金融機関や保険会社等が提供する老後に必要な資金のデータは、貯蓄や保険・個人年金等の加入を目的としているために、高額になりがちです。自分の生活感覚に基づいた金額で試算してみましょう。

自分で試算してみよう!

B×12ヶ月×(平均余命-65歳)+C+D-A(もらえる年金額)-E=これから貯蓄が必要な金額

■A: もらえる年金額

現在は?

国民年金と厚生年金の月額(厚生労働省 平成28年1月29日プレスリリースより作成) (C)佐藤章子

※参考 1985年生まれはいくらもらえる?(年額)

1985年生まれの人が65歳になった時点の物価指数で考えたもの(「年金制度における世代間の給付と負担の関係について(平成16年財政再計算による)」より作成) (C)佐藤章子

■B: 高齢者の生活費の実態

総務省統計局家計調査 平成27年平均より作成 (C)佐藤章子

■C: 医療費

高齢になればどうしても病気がちになるのは致し方がありません。医療保障はありますが、突発的な疾患により救急車で運ばれた先のベッド代が3万円/日であれば1カ月の入院で100万円が必要です。保険診療の範囲であれば、高額医療費の制度もありますが、人並みの年金があればさほど戻ってきません。入れ歯が必要になれば、しっかり噛めるものをあつらえようと思えば、やはり100万円程度は必要だそうです。

現在加入している医療保険で補償される額と照らし合わせて、試算してみましょう。予測は難しいですが、当面必要と思われる金額を計上し、必要に応じて修整していくのが良いと思います。

■D: 不測の事態にかかる費用

「夫婦の片方が介護施設に入居して生活が二重になったら?」「夫婦ともまたは単身高齢者施設に入居したいなら?」、そのほかいろいろ考えてみて必要費用を算出します。

■E: 老後のために蓄えた現在の貯蓄額

若い方は教育費等の貯蓄が先決で、まだ老後の生活費のたくわえまでは手が回らないかもしれません。必要な貯蓄額がわかれば、いつごろからどのくらいのペースで貯蓄していけばよいかが分かります。

年金をもらえる権利は自分で守る!

老後に用意する資金を考える上で、「もらえるものは確実にもらう」ことが何よりも大切です。消えた年金が社会問題になりましたが、そもそも人間が行っていることです。入力ミスもあれば、コンピューターの不具合もあるかもしれません。

私は勤めていた時も自営の時もありますが、国民年金の領収書は全て金庫に保管してきました。一枚の欠損もありません。口座引き落としは割引がありますが、通帳を全て保管するのは面倒なので、領収書を残すことをお薦めします。また勤務していた時の会社はいずれも大手企業またはその関連会社でしたので、全く心配はしていませんでしたが、それでも社会保険事務所に出向いて、自分が支払っている厚生年金保険料がしっかり記録に反映されているか、プリントアウトしてもらっていました。記録がその後消えても、少なくともプリントアウトしたものは残ります。

自分で年金をもらう権利を守れる方法なのに、領収書を捨ててしまうのは言語道断です。「将来年金はもらえない」と国を信用していないのに、自分の権利を100%国にゆだねてしまうのは矛盾しています。給与明細や年金保険料の基準報酬額等の明細書でもかまいませんが、印字が消えてしまう場合もあるので、その場合はデジタル化するか、転記する等対策が必要です。

老後設計のためのお役立ちサイト - 元データから実態を知る訓練を

各官庁は実際の年金支給額や毎月の実際の生活費などの統計値を毎年発表しています。いずれも実際の数値です。将来設計を考える場合は、極力元のデータにふれるように心がけましょう。それに自分たちの生活スタイルを加味して考えるようにすると、いたずらに不安をあおられることもありません。

「若い世代は、将来の年金はもらえない」というような記事を多くみかけますが、記事は読んでもらうためにはセンセーショナルになる傾向があります。

しかし、根拠となるデータは圧倒的に官庁や政府の方が多く持っています。丸々信じるのも問題ですが、基本的に公のデータを元に自分で試算して、その後の変化を検証し続けるのが正しい方法だと思います。

■暮らしのデータ

知るぽると→金融と経済のしくみ→暮らしに身近な統計集→暮らしと金融なんでもデータ

■生活費の実態

総務省統計局 家計調査

■平均的年金支給額

厚生労働省→報道・広報→報道発表資料→2016年1月

生活設計で大切なことは、風潮に惑わされずに、「極力、元データを確認する」「自分の生活感覚を大切にする」「自分で計算する」「社会の変化に応じて修整していく」が基本です。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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