鉄道に全く興味のない筆者。加えて、来年で三十路になる女の一人旅と言おうものなら、哀愁が漂いすぎる! と思いながらも乗り込んだのは、熊本駅と、熊本県南部の人吉駅を結ぶ「SL人吉」である。観光列車に1人、寂しくならないだろうか。鉄道ファンでもないのに、SLなんて楽しめるのだろうか……。不安な気持ちでいっぱいだったが、線路の先には、エメラルドグリーンの世界が広がる極上の時間が待っていた。

エメラルドグリーンの世界が広がる「SL人吉」の旅

「ハチロク」がみせる貫禄と高級感あふれる空間

SL人吉

「SL人吉」は、熊本県南部の人吉盆地から、八代平野に注ぐ一級河川・球磨川(くまがわ)沿いを走る観光列車。鉄道ファンならおそらく誰でも知っている「ハチロク」(8620形)形式の蒸気機関車に、乗車することができる。

熊本駅のホームに到着すると、煙をたなびかせた真っ黒な車体が現れた。前からみても、後ろからみても、その姿は重厚感にあふれている。JR九州によれば、SL人吉は大正時代に製造されたものとのこと。さすがの貫禄だ。

早速乗車すると、高級感あふれる空間が目をひく。また、SL人吉が「ハチロク」形であることにちなんだ「86」の装飾が、所々にちりばめられていてかわいい。

後ろ姿もかっこいい!

3号車の車内。よく見ると、天井部分の装飾が「86」に

客室は、1号車から3号車まで。木をふんだんに使った内装に、布地や本皮をあしらったボックスシートがぜいたくだ。外の風景をゆっくり堪能できる設計になっているほか、1号車と3号車には、客室とは別に、展望ラウンジを備えている。

車内でのアナウンスでは、客室乗務員さんが「SL人吉は1975年までの53年間、地球の83周に該当する334万kmを走り抜いてきた」と教えてくれた。

さらに引退後、熊本と阿蘇を結ぶ観光列車「あそBOY」としても活躍し、現在に至るという。長年にわたって多くの乗客の足となり、観光客も楽しませてきたことを考えると、SLの存在が妙にいとおしく思えてくる。

車内のあちこちに「86」のデザインが

「86」の「6」の先から棒線がのびていくようなデザインは、煙を表現しているそう

切符の確認時には、乗務員さんが記念乗車証を手渡してくれた。裏には乗車記念のスタンプを押すスペースもある。大切な旅の思い出となりそうだ。

乗車記念のスタンプを押して、旅の思い出作りを

オリジナルグッズや展示品はまるで芸術品

観光列車の楽しみと言えば、車内で買えるオリジナルグッズではないだろうか。2号車にある「ビュッフェ」では、軽い食事や飲み物、おみやげ品を販売していた。

2号車にあるビュッフェ

キーホルダーや携帯ストラップ、ピンバッジなど、SLをモチーフにした商品が満載で、鉄道ファンでなくとも、ときめいてしまう。

オリジナルグッズも販売している

また車内には、いたるところに展示品も。SLの模型を眺めることができるほか、くまモンのぬいぐるみが置かれているスペースもあった。客室でくつろぐのもいいが、車内を探検してみるのも、楽しいだろう。

くまモンもSLの旅を楽しんでいた

鉄道模型の展示も

球磨川が、こんなに美しいとは!

ここで、客室乗務員さんによる沿線の観光案内が始まった。乗客には手作り感満載の「みどころMAP」が配られる。SL人吉の停車駅は熊本駅、人吉駅を除いて6駅。短い時間ではあるが、途中下車も楽しめる。「もうしばらくすると、球磨川を眺めることができます」と乗務員さん。

手作り感満載のみどころMAPを手に、客室乗務員さんが案内してくれる

そこで、景色を眺めるにはぴったりの、展望ラウンジに行ってみた。川と自然を臨むパノラマビューを楽しむことができるという。

3号車の展望ラウンジ

見えてきたのは、エメラルドグリーンに輝く球磨川。目の前には、幻想的な風景が広がっていた。機関車の煙が見えるのも、なんだか風流。ぼーっと眺めているだけで、日常を忘れられる。

球磨川が流れる風景

山の風景が映った水面

さらに日常を忘れてしまいたいという人のために、観光列車ではお酒が売っているのだと思う。ビュッフェで販売されている「からし蓮根」(360円・税込)をつまみに、地ビール「小町麦酒」(620円・税込)を一杯やれば、至福のひとときの完成だ。アルコールが苦手な人や運転の予定がある人には、「晩白柚サイダー」(260円・税込)などもあるので、試してみてほしい。

地ビールとからし蓮根、美しい風景に乾杯!(写真のビールはコップに入っていますが、実際は小瓶で販売されています)

一生幸せになれる切符を手に入れろ!

最後に、途中下車で最も楽しめるポイントを紹介しよう。縁起の良い駅名で知られる「一勝地駅」では、SL人吉の停車に合わせて、ホームで特産品販売が行われている。

駅のホームで特産品販売が行われている

駅名にちなんだ「必勝お守り記念入場券」(160円・税込)のほか、一勝地駅と真幸駅をつなぐ「一生幸せきっぷ」(840円・税込)も販売。一勝地=一生、真幸=真の幸せという意味から、「一生幸せでありますように」と願う、切符とのことだ。

JR九州さんが幸せを祈ってくれる

SLが出発すると、駅の近くに住む地元の人が手を振って見送ってくれた。本当に幸せになれそうな気がしてくる。

川に愛される街・人吉の旅行も楽しんで

人吉駅に到着

終点の人吉駅に到着するまで、約2時間半の旅が終わった。家族連れや老夫婦、鉄道ファンとおぼしき人たちなど、どの客もSLを楽しむ気持ちは一緒。終始あたたかい雰囲気に包まれ、寂しい思いをすることもなかった。また、客室乗務員さんが記念撮影や観光案内などで声をかけてくれるのも、うれしかった。

熊本は黒川温泉や阿蘇などの観光地で知られるが、人吉も隠れた名湯を擁する観光地。川くだりや古い街並みが楽しめるほか、この地伝統の米焼酎、川魚なども味わえる。ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

SL人吉、ありがとう!

※熊本~人吉間の乗車は、乗車券1,820円(税込)のほか、座席指定券820円(税込)が必要。子どもは半額
※運行日が限られているので、JR九州のホームページなどで確認を
※平成28年度は11月20日までの運行
※記事中の情報・価格は2016年10月取材時のもの