ウイスキーがもっとおいしくなる時間を

職人が手をかけ、長ければ数十年の歳月を費やして造られるウイスキー。近年では飲みやすく低価格なウイスキーの登場や多彩な飲み方が知られたことで、若者の間でも人気に火がついた。今ではウイスキー好きな女子も多いのではないだろうか。

しかも日本のウイスキーは、スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダに並んで、世界の5大ウイスキーのひとつにも数えられることも。現在、日本の蒸溜所は数えるほどしかないものの、東京から日帰りで行ける蒸溜所もある。そこで今回、「すぐそこ」とは言えないものの、東京から数時間の距離にある4つの蒸溜所を紹介しよう。

木々の香り漂う、森の蒸溜所

森を進んでい行くと現れる、ふたつに連なった茶色い三角屋根。そんなおとぎ話に登場しそうな蒸溜所が、「サントリー白州蒸溜所」(山梨県北杜市)だ。ここでは「森香るウイスキー」の愛称で知られるシングルモルトウイスキー「白州」が主に製造されている。

無料ガイドツアーでは巨大な銅製の蒸溜釜や、貯蔵庫に果てしなく並ぶ木の樽などを見学できる。そして最後にはもちろんお楽しみの試飲だ。無料ツアーのほか、通常飲むことのできない原酒のテイスティングやウイスキーのおいしい飲み方の講座など、有料で様々なセミナーを開催している。いずれも事前予約が必要となる。

周囲には約82万平方メートル(東京ドームのグラウンド約64面分)の広大な森を持つというこの蒸溜所。森を保護することにより、樽に眠るウイスキーの環境を整えるという意味もあるとのこと。まさに森に包まれて熟成していくのだろう。

アクセスは、JR東日本中央本線「小淵沢駅」よりタクシーで10分ほど。土日曜日・祝日と7月18日~8月31日は小淵沢駅より無料シャトルバスを運行している。東京からはJR東日本「新宿駅」から小淵沢駅までは特急で約2時間となる。

富士山に守られて眠るウイスキー

富士山を背景に広がる蒸溜所と言えば、「キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所」(静岡県御殿場市)である。ここでは、「富士山麓樽熟50°」や「富士山麓シングルモルト18年」などが製造されている。

ウイスキーに使われる水は、富士山の雪解け水が地中を通り、自然の力で約50年をかけてろ過されたという湧き水。また、樽に詰められたウイスキーは年平均気温は13度という環境の中、じっくりと熟成されていくという。

70分間でめぐる試飲付き見学ツアーは無料。プロジェクションマッピングで映像が流れる「ウイスキーシアター」で蒸溜所の魅力を見た後は蒸溜所内を見学する。ラストの試飲ではハイボールの上手な作り方の講習もあるのでぜひ参考にしてみよう。見学は要予約となっている。

蒸溜所の敷地の半分は建設前からあった自然林が残されていて、散策やちょっとしたピクニックも楽しめるという。酔い覚ましの森林浴もいいだろう。アクセスは、JR東海御殿場線「御殿場駅」よりバスもしくはタクシーで15~20分。東京から御殿場駅までは、JR東日本「東京駅」から「国府津駅」乗り換えで約2時間となる。

地ビールも楽しめる

「ウイスキーもビールも楽しみたい! 」。そんな時には「マルスウイスキー 信州マルス蒸留所」(長野県上伊那郡)がオススメ。東京から少し遠いながら、ウイスキーだけでなく信州生まれの地ビール「南信州ビール」も味わうことができる。

ここは長野県で唯一のウイスキー蒸溜所で、ビールの醸造所も併設されている。周囲にそびえる中央アルプスの山並みがいかにも信州らしい。標高798mの高地にあって霧が多く、冬場には氷点下15度にもなるという環境がウイスキーに適しているため、この地に工場を構えたという。

ウイスキー蒸溜所と合わせて、地ビール工場の見学も無料で要予約。ウイスキーの試飲は無料と有料があり、できたてを楽しめる地ビールは有料とのこと。また、お土産として蒸溜所限定のウイスキーやワイン、梅酒、長野県の特産品も販売している。様々な楽しみがある蒸溜所だ。

アクセスは、JR東海飯田線「駒ヶ根駅」または「宮田駅」からタクシーで約10分。東京からはJR東日本「新宿駅」より特急などで約3時間半となる。

世界に名だたるクラフトウイスキー

通常は見学できないものの、知っておきたい蒸溜所がある。国内唯一のウイスキー専業メーカーである「秩父蒸溜所」(埼玉県秩父市)だ。ここでは手作りにこだわった「クラフトウイスキー」を製造している。小規模製造ながら、創業者の肥土伊知郎の名前を取った「イチローズモルト」はワールドウイスキーアワード(WWA)で数々の賞を受賞するなど、世界的にも注目を浴びているという。

一般見学は受け付けていないが、2014年に行われた「秩父ウイスキー祭」の前日には特別に見学ツアーを開催したとのこと。あっという間に予約が埋まるほどの人気だったとか。2015年2月の同祭ではウイスキーセミナーを行っている。今後も訪れる機会があるかもしれない。アクセスは、西武鉄道西武秩父線「西武秩父駅」よりタクシーで約20分。東京から西武秩父駅までは、JR東日本「池袋駅」から特急で約1時間20分となる。

●information
住所: 埼玉県秩父市みどりが丘49

実際に蒸溜所を訪れて思ったのは、ウイスキーの製造は"作業"ではなく人と自然と時間が"育てる"ものだということだ。ウイスキーの語源は「命の水」。そんなことを思いながら樽で時を待つウイスキーを眺め、味わってみてもいいかもしれない。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。