吉田監督の熱い演出

――今回『あまちゃん』『サラリーマンNEO』などユーモアのある作品を得意とされる吉田監督でしたが、吉田監督ならでは、という演出や、お話されて印象的なことはありましたか?

阿部:『サラリーマンNEO』を撮ってる人だから、最初は「どういうことを言ってくるんだろう」と思っていたけど、基本的に任せてくれたので、すごくやりやすかったです。でも、昔はすごくとんがってたと聞きました。「絶対に自分の撮りたいものしかやらない」とやっていたのが、ある時心が折れたらしくて(笑)。それ以降、他人に任せるようにしたらうまくいきだしたらしいですよ。

大倉:吉田監督は、ちょっと女子力が高かった印象ですね。

阿部:女子力?(笑)。

大倉:監督を囲んでお昼ごはんを食べていたんですけど、スイッチが入るとお話が止まらないみたいで、一口も手をつけてなかったんです(笑)。お話に熱中するタイプなんだなと思いました。印象的だったのが、確か大島さんと2人のシーンで、監督に「このシーンってどういう気持ちなんですか」と聞いたら、ノートを持ってきてくれたことですね。そのノートに、4~5ページにわたって動詞がいっぱい書いてるんですよ。

「この中ではどの感情ですか」と聞かれたけど、まず単語が並んでるのにびっくりしてしまいました。すごく難しくて、どの単語に当てはまるのか、結局わからなかった(笑)。でも、「こうしてほしい」という監督の要望よりも、こうやって話し合いながら進めていくのかな、とわかった気がしました。

大島:私もホン(台本)読みの時にそのノートを見せていただいたかな。自分が今どの感情になっているか、言葉として読み取って、感情を知る作業をされてるんだということがわかりました。

だからもう、撮影中は監督に見破られちゃいますよね。ちょっと心の動きがずれたりとか、変わったことが心の中に入ってきただけで、監督は見破って「こういう感情じゃないか」とアドバイスしてくれる、とても丁寧な演出をされる方でした。

互いのバランスがうまく働いた3人のシーン

――先ほどは撮影の合間のお話を聞きましたが、演じてみられて印象に残っているシーンや、役のイメージなどを教えてください。

阿部:おふたりは自分の世界観がしっかりある方なので、僕の演技とは少しテンポが違う部分もありました。そこがすごいなと思ったので、テンションを上げたところもありました(笑)。年齢差がありますから、"かみ合わな感"みたいなところも良いバランスだなと。普通じゃないところが、良いと思いました。

実際に完成した映像を見たら、自分が「こんなにエッジが利いた芝居をしていたんだ」と驚きましたね。例えば、僕が演じる栗林が、大島さん演じる千晶に疑われて警戒するところなんか、「動物的に何かを感じて、ここは押さえておこうとする」という芝居をして、一方で大倉くん演じる根津のことは丸め込もうとしていて。

大島:確かに妙なバランスがありました、あのシーン。

大倉:僕はけっこう、いっぱいいっぱいだったんですけど、そのシーンは自分もおふたりのやりとりに入りたいのに、真面目な役だから入れないのが辛かったです。でもテンポも気持ちよかったですし、文字で書いてある台本よりも、あんなに面白くなるのかという驚きがありました。