上川隆也が、1月期のドラマ『BG〜身辺警護人〜』で、主人公の頼れる上司役としてレギュラー出演するも、突如、事件に巻き込まれて死亡し、途中退場となったことは衝撃だった。

拳銃で撃たれたのは足だったから命にかかわると思わず見続けていたら、救急車に乗って搬送されている間に、みるみる容態が悪化してのっぴきならない雰囲気で次回へと引っ張ったが、きっと単なる釣りで、ちゃんと復活すると少々甘く考えていたところ、そのまま帰らぬ人に……。その死が主人公と警備員たちの結束を強くする大事な要素になったとはいえ、その最終兵器感は凄まじいものだった。

やられた。途中で死にますよ〜なんていう素振りをこれっぽちも見せず(当たり前だけれど)、できる上司という役を着々と演じきって潔く散った、まるで、重大な使命を帯びた忍びの者のような名優・上川隆也は4月期のドラマ『執事 西園寺の名推理』(テレビ東京 毎週金曜20:00〜)に主演している。

  • 上川隆也

    上川隆也

知性と上品を演じられる俳優

こちらは、外国人の専売特許とばかり思われがちな執事だが、日本にもわずかながら存在しているといい、上川はそのひとりを演じている。

彼が仕えているのは、車椅子に乗った八千草薫。評判だった『やすらぎの郷』では「姫」というあだ名の、往年の名女優役を演じていた、日本の至高とも言われる女優・八千草薫さまは、上川隆也の執事としてのレベルをいっそう高めてくれる。すばらしいキャスティングである。

タイトルに『名推理』とあるので、単なる資産家のご主人と優秀な執事の絆の物語ではなく、毎回、事件に巻き込まれ、それを執事が解いていくという、時流に合ったミステリー・ドラマだ(2018年のいま、ヒットのキーワードは「ミステリー」「医療」「朝ドラ」である)。

1話はパティシエ殺人事件、2話は事件を解く鍵が星座と、モチーフが上品な感じも、お金持ちのご主人と執事の世界らしくて良い。

いまの日本に執事が少ないのと同じだけ、いまの日本で、これほど知性と上品を演じられる俳優は、上川隆也しかいないのではないか。

「かいかぶりでございます」
「とんでもないことでございます」
「ご勘弁ください」
「おまかせください」
「興味ございません」
「生涯、主人である奥様にお仕えする所存です」

……等々、枚挙に暇のない丁寧語の数々を、ツッコめないほどスラスラと語る。唯一、2話では「お願いいたしたき儀がございます」としたためた書状に、「時代劇かってゆうの」と佐藤二朗が、ツッコみを得意とする俳優の存在に賭けて、とばかりにツッコんでいた。佐藤は、執事に事件の真相を先取りされてしまう刑事なので、執事に負けじとがんばっているのだ、きっと。

生まれたときから執事のような

上品、丁寧が、当たり前になっている感じが上川のすごいところ。この方、演技を離れて上川隆也として人前に現れるときも、上品、丁寧で、『執事西園寺の名推理』の初回のための番宣で、バラエティー番組に出ているときも、自分は一歩引いて、余計な発言は控え、相手を立てていたし、「相対する」「〜し得る」などの文語的な言葉を自然に使って語ることでも有名である。

ふだんから、ふつうに丁寧、上品な上川隆也は、執事西園寺も気負いなく、ふつうに、生まれたときから執事です、的に演じている。決して、フォームを乱さない。全力で走るときも、規則正しい。

人気漫画『シティハンター』のパラレルワールドを舞台にした漫画『エンジェル・ハート』のドラマ化で、主人公を華麗に演じたこともある。役を演じるとき、一発必中の勢いで、その役のど真ん中を射抜ける俳優なのは、もともとアニメなどが好きで、アニメのキャラクターがいかに人間の理想を描いているかを熟知しているからではないかと思う。その知見を、演劇集団キャラメルボックスでの演劇活動を通して、身をもって実践し磨き上げてきたことは、彼の強い土台となっていると感じる。

優秀な忍びであり、絶対的を外さないスナイパーのような俳優・上川が演じる理想的な執事・西園寺には、どうやら秘密があるらしく、元警視庁長官の大物政治家(古谷一行)にその動向をチェックされている。次第に西園寺の謎が明かされていくうちに、物語全体のテーマが浮上してきそう。

『BG〜身辺警護人〜』ではないが、意外な展開で驚かせてほしい。一回、ああいう飛び道具を使ってしまうと、次がなかなか難しい気もするが、伝説を更新してくれることを願う。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、構成した書籍に『庵野秀明のフタリシバイ』『堤っ』『蜷川幸雄の稽古場から』などがある。最近のテーマは朝ドラと京都のエンタメ。)

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