九州のほぼ中央部に位置し、雄大なカルデラを持つ阿蘇山のある熊本県。「火の国」とも呼ばれる一方で国の名水百選に全国最多の8カ所が選出されるなど、「水の国」としての一面があることはご存じだろうか。山に、街中に、庭園に、静かに砂を舞い上がらせながら水がこんこんと湧き出る水源地がある。今回は熊本県お墨付きの水源を紹介していこう。

県職員の背中ではくまモンが水の国をPR

1、水前寺成趣園

肥後細川藩の当主3代が約80年をかけて造営した回遊式の庭園。東海道五十三次を模しており、「富士」や阿蘇の伏流が湧き出る「琵琶湖」が作られている。園内に鎮座する「出水(いずみ)神社」境内には「長寿の水」と呼ばれる神水がある(硬水)。美しい日本庭園と湧水の池を眺めながらのんびり散策したい場所。所在地は熊本市内。

園内のようす

中央の池には魚が遊んでいる

「出水神社」の「長寿の水」

中央が「古今伝授の間」

2、江津湖(えづこ)

そよそよと水草が揺れる川

川のすぐそばには住宅がある

池に入ってゾウさん滑り台で遊べるなんて羨ましい

江津湖は上江津湖と下江津湖からなる、日量40万トンの水が湧き出る熊本市最大の湧水地(熊本市内74万人で1日の上水量は22万トン)。水前寺成趣園の湧水も流れ込んでおり、住宅の隣接する市街地でありながら豊富に水が湧き出る湧水郡は、熊本の水の豊かさを象徴するような「水に恵まれた景観」を堪能できる。

出水地区から上江津湖にかけて散策すると、道の両側を浅い川が流れ、芭蕉が生い茂る小道がある。さらに、水面下に水草が青々と揺れる川、真ん中に象の滑り台が置かれた遊泳可能なため池などがあり、「この場所で育っていたら朝から晩まで水で遊んでいたに違いない」と、思わず近隣住民がうらやましくなってしまうくらい水の豊かな癒やしスポットだ。水温は1年を通して約18.5度で、カワセミやクロサギなどの鳥が飛来し、場所によってはホタルも見られるという。

芭蕉が生い茂る遊歩道

羽根を休めるカモやクロサギ

3、白川水源

熊本市内を流れる一級河川「白川」の最上流部で、熊本市内の人々の生活を支える総水源。毎分60トン湧き出る水は湧水地からすぐに幅5mほどの川となり、膝までつかるかと思われる水量で木々の間を流れていく。

砂を巻き上げて水が湧いている

水源には「白川吉見神社」があり、川の上にかけられた橋を渡って境内に入る。神社の赤と砂を巻き上げる青みがかった湧水、水面下に揺れる藻の緑のコントラストが美しい場所。水温は約14度で、手首まで水につけるとほんの少しの時間でしっかり涼を感じれる。水を直接飲むことができるが、手や柄杓をつけるのをためらってしまうほどの澄んだ水に親しめる。所在地は阿蘇郡南阿蘇村。

白川水源

青々とした水草

4、池上水源

日本名水100選に選ばれた水源地。九重山を源として毎分30トンの水が湧き出る、「大野川」の源流の一つ。

紅葉の時期には紅葉が見られる

緑が深い

白川水源よりも標高が高い山間に位置しており、訪れた当日は平日の雨あがりで観光客も他にいなかったため、ひっそりとした静謐な空気が漂っていた。高い木々に囲まれた水源地は湖面に写る緑と水面下の緑が鮮やかで、湧水から発生した泡が湖面でポコポコとはじける。水源奥の地蔵が置かれた深みでは、緑とも青ともなんとも言えない水色を眺めることができる。所在地は阿蘇郡産山村。

熊本市内74万人の上水道は全て地下水、浄水施設無し! 熊本の水保全への取り組み

熊本は自然の恵みを守るため、県をあげて水を保全する活動を行っている。特に熊本市の活動は盛んで、2013年に国連の"Water for Life"(命の水)最優秀賞を受賞した。また、市内74万人の上水道をすべて地下水でまかなっており、市内には「上水用の浄化施設」がない。そんな「人と水」を象徴するものがある。

番外編1、健軍水源地
熊本市全体の約4分の1にあたる約6万トンを供給している水源地。5号井に代表される「自噴式」の井戸など、地下水を水道水として供給する仕組みを見学できる。

自噴している5号井

敷地内ではそのまま飲める地下水もある

熊本の地下水と池上水源の水はペットボトルでも飲めるよ!!

番外編2、白川中流域ざる田
田に水を張ると、土に水がしみこみ、水道水の源である地下水になる。16世紀に肥後藩主加藤清正によって開墾された白川中流域は阿蘇山の火山性堆積物の影響で平均的な水田の5倍~10倍の高い浸透能力を持ち、「ザル田」と呼ばれている。

近年の作付面積減少や地下水量の減少の対策として、水田にしない田や転作地に水をはり水循環を守る地下水かん養事業がなされている。水を使用している企業から出資を募り、熊本市と共同で湛水(たんすい)している農家に対して助成金を払っているため、地域一体となった水を保全する「仕組み」として機能しているという。

湛水田

「阿蘇山は大きいなぁ……」

訪問した時期はすでに作付けがはじまる時期だったため見学できたのは協力農家の田一枚だったが、農作物を育てていない水田は空を映す大きな鏡のようだった。

番外編3、水道
熊本市内の上水は全て地下水のため、いわば「蛇口をひねればミネラルウォーター」状態。県職員の話では、ミネラルが豊富なため髪や肌もつるつるになるとか。

「熊本ホテルキャッスル」の蛇口からミネラルウォーター

水前寺成趣園参道にてゆるキャラの先輩と写真撮影。市内にはくまモン先輩が沢山いた