米国の株高や債券高が世界経済をサポート

今年10月にIMF(国際通貨基金)が発表した見通しによれば、2015年の世界経済成長率は3.8%と、今年の3.3%から加速する。先進国、新興国ともに成長率が高まる予想だ。ただ、その後の原油など資源価格の下落が、新興国、とりわけ資源国に打撃を与えつつあることを考えると、IMFの見通しはやや楽観的過ぎたかもしれない。

もっとも、米国は景気の堅調を維持している。今年7-9月の実質GDPは前期比年率+5.0%と、2003年以来最大の伸びを記録した。とりわけ、経済の約7割を占める個人消費は好調だ。原油安(=ガソリン安)、住宅ローンなど借入金利の低下、株高、ドル高(=輸入品価格の下落)などが追い風になっているようだ。10月以降も労働市場が一段と改善するなど、大きな死角は見当たらない。

2015年も、米国の「一人勝ち」はしばらく続きそうだ。かつてのように米国が機関車となって世界経済をけん引するのは難しいかもしれないが、米国の株高や債券高(=低い市場金利)は、投資家のリスク選好という金融的側面を通して世界経済をサポートしそうだ。

注意が必要なのは、米国の9年ぶりの利上げという一大イベント

注意が必要なのは、米国の9年ぶりの利上げという一大イベントが年央ごろに控えていることだ。それに対して、株価や市場金利はどう反応するか。また、米国の利上げ開始は、その観測が強まるだけでも、グローバルなマネーフローの変化を通じて、各国経済や金融市場に悪影響を及ぼしかねない。

救いは、日本や欧州で金融緩和が続き、あるいは強化されるとみられることだ。ECBが「宣伝中」のQE(量的緩和)を年明け早々にも実行に移し、物価目標の達成が危うくなった日銀がどこかの段階で追加緩和に踏み切れば、グローバルなマネーフローへの悪影響はある程度緩和されるだろう。

米国の利上げ以外にも、世界経済の潜在的なリスク要因は散見される。原油安は産油国を直撃している。ロシアでは大幅なマイナス成長が予想されているし、ベネズエラでもデフォルト(債務不履行)が懸念される状況だ。

2014年中に大統領が決まらなければ、ギリシャは2015年1月にも総選挙を実施する。そうなれば、ユーロに否定的な急進左派政党の躍進が予想される。5月には英国で総選挙が予定されている。キャメロン首相は、再選されれば2017年までにEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると約束しており、総選挙を契機にEU離脱派が勢いを増すようなら英国経済や金融市場に動揺が走るかもしれない。

オバマ大統領と共和党との関係も要注目、中国経済失速も懸念

任期残り2年となったオバマ大統領と、議会の両院を制する共和党との関係も要注目だ。3月には連邦政府のデットシーリング(債務上限)が復活するため、夏場にかけて本格化する2016年度の予算交渉は政府機関閉鎖やデフォルトのリスクをはらむ危険なものとなる可能性がある。

中国では、主要都市でことごとく不動産価格が下落を続けているらしい。管理経済のため、バブルが一気に弾けることはないかもしれないが、中国経済が失速するようなことがあれば、その影響は今やアジア内にとどまらないだろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。