プレゼンテーションのタイプは、「パッション型」「信念型」「統制型(優等生型)」「ロジカル型」の大きく4つのタイプに分かれると永井コーチは説明する。

Mさんは、声質、話し方などから「パッション型」タイプ。このタイプは、低音の声を活かし、力強いメッセージを出していくことで、相手を動かすプレゼンができるようになる。

そこで、コーチはMさんに目指すべきビジネスパーソンや政治家の動画を達人として紹介した。その動画を見たMさんにどのようなことを感じたのか意見を聞きながら、達人の優れている点を解説していった。

達人の特徴的な部分は、誰にメッセージするかが明確なことだ。

「達人は多くの聴衆がいる中でも、一人だけをイメージして、その人に向かってメッセージを発信している。だからこそ、力強いメッセージになるのです」と永井コーチは言う。

この言葉に、Mさんは気づきが得られたようで、自身で感じた疑問をコーチにぶつけた。

Mさん:「プレゼンでは、相手に言いたいことがなかなか伝わらない」という悩みがあるのですが、それはターゲットを絞ってプレゼンできていないところに理由があるのでしょうか?

永井さん:それもあります。それともうひとつ重要なことは、プレゼンは何のために行うのか、しっかり理解していることです。企画書を上手に説明すればプレゼンは成功というわけではないですよね。真の目的は、お客様を行動させること。Mさんの場合であれば、提案メディアを広告主に使っていただく。これが一番の目的なので、これを意識して企画書をつくったり、プレゼンを行ったりしなければなりません。

目的がはっきりしているから、言いたいことや伝えたいことが明確なプレゼンができるということか。

この後、Mさんはコーチのアドバイスのもと、企画書をブラッシュアップしていった。さらにクライアントがアクションを起こせるメッセージを新たに考えて追加した。

「このメディアを利用すれば、あれもできる。これもできるというメリットは一生懸命伝えていたのですが、何故これなのか? という、気持ちのこもったメッセージが足りなかったように思います」とMさんは言う。

それを受けて、永井コーチは「著名な人が言っていたというような借り物の言葉ではダメ。Mさんの中にある。これだという自分の言葉でなければ、お客様には伝わりません。でも逆に言えば、これさえあれば、他でうまくいかなかったとしてもプレゼンは成功です。そのくらい重要なことなのです」と力強く話してくれた。

なるほど、自分が心から話したいことをプレゼンすれば、自然と相手の心がつかめるというわけか。ここは大事なポイントだ、私も注意しよう。

しかし、Mさんはしぶとい。これだけダメ出しされても、めげない。

「相手に言いたいことを伝える」ために必要なキーワード

次に、永井コーチがMさんへ指導したのは「キーワード作成」だ。

「プレゼンで、キーワードになるものを1文の中から2つぐらいをピックアップして、紙に大きく書いてください。これを言い忘れるとまずい言葉や、伝えるべき重要な言葉です。その他は忘れてください」

実は、Mさんは最初のプレゼン用に台本を書いてきていたのだ。にもかかわず、キーワード以外は必要ないという。なぜだろうか。

「台本があると、ついそれを読むことに集中してしまい、プレゼンを聞いている相手への視線(アイコンタクト)がおろそかになってしまうからです。それに、台本を読むと話し方も一本調子になり、聞いている人を引き込むような話し方は期待できません」と永井コーチは言う。

やり方としては、キーワードを書いた用紙をテーブルの上に並べて、目の端でそのキーワードをとらえながら、プレゼン相手とアイコンタクトをとっていくというのだ。そして、何回か練習をしていくなかで、そのキーワードを入れて、段々と自分の言葉で話せるようになってくるそうだ。

「緊張して頭が真っ白になって、プレゼンが続けられないときがあります。それでも、このキーワード作成は通用するのでしょうか」と質問するMさん。

もう一度言おう、Mさんはしぶとい。

永井コーチの答えは快刀乱麻を断つかの如く。

「緊張して、頭が真っ白になるというのは、台本を覚えてプレゼンに臨むからだと思います。最初から台本がなければ、忘れることもありません。そこで大切になるのは、やはり相手を動かしたい(意識を変えたい)という想いをどれだけ持っているかということだと思います。情熱をもって、自分の言葉で話せるようになれば、多少緊張しても、臨機応変にプレゼンができるようになります」

「プレゼンが上達するには、もっとテクニックが必要だと思いがちですが、その前に、プレゼンをやる意味や、自分の想いがとても大切だと痛感しました。まったく意識していなかったように思います」と反省するMさん。

次回は、プレゼンを成功させる要素である「声」を中心に、「話し方」「目線」「身振り、手振り」のポイントについて伺っていく。

監修者プロフィール : 永井 千佳氏(ながい ちか)

トップ広報プレゼン・コンサルタント
ウォンツアンドバリュー株式会社 取締役

音楽理論に基づき、トップ広報のメッセージ力を改善することにより、短時間で経営者が持つ個性や才能を引き出す方法論を生み出し、企業ブランド強化を実現する「トップ広報プレゼン・コンサルティング」を開発した。広報・IR・リスクの専門メディア月刊「広報会議」では、2014年から経営トップ「プレゼン力診断」を毎号連載中。
主な著書に、「DVD付 リーダーは低い声で話せ」(KADOKAWA 中経出版)がある。

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