」だそうだ。

福嶋氏:企業は競合他社の商品やサービスとの差別化はもちろん、必要ならば、新規事業の立ち上げなどにも力をいれます。それらの場面で求められるのは、他社との違いであり、既存のやり方・発想との違いです。こんな時に7つの観点が大きな武器になるのです。

社会人でいうと、入社2~3年目までは、上司や先輩に教えられたことをがむしゃらに取り組めば、成果を出すことができる。でも、ある時点から思うような成果を出せなくなる。それは、今までのやり方が通用しなくなったからだ。

そんなとき、7つの観点を身につけていれば、それまでとは異なる発想を生み出し、新たな視点を得ることができそうだ。

開成中学校の入学試験でも論理的思考力が問われる

「この問題をやってみます? 」

次に、福嶋氏は入試問題を勧めてくれた。

それは最難関校といわれる開成中学校の2018年の入試問題だった。概要はこうだ。

北海道の特産物を各地に紹介する販売会社に大手デパートから「カニ弁当を仕入れてほしい」という依頼があった。さっそくこの会社の2つの支店(新宿支店と池袋支店)で販売を行い、翌月には、グラフをもとに販売部長が社長に営業結果を報告した。
池袋支店では弁当の売れ残りが出たが新宿支店では営業終了の1時間前に完売した。部長は新宿支店の社員を高く評価したが、社長はそれを否定し、弁当を売り切れなかった池袋支店の社員を評価した。その社長の考えとは、どのようなものなのかを「たしかに」「しかし」「一方」「したがって」の4つの言葉を使って、4文で説明しなさいという問題である。
※参照:四谷大塚ドットコム

福嶋氏:さきほど紹介した観点を使って解く問題ですが、わかりますか?

うーん、簡単にできると思っていたがまったく答えが浮かばない。「意外と難しいですねー」と、強がってみせるのが精一杯だ。そんなわたしの状況を察してか、福嶋氏はさっそく問題の解説を始めた。

福嶋氏:これは、大人にも難しい問題です。でも、「自他の観点」を使えば解を導き出すことができます。自社のことだけを考えれば、弁当を売り切った新宿支店が評価されます。しかし、それでは営業終了1時間前に来店されたお客様のニーズには応えられません。社長は、自社(自己)の利益だけを追い求めるのではなく、お客様(他者)の利益を叶える店舗運営を評価したのです。

  • 鉛筆の長短を例に空間の観点を説明する福嶋氏

なるほど。ビジネスの場面で経験してもおかしくないような問題である。わかりやすい解説で、7つの観点をどのようにしてビジネスで活用するのかが、よく理解できた。しかし、自分自身でこの解説のように、瞬時に判断してアクションを起こせるようになるものだろうか。

論理的思考力は常に意識することで身に付く

最後に、この技術を身に付けるには普段から意識すべきことを聞いてみた。

福嶋氏:常に原理・原則を持っていることです。例えば、この7つの観点を携帯し、迷ったら、すぐに確認して、積極的に活用してみること。最初は意識してやってみて、使っているうちに無意識にできるようになれば身に付いたということです。そうすれば、必ずスキルアップできます。

習慣づけることが大切なのだ。新たな視点が得られるなら、やってみる価値はありそうだ。

取材協力

福嶋隆史

1972年、神奈川県生まれ。株式会社横浜国語研究所・代表取締役。2001年より小学校教諭として、東京・神奈川の公立小学校で勤務。2006年に退職し、横浜市内で「ふくしま国語塾」を開塾。国語指導のカリスマ講師として教鞭をとる傍らで、『「本当の国語力」が驚くほど伸びる本』(大和出版)をはじめ22冊の著作を上梓するほか、『テストの花道』(Eテレ)などメディアも多数出演。

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