都内から日帰り登山というと高尾山をイメージする人が多いだろうが、もちろん、高尾山だけではない。谷川のせせらぎに耳をすませ、鎖が連続する岩稜を越え、山野草を楽しむ。時間的にも体力的にも、日帰りで行くには備えが必要になるだろうが、日本百名山のひとつ「両神山」(埼玉県秩父郡)は春にこそ訪れたいところである。

山頂から奥秩父の山々を一望できる

公共機関で行くなら登山は10~17時を目安に

公共機関を利用して都内から日帰りで両神山登山をするならば、早朝5時前の起床となる。西武鉄道の特急レッドアロー号なら池袋駅から乗り換えなしで西武秩父駅まで約1時間20分、普通電車なら池袋駅から飯能駅乗り換えを経て西武秩父駅まで約2時間。またそこから小鹿野町営バスで約1時間25分かかる。バスの本数は限られているので、日帰り登山を考えているならば、アクセスも含めて事前に無理のない登山計画を立てるようにしよう。

バスは一旦、「道の駅・両神温泉薬師の湯」で乗り換えとなるが、道の駅で滞在せずそのまま乗車するなら、西武秩父駅から登山口である日向大谷口までは片道大人500円となる。2016年5月現在は以下のプランが一般的だろう。なお、同じ秩父鉄道の三峰口駅からもアクセスできるが、西武秩父駅発着の場合と時間はあまり変わらない。

西武秩父駅には土産屋などが軒を連ねる西武秩父仲見世通りがあるが、2017年春には物販・飲食店舗も備えた複合型温泉施設にリニューアルされる

西武秩父駅から登山口まで
08:12 西武鉄道西武秩父駅に到着
08:20 西武鉄道西武秩父駅前にて小鹿野町営バス薬師の湯行きで出発
09:09 小鹿野町営バス薬師の湯に到着
09:13 小鹿野町営バス薬師の湯にて小鹿野町営バス日向大谷口行きで出発
09:48 小鹿野町営バス日向大谷口に到着

休憩を除き、登りは約3時間、下りは約2時間30分を見ておくといいだろう。休憩も合わせて考え、登山は約6~7時間を目安にしておきたい。

登山口から西武秩父駅まで・その1
17:20 小鹿野町営バス日向大谷口にて小鹿野町営バス三峰口行きで出発
17:55 小鹿野町営バス薬師の湯に到着
18:15 小鹿野町営バス薬師の湯にて小鹿野町営バス西武秩父駅行きで出発
19:04 西武鉄道西武秩父駅前に到着

日向大谷口出発が17:20よりも1本前のバスだと15:10となるが、ランチ休憩をしながら登頂してから下山となると、時間的に難しいと思われる。それでもこのバスに間に合ったならば、道の駅・両神温泉薬師の湯で下車し、日帰り温泉と秩父ならではのパンもそろえた「天然酵母 子鹿パン」とで、登山の疲れを癒やしていただきたい。

登山口から西武秩父駅まで・その2
15:10 小鹿野町営バス日向大谷口にて小鹿野町営バス三峰口行きで出発
15:45 小鹿野町営バス薬師の湯に到着
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※道の駅で下車せず、そのまま駅に向かう場合
15:45 小鹿野町営バス薬師の湯にて小鹿野町営バス西武秩父駅行きで出発
16:34 西武鉄道西武秩父駅に到着
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※道の駅で下車する場合
18:15 小鹿野町営バス薬師にて小鹿野町営バス西武秩父駅行きで出発
19:04 西武鉄道西武秩父駅に到着

両神温泉薬師の湯で登山の疲れを癒やすのもいい

沢歩きでマイナスイオンをたっぷりと

両神山の標高は1,723mで、バス停からの標高差は約1,200mとなる。帰路は七滝沢道を下るコースもとれるが、日向大谷口から続く表参道を往復するコースが一般的だ。バス停のすぐ側には民宿「両神山荘」があり、看板犬のポンがひなたぼっこをしながらお出迎えてをしてくれる。山荘にはジュース(150円~)やお酒(300円~)、両神山バッチ(500円)なども用意しているので登山前後に立ち寄ってみるといいだろう。

民宿「両神山荘」の前にて、あくびが止まらないポン

登山の前にルートを再確認

ポンに一旦、お別れをして山の中へ。登り始めてしばらくすると下りが始まる。下山時にはこれを登るということを覚えておくと、下山時にいざ登る際、気持ち的に余裕がもてるかもしれない。

