2017年もあっという間に終わろうとしている。この1年間、航空業界も予測を超える大きな変化や事象が見られた。年末にあたりいくつかの2017年の特徴的な出来事の振り返りをしてみたいと思う。

  • ANAホールディングスは出資比率を38%強から67%に引き上げ、ピーチ・アビエーションを連結子会社とした

    ANAホールディングスは出資比率を38%強から67%に引き上げ、ピーチ・アビエーションを連結子会社とした

ピーチが変わる時はいつか

ANAは4月にピーチ・アビエーションの株式の67%を保有し子会社化した。日本のLCCで唯一好調な業績を続けるピーチの子会社化は、これまでの成長・成功が「ANAに影響されず独自の道を歩むというピーチのDNA」によってもたらされたと見られているだけに、なぜあえて今子会社化なのか、という疑問が業界を巡ったし、「ピーチ子会社化に見るANAホールディングスの戦略」でも分析を行った。

その後のピーチの路線拡大戦略を見ると、2月に沖縄=バンコク線開設から9月に仙台の拠点化・仙台=札幌/台北線開設と続き、10月には2018年度から新千歳を拠点化し道内路線を含む新規開設を検討している。ANAの路線戦略に左右されることなく独自路線を進み続けており、子会社化の影響は見られない。ピーチ社員のメンタル面でも同様のようだ。

今後、ANA色が出てくるとすれば、ピーチがANAと本格的にバッティングする路線(大阪=上海/北京は明らかに競合だが、中国側プレイヤーも多くANA需要を取り込んでいるとは見ていないようだ)を開設しようとする時だろう。その際、ANAからの事前調整も想定できる。また、ピーチが新規路線で従来の収益性を確保できない局面が出てくるようなことがあれば、人材投入を含む経営関与が行われる可能性もあるだろう。

正念場が続くバニラエア

一方、100%子会社のバニラエアに関してである。2017年3月期決算が微額の赤字となり、今般、ベトナム(台北=ホーチミン)線の休止や成田=香港線の減便を発表したバニラエアの事業展開・経営状況に何がしかのテコ入れや支援が必要な場合に、ピーチとの路線ネットワークの調整(機材・乗員繰りの効率化を含む)が行われる可能性がある。

  • バニラエアは2017年、2月に成田=函館線を、3月に関空=函館線をそれぞれ就航。2018年の新規就航は未定だが、3月24日には台北=ホーチミン線を運休する

    バニラエアは2017年、2月に成田=函館線を、3月に関空=函館線をそれぞれ就航。2018年の新規就航は未定だが、3月24日には台北=ホーチミン線を運休する

バニラエアは運用時間制約があり、バス利便が向上しているとはいえ、後背需要に限界がある成田を拠点とするため、ANAも奄美大島の市場開拓など全面支援を行ってきた。他方、企業風土としてどうしても当初の「エアアジア」に向かって集まった社員もおり、ANAとの事業運営の方法や考え方の違いに対する違和感は残っていたと思われる。

バニラエアではこれらを払拭し、ANA natureをベースとした企業風土の醸成に努めてきている。巷間言われるようなピーチとの合併には、簡単には踏み切れない環境にあると見る向きも少なくない。

ANAとしてはまず、バニラエアの収益基盤の強化、とりわけ、高い利用率を保っているのに黒字にならない主要因であるレベニューマネジメントの改善が急務である。それが、ピーチとの路線の棲み分け・再編成につながるのか、注目されるところだ。

ジェットスターは今後の路線次第

他方、ジェットスター・ジャパンも相次いで新路線の開設を続けているが、2年連続の黒字を達成したとはいえ、295億円の累積損失を抱えている。また、利益率から見ても、イールドが同じまま利用率が2%下がれば赤字に陥る状況にあるだけに、今後路線拡大の成否がカギを握る。

  • ジェットスター・ジャパンは12月21日に、国内12都市目となる宮崎=成田を就航した

    ジェットスター・ジャパンは12月21日に、国内12都市目となる宮崎=成田を就航した

現状はというと、中部国際空港で新規就航するエアアジア・ジャパンに先行して空港拠点化、超安売りキャンペーンの実施など、攻撃的な事業運営を行っており、2017年秋に経営体制をより日本主体に変更している。営業上コードシェアを実施しているとはいえ、ジェットスター・ジャパンに対するJALの経営関与度合いは濃いものではなく、ANAとの違いがうかがえる。

スクートに見るFSCとLCCの関係

アジアを見てみると、12月19日に関西=ホノルル線を就航したスクートも2017は"動いた"LCCだろう。シンガポール航空が資本関係を有するスクートは同じく12月、フルサービスキャリア(FSC)のシルクエアとのコードシェア実施を発表した。

  • スクートの関西=シンガポール/ホノルル線には、8台のクルー用寝台を装備した座席総数329席(うち、スクートビズ18席)のボーイング787を導入している|

    スクートの関西=シンガポール/ホノルル線には、8台のクルー用寝台を装備した座席総数329席(うち、スクートビズ18席)のボーイング787を導入している

スクートはLCCとはいえ、長距離路線を運航しビジネスクラスを持つ。そのため、FSCであるシンガポール航空・シルクエアとのコードシェアにも十分耐えうる点が、日本のFSC=LCCコードシェア関係とは異なる。また、今回のコードシェア対象路線はシンガポールからギリシャ、豪州、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアへの観光路線であり、個人顧客への不整合が懸念されないことも意識されている。

元々がFSC顧客への利便展開であるため、スクートにとってもLCC同士のアライアンスである「バリューアライアンス」におけるLCC協業には、ほとんど影響がないものと言える。他方、シンガポール航空はシンガポール=東京線などスクート機材で十分に航続可能な路線でも自社直接競合となる路線を運航させないなど、ANA・JAL以上に関連会社事業計画への関与が強い。

これからの世界のエアラインの特性は、LCCの長距離化、サービス価値向上や、FSCのローコスト・ローフェア化という「双方向からのハイブリッド化」によって、エアライン業態の境目がどんどん分かりにくくなっていく。このような中で日本のFSC・LCC・ハイブリッド各社の今後の戦略シフトがどうなるのか、注視していく必要があろう。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。