
フェラーリ328GTSをベースに、ドイツの「ミハラク・デザイン」が1993年に製作したワンオフ・コンセプト、「コンチーゾ」がオークションに出品されている。世界にたった1台しか存在しないこの車が、8年ぶりにオークションの舞台に姿を現した。
【画像】一度見たら忘れられない!ファニーフェイスとスパルタンさが共存するレアなワンオフ・フェラーリ(写真15点)
コンチーゾを理解するには、まず生みの親であるミハラク・デザインを知る必要がある。ベルント・ミハラクが妻ユッタとともに1979年にドイツのマインツで立ち上げたこの工房は、”デザイン”を社名に冠しながらも、実態はコンセプトカーの製作からアクセサリーの開発・販売まで手がける少量生産のカスタムカーメーカーである。
創業から4年後の1983年、ミハラクはフランクフルト・モーターショーに2台を引っ提げて登場する。オペル・コルサをベースにトランクリッド下にハードトップが収まる2シーター・コンバーチブルに仕立てた「コルサ・スパイダー」は約100台の小規模生産にこぎ着け、バイク3台を積めるトレーラー付きのバギー「トピーノ」は公道登録まで果たした。1989年にはフルスケール・モデル「チリンドロ」をフランクフルトに出展。こうして10年以上にわたってモーターショーに作品を送り出しながら、自動車メーカーへのデザイン受託業務を請け負っていたのがミハラク・デザインだった。
そして1993年、集大成とも言えるコンチーゾがフランクフルト・モーターショーに登場した。ベースになっているのは低走行の328 GTSだった。シャシーと駆動系だけを残してボディパネルをすべて剥ぎ取り、イタリアのコーチビルダー、バケッリ&ヴィラが手作業で仕立てたアルミ製のボディを纏わせた。
ドアなし、屋根なし、ウィンドウは地を這うほど低く切り詰め、インテリアは文字どおり必要最小限。”スポーツカーはアスリートであるべき”というミハラクの哲学通り、徹底した軽量化が図られた一台だ。なお、車名「コンチーゾ」はイタリア語で”簡潔”を意味し、この車の設計思想を端的に言い表している。
コンチーゾはベースの328 GTSから約30%の軽量化を達成し、車重はわずか889kg。0→100km/h加速5秒、最高速度278km/hという性能を手に入れた。乗り込むにはドアのないサイドシルをまたぐしかなく、着席するとシート横のコンパートメントにレーシングヘルメットが収められているのが目に入る。鋭い読者ならお気づきかもしれないが、ランチア・ストラトスへのオマージュでもあるのだ。翌1994年のジュネーブ・モーターショーにも出展され国際的な注目を浴び、同年のユーロサイン・デザイン・アワードでは2位を獲得。
「笑っている靴のよう」、「史上最も醜いフェラーリ・コンセプト」、そんな不名誉な声が一部から上がったこともあるが…、個人的にはスパルタンでカッコ良くさえ見える。賛否両論あれど、一度見たら忘れられない一台であることは間違いない。
ミハラクから北米のコレクターに売却されたコンチーゾは、1998年にジュネーブで開かれたオークションを経てベルギー人コレクターのもとへ渡り、なんとリビングルームに飾られることになった。2014年にはベルギーで公道登録を取得。2018年、アメリカ・カリフォルニアへ渡った際には各所がリフレッシュされ、再び走れる状態に整備された。
渡米直後、コンチーゾはロサンゼルスに持ち込まれ、前オーナーとともに人気番組「ジェイ・レノズ・ガレージ」に登場し、ジェイ・レノ本人がステアリングを握った。その後はピーターセン自動車博物館にも展示され、単なるコレクターズ・アイテムを超えた”自動車文化の証人”としての地位を確立している。
現在の走行距離はわずか1万1,408km。うち2018年の渡米以降に刻まれた距離は1,600kmあまりに過ぎない。8年前、RMサザビーズのモナコ・オークションで10万9,250ユーロ(当時のレートで約1400万円)にて落札された当該車両は、今回もRMサザビーズが手掛けるのだが「Sealed」という形式のオークションにて出品されている。
一般的なオークションのように会場で競り参加者の顔が見えるわけではなく、落札価格も見えない。6月17日から入札が始まり1週間の静かな競り(入札者は自分の入札金額の順位だけ見えて、何度も入札ができる)を経て、世界に1台のフェラーリはひっそりと次のオーナーのもとへと渡っていく。
文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)
Photography: Robin Adams © 2026 courtesy of RM Sothebys