2017年もあっという間に終わろうとしている。この1年間、航空業界も予測を超える大きな変化や事象が見られた。年末にあたりいくつかの2017年の特徴的な出来事の振り返りをしてみたいと思う。

  • JALは様々なシーンで大きな話題となった

    2017年、JALは様々なシーンで大きな話題となった

ハワイアンとのATIの雲行きは

2010年に経営破綻(会社更生法申請)をして以降、3年間で急速な業績回復を果たしたJAL。2012~16年度の中期経営計画期間中は、「健全な競争環境の維持のために国が必要な監視・指導を行う」とする航空局の方針、いわゆる「8.10ペーパー」によって新たな投資や路線開設を実質的に禁止されていた。

この縛りが解けた4月1日以降、JALは新たな戦略投資と路線開設を矢継ぎ早に発表。さながらANAとのパートナー囲い込み競争と化していることは、「ANAとJAL、『パートナー争奪戦』は勢力図を変えられるのか?」で記した通りである。

ANAへの意趣返し的に報道されたJALの「ベトジェットとのコードシェア」「ハワイアン航空との包括提携」について、その後は目立った動きは見られない。もともと、シナジーと実効性に乏しいと見られたLCCのベトジェットとの提携にどのような具体性を持たせるかは、JAL自身も苦労していることだろう。

  • 夏季ダイヤが始まる2018年3月25日より、双方の日本=ハワイ路線でのコードシェア、ラウンジの相互使用、マイレージプログラム提携などを順次開始する

    夏季ダイヤが始まる2018年3月25日より、双方の日本=ハワイ路線でのコードシェア、ラウンジの相互使用、マイレージプログラム提携などを順次開始する

ハワイアンとのアライアンス外ATI(独禁法適用除外共同事業)は引き続き準備中と思われるが、同じアライアンス同士のハブの両側(日本と米国、日本と欧州のハブ空港の先のフィーダー路線)が創出する新規需要効果が顕著な事例に比べ、日本人によるハワイ旅行が主流の本路線では真水の需要創出は大きいとは思われない。両社の業界競争力を上げるためだけの独禁法適用除外申請に、日本の航空当局がどのような判断を下すかが注目されよう。

アエロフロートとの提携の真意

また、JALは11月にスカイチームに属するアエロフロート・ロシア航空(SU)との包括提携を2018年度から行うことを発表したが、これは同じワンワールドに属するロシアのS7航空との提携と、うまく棲み分けができるのか疑問視する向きもある。もともと、SUが休止した国内線を拾いながら規模拡大を進めてきたS7だが、シベリア航空時代の極東ベースの会社というイメージは薄くなり、本社もモスクワに移している。

  • JALとアエロフロート・ロシア航空は、2018年度以降にコードシェアを展開する

    JALとアエロフロート・ロシア航空は、2018年度以降にコードシェアを展開する

SUとの成田=ウラジオストク/ハバロフスク線での消耗戦を経て、現在はS7運航のコードシェアで供給調整を行っている。しかし、成田=モスクワ線ではS7がJAL運航便にコードを貼ってSUと競合するなど、モスクワと極東での棲み分けの難しさを思わせる状況もある。JALはなぜあえてS7との関係を複雑化させてまでSUと提携するのか、筆者には「競争相手に取られる前に囲い込んでおく」という、スカイマーク争奪戦で見られたような経営メンタリティが両社に強く作用しているのではないか、と感じざるを得ない。

またその後は、両社が宇宙事業超音速機への投資を発表しているが、そこで何をやりたいのかが見える前に、目配りの広さ大きさを競うくらいの意味合いでしかない。ある意味、「多角的に考える会社であることを見せるのが目的」のように思えてしまう。

  • JALとBOOM TECHNOLOGYは12月5日、BOOMが開発に取り組んでいる超音速旅客機による飛行時間短縮をともに挑戦するべく、パートナーシップ関係を締結したと発表した

    JALとBOOM TECHNOLOGYは12月5日、BOOMが開発に取り組んでいる超音速旅客機による飛行時間短縮をともに挑戦するべく、パートナーシップ関係を締結したと発表した

新規路線としては、JALが4月に羽田=ニューヨーク線、9月に成田=メルボルン/コナ線を開設する一方、ANAは2月の成田=メキシコシティ線のみだった。今後も、日本人アウトバウンド需要の創出が期待できる地域(中央アジア等)への路線を開設し合うような競争は、大いに歓迎だ。それに比べると、パートナー囲い込みの陣取り合戦が結果的に本業周辺での「ガチンコ勝負」の機会を減らし運賃水準が高めに留め置かれるなど、消費者の利便や選択肢を狭めることにつながらないことを望みたい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。