3月21日にプロ将棋棋士とコンピュータによる5対5の団体戦「将棋電王戦FINAL」の第2局、永瀬拓矢六段対Selene(開発者:西海枝昌彦氏)の対局が高知県・高知城で行われ、永瀬六段が勝利。第1局に続く連勝で、プロ棋士側は団体戦の勝利まであと1勝に迫った。電王戦史上、プロ棋士が2勝目を挙げるのは初となる。

対局開始前の様子。開発者の西海枝氏は気合の和服姿で登場

この対局は異例の結末を迎えている。88手目、永瀬六段の指した「△2七同角不成」。この手を対戦相手のSeleneが認識できず、自玉の王手を放置する反則手「▲2二銀」を指したため反則負けとなったのだ。

なぜこんなことになったのか、大いに興味をそそられるところだが、実は反則が出た時点で永瀬六段は自身の勝ちをほぼ読み切っていた。つまり反則負けは最後のおまけのようなもので、勝負としてはそれ以前に決着がついていたということだ。反則負けの詳しい経緯は最後に確認するとして、まずは将棋の内容にしっかり迫っていきたいと思う。

異能派から本格派へ・永瀬拓矢の経歴

永瀬六段は1992年9月生まれの22歳。2009年10月に17歳で四段に昇段しプロ入りしている。前回の第1局に出場した菅井竜也五段と同年代だ。

プロ棋士としての経歴は、2012年度に新人王戦と加古川青流戦(いずれも若手棋士を対象とした公式棋戦)で優勝。年度表彰では11年度・13年度に連勝賞、12年度は新人賞と勝率1位賞を受賞している。2013年度は7大タイトルのひとつである「棋王戦」で挑戦者決定戦に進出した。プロ入り6年目の若手の実績として非常に素晴らしく、同年代の中でもっとも将来を期待されている存在だ。

永瀬拓矢六段

デビュー当時の永瀬六段は、相手の玉をまったく攻めずに受け切って勝つ、千日手が飛び抜けて多い、というやや異端な特徴を持った棋士だった。それでも高勝率を挙げていたので若手の注目株として期待されていたのだが、数年目にがらりと本格派へと変貌を遂げた。

それまで一定の成果を挙げていた自分のスタイルを捨て去ることはとても勇気がいることだろう。だが、異端児と思われていた永瀬六段は、実は研究の虫であり、誰よりも最先端の将棋を深く研究していた。そして、さまざまな知識を吸収した結果として、ごく自然に本格派へと転身し現在に至っている。

今では、将棋界一の努力派、そして研究派として知られた存在にまでなっている。その永瀬六段が、努力の矛先を対コンピュータ戦に向けたとき、いったい何が起きるのか。将棋ファンのみならず、棋士も関係者も固唾を飲んで戦いを見守った。