避妊以外にもピルは活用できる

妊娠を望まない女性が服用するピル(経口避妊薬)。その働きゆえに「ピルを長く服用していると不妊になるのでは? 」と誤解している人もいるだろう。しかし、「ピルが開発された歴史を知れば、それがいかに誤った認識であるかが分かります」と日本家族計画協会理事長である北村邦夫先生は言う。そこで今回、ピルと妊娠の関係について話をうかがった。

ピルの成分は4日で体内から消える

結論から言うと、コンドームよりも高い避妊効果を期待できるピルの働きは蓄積されるものではなく、不妊どころか妊娠の可能性を高めてくれると北村先生は言う。その理由は、ピルを構成している成分とその働きに関係している。

ピルには、妊娠時に多く分泌される女性ホルモン「エストロゲン」「プロゲステロン」が製剤として配合されている。このピルを服用することで脳が「妊娠している」と勘違いすることで、排卵が抑制される。もちろん、妊娠中ほどの高いホルモン量ではなく、むしろ排卵後の黄体期程度の量であり、1錠のピルの成分は4日ほどで体外に排出されるため、ピルの服用を止めて2~3日もすればまた生理(月経)が起こる。

ただし、ピルの休薬期間であるにも関わらず、月経=消退出血がこないという場合もある。これを"消退出血の欠如"と呼ぶ。これはピルによって子宮内膜の増殖が抑えられるからであり、出血量が少なかったり消退出血自体がこなかったりする。ピルは高い避妊効果を認めるが、それでも2度月経が来なければ、妊娠を疑う必要があると北村先生は指導している。仮に妊娠をしているにも関わらずピルを飲んでいたとしても、今のピルが胎児に与える影響は皆無に等しいという。

不妊女性が妊娠できたきっかけにも

ピルに避妊効果があることが分かったとしても、なぜ妊娠の可能性を高めるのか、と疑問をもつ人もいるだろう。そもそもピルは1960年に世界に先駆けて米国で承認された薬だが、この開発は動物学者であるグレゴリー・ピンカス氏が不妊治療の専門家であったジョン・ロック氏を通じて、不妊女性50人が臨床試験に協力した。この50人の不妊女性に当時のピルを服用してもらったところ、服用を中止した後に7人が妊娠したという。

不妊女性が妊娠できた理由としては、ピルによって排卵が抑制されたためその反跳現象としていい排卵が起こったのではないか、または、女性ホルモンが安定することによって生殖器の成熟が図られたのではないか、などと諸説ある。実際の理由は定かではないが、ピルの開発経緯から見ても、ピルには妊娠に対してポジティブな影響があると考えることができるだろう。

「卵子というのは、実はお母さんのお腹の中にいる時から卵子の元が既に備わっており、その後、卵子の数はどんどん減っていきます。ピルを飲んでいた人の方が卵子の減り方が少ないのでは、と考察している論文もあります。実際デンマークでは、ピルを使用している人とそうでない人の卵巣の予備能力をはかるAMH(卵巣年齢)を見てみると、ピルを使用している人の方が高い数値になっていたという調査もあります。もちろん、ピルをやめなければ妊娠しませんが、ピルを飲んで身体を保護するという考えもあるでしょう。

妊娠は相手があってのことですし、その人自身の卵管や卵巣も含めて身体の状態にも関係します。そのため、AMHが高いから妊娠するとは言い切れませんが、ピルの服用をやめることで、きちんと排卵が起きて月経周期が整うということは言えます」(北村先生)。

妊娠はいろんな環境が整うことが前提となるため、一概に「ピルをやめると妊娠できる」とは言えないが、長期間ピルを服用していたとしても、それが妊娠に対してネガティブに作用するのではなく、妊娠に向けた環境を整える手助けになるとは言えるだろう。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

記事監修: 北村邦夫

群馬県渋川市に生まれ。自治医科大学を一期生として卒業後、群馬県庁に在籍するかたわら、群馬大学医学部産科婦人科教室で臨床を学ぶ。昭和63年(1988)から日本家族計画協会クリニック所長。現在、日本家族計画協会理事長・家族計画研究センター所長、日本思春期学会監事、日本母性衛生学会常務理事など。『ティーンズ・ボディーブック(新装改訂版)』(中央公論新社)、『入門百科プラス 女の子、はじめます。』(小学館)など著書多数。現在、毎日新聞で「Dr北村が語る現代思春期」、中央公論新社web KERAKUにおいて「Dr北村の人"性"相談」を連載中。