両神山は奥秩父の北側に位置する鋸歯状の岩山で、日帰りで行くには体力的にもややきついところがあるが、さまざまな風景が楽しめるのが魅力。そのひとつが下りが終わった後に現れる谷川だ。緑々とした自然の中で日の光を浴びてきらめく姿は、「はるばる来た甲斐があった」と思わせてくれる。ちょっと目を転ずると滝もある。

谷川のせせらぎが沢全体に響き渡る

先に進むと、道沿いに石像や石碑などが置かれており、両神山は三峰山や武甲山と合わせて「秩父三山」と称されている山岳信仰の霊峰であることに気付かされる。木立の急斜面をジグザクに登りつつ、登り始めて1時間30分くらいのところに差し掛かると、弘法之井戸が見えてくる。ひんやりとした水は飲むこともできるので、ここで水分をたっぷりとっておきたい。

道の端々で石像や石碑に出会う

弘法之井戸の水は想像通りのおいしさ

標高1,290m・登山開始から約2時間のところには、無人の両神清滝小屋が設置されている。この周辺にはテーブルやトイレがあり、また、テントを立てている人たちも見受けられた。この先も休憩ができるテーブルなどは設置されているもののトイレはないので、ランチ休憩をするなら時間的にもこの両神清滝小屋周辺がいいだろう。

両神清滝小屋に到着するのはちょうどお昼時間。ここでしっかりランチ休憩を

アカヤシオが満開の今がベスト!

両神清滝小屋からの道には、ところどころ鎖場が設けられている。慣れないとやや怖いものがあるが、足場を確認しながらゆっくり登って行こう。標高1,624mのところには両神神社と御嶽神社がある。尻尾がやや長い狛犬の側で、登山の安全を祈願したら先に進もう。

神社に到着。尻尾の長い狛犬が待っている

春に両神山登山をオススメするには訳がある。アカヤシオが見頃となるからだ。ヤシオツツジとも呼ばれるこの花は花期が短く、5月中旬に見頃となる。日当たりのいい岩場に自生し、淡いピンクの花をつける。神社を過ぎた辺りからアカヤシオがポツポツと目に入ってくる。訪れた時は4月末だったためまだつぼみが多かったが、花開く頃、この岩場がピンクに染まるのだろうと思うと、そんな姿を観るためにまた登りに来てもいいなと思えた。

満開まであともう少し

山頂に近づくと鎖場が多くなる。両神山自体はそれほど混雑している様子はないものの、鎖場が多くなる山頂付近は道がやや混雑してくる。焦らず一歩一歩進もう。「両神山頂 0.1km」と記された標識が目に入るとホッとしてくるものの、その先に距離は短いもののこの道で一番急な斜面が待ち構えているので、心してかかりたい。

大きな根の間を登っていく

途中には橋やロープなども設置されている

休憩できるスポットも随所に設けられている

鎖場を越えて頂上を目指す

アカヤシオが群れをなす山頂は360度開けており、浅間山や八ヶ岳、奥秩父の山々をぐるっと見渡すことができる。ただし、山頂は切り立った岩場になっておりあまり広くはない。続々と人が登ってきているようなら、あまり長居をしない方がいいだろう。展望自体は山頂のみならず、その途中の過程でも十分楽しめる。

山頂以外でも、気持ちのいい大展望が広がっている

下りは途中で分岐する七滝沢道でもいいが、公共機関を利用するならそのまま来た道を下るほうがスムーズだろう。特に鎖場は登りとは違うスリルがある。鎖で手をけがしないよう、グローブを装着しておいた方が安心だ。帰りも弘法之井戸で水分補給をするなど、適度に休憩を挟むようにしよう。

下山してバス停側の両神山荘にたどり着くと、またポンがウトウトと昼寝をしていた。一生懸命山を登って下っている間、ポンはここでのんびり寝ていたのかなと思うと、その姿もまた愛らしく思えてくる。各駅までのバスの本数が限られているので、計画的に登山をしないと待ちぼうけになることもあるが、下山後にここで登頂祝いのビール(400円~)をいただくのもいいだろう。ひょっとしたら「ここで飲むの? なら、おつまみ出してあげる」などと、民宿の方がサービスしてくれるかも!?

帰ってきても、やっぱりポンはお昼寝中。すごく平和を感じる

※記事中の情報は2016年4月取材時のもの。価格は税込