小田急電鉄がダイヤ改正を実施した3月17日から営業運転を開始した新型特急ロマンスカー・GSE(70000形)。筆者は箱根登山鉄道2000形の復刻塗装記念イベントを取材した3月21日、帰りの列車でGSEに初めて乗車できた。

  • 3月17日にデビューした小田急電鉄の新型特急ロマンスカー・GSE(70000形)。箱根方面の特急「はこね」「スーパーはこね」を中心に、通勤特急での運用も

この日は春分の日だったが、箱根は寒かった。雨が降り、山間部では雪が降っていたという。箱根登山鉄道も一部運休があり、その影響もあってか、箱根湯本駅は混雑していた。

特急券はあらかじめ「e-Romancecar」で確保していた。乗車する列車は、箱根湯本駅13時55発の「はこね20号」だ。駅の窓口にはロマンスカーの特急券を求める人の長い列ができており、あらかじめ特急券を購入しておいてよかったと考える。筆者が利用した「e-Romancecar」の他に、利用頻度が高い人向けの「ロマンスカー@club」というサービスも。駅の券売機でも、ロマンスカーの指定券は販売している。

駅構内の売店で駅弁「デラックスこゆるぎ」(東華軒)を購入し、Suicaで改札を通る。特急券を別に買っておけば、交通系ICカードで改札に入り、そのままロマンスカーに乗車できるというのも便利だ。ちなみに、筆者は特急券をネットで予約した際、購入内容を印刷して手帳にはさんでいた。

  • 乗車日当日の箱根湯本駅(筆者撮影)。あいにくの雨だった

筆者は5号車に乗るため、ホームの先端近くまで行く必要があった。カメラを持ってGSEを待ち構える人が何名かおり、新車としての注目度だけではなく、ロマンスカー自体の人気の高さもうかがわせる。発車時刻の約10分前、GSEを使用する下り「はこね17号」が入線。この車両が上り「はこね20号」として新宿駅に向かうのだ。

先頭車でなくても車内Wi-Fiで前面展望を楽しめる

「はこね20号」に乗車するために5号車付近で待っていると、6号車の乗客の列が5号車の乗車位置まで接近し、警備員の指示で車両に沿うようにして並ぶことになった。車内では清掃が行われ、座席の方向転換(自動)を行う様子も見えた。清掃が終わり、発車数分前からの乗車開始となったが、それでも最小限の遅れにとどめることができた。

ここでGSEの車内を確認。各座席のテーブルは肘掛けの内部に収納されている。2人掛け座席の間に肘掛けはない。ドリンクホルダーや傘立てなどが座席に備えられ、カーテンは昇降式となっている。各座席にコンセントも設置された。座席の上部にある取っ手部分には、点字で席番が記されている。

  • GSEの中間車の車内(2月23日の試乗会で撮影)

  • ドリンクホルダーや傘立ても用意。車内で利用できる無料Wi-Fiの案内も(2月23日の試乗会で撮影)

車内にはWi-Fiが完備され、車内限定エンターテイメント「Romancecar Link」で前後方の展望画像などを見ることができる。早速、スマートフォンで試してみた。天気が悪いせいか、前方の景色は見づらかったものの、これで晴れていたらどんなに素晴らしかっただろうかと考える。いままで先頭車からでないと見られなかった前面展望が、一般の座席でも楽しめるのだ。

箱根湯本駅から小田原駅までは箱根登山鉄道の路線。GSEはさほどスピードを出さず、各駅で列車交換を行う。入生田駅ではMSEとすれ違った。

筆者は肘掛けのテーブルを引き出し、箱根湯本駅で買った「デラックスこゆるぎ」を食べ始めた。テーブルは小さいながらも、ドリンクホルダーが別に用意されていることもあってか、駅弁を食べるにはちょうどよかった。

小田原駅では少しだけ長い停車時間を利用し、ここまでの遅れを取り戻す。停車中に大体の席が埋まり、「はこね20号」はほぼ定刻に発車した。

短距離でも快適に移動するならロマンスカー!?

小田急線内に入ったGSEは、全速力というより、かなりゆったりと走っている。カーブの多い区間も「挑む」ではなく「かわす」ようなイメージで走る。このなめらかさはSiC素子によるVVVFインバータ制御装置とフルアクティブサスペンションによるものだろう。

車内では車内販売のワゴンが周り、多くの乗客がコーヒーなどを注文する。ロマンスカーの車内販売は人気があるのか、7両編成に2台のワゴンが搭載されているそうだ。

車内を歩き、様子を見てみる。最前部の7号車は、前面展望の迫力がものすごい。先頭車2両には荷棚がなく、開放的な印象を与える車両である。最後部の1号車は展望席が後ろ向きとなっており、後方の流れ行く風景を堪能できるようになっている。

  • GSEの先頭車の展望席(2月23日の試乗会で撮影)

  • 前面窓に大型の1枚ガラスを採用し、ガラスの高さや取り付け角度を変更するなど眺望性を高めている(2月23日の試乗会で撮影)

「はこね20号」は秦野駅に停車。乗車する人は多くない。次の本厚木駅も乗車する人は少ない。このまま新宿駅へ向かうのか……と思ったら、相模大野駅から多くの人が乗ってきた。新百合ヶ丘駅では下車客も多かったが、乗車する人も多い。短距離でも快適に移動するならロマンスカーというのが、小田急線沿線の人々にはすっかり定着しているかのようだ。ちなみにこの間も、GSEはゆったりとした走りを見せていた。

多数のファンらが待つ新宿駅に到着

新百合ヶ丘駅から終点の新宿駅まではノンストップで走る。向ヶ丘遊園駅から上り線が1本増え、登戸駅からは複々線である。

ここから代々木上原駅まで急行線と緩行線が分かれているため、複々線区間でどこまでスピードが出せるかと関心を持っていた。GSEは登戸駅を通過した後、スピードを上げる。しかし成城学園前駅付近からゆっくりと走るようになり、地下区間に入って下北沢を通過し、複々線区間が終わる代々木上原駅が近づくと、前の列車が詰まっているのか、ノロノロ運転になった。

  • 「Romancecar Link」で複々線区間の前面展望映像も見られる

  • 新宿駅のロマンスカー専用ホームに多くのファンらが

代々木上原駅から新宿駅まで再び複線に。終点へ向けての最後の走りとなる。南新宿駅を通過した後、ビルの下に入り、ゆっくりとロマンスカー専用ホームに入っていく。

その際、「Romancecar Link」の前面展望映像を見ていたら、多くの鉄道ファンらがGSEにカメラを向けていた。頭端式ホームの先に大勢いて、みんなGSEを待ち構えていたのだ。「はこね20号」は15時27分、定刻通りに終点の新宿駅に到着。筆者は列車から降り、鉄道ファンらの中に混じってGSEにスマートフォンのカメラを向けた。