加藤氏は部屋の隅でZenを操作する

9路盤は、主に囲碁初心者などを対象とした小さめの碁盤だ。その分、19路盤と違って戦いの流れもシンプルだし、わかりやすい。何より選択肢が減るということは、コンピュータにとって「計算しやすい」という有利さがある。果たして最強囲碁ソフト「Zen」はプロ棋士を相手にどこまで戦えるのか。勝負の流れを追いかけていこう。

今回はZenが黒番(先手)を取った。当然、先手の方が流れを自分で作れる分有利であるため、囲碁では後手である白番に「6目半」を加点することで互角になるよう調整することになっている。「6目半」というのは、6.5ポイントということだ。わざわざ0.5ポイントで区切っているのは、陣地を数えたときに引き分けにならないようにするためである。つまり、最終的に黒が白よりも6ポイント多く陣地を獲得していても、白に6.5ポイントの加点が入るため、白の0.5ポイント勝ちとなるのである。逆に黒が7ポイント多く取っていれば加点分を入れても0.5ポイント黒の勝ちとなる。

初手天元

先手をとったZenは、初手を「天元」に打った(囲碁では「置く」ことを「打つ」と呼ぶ)。

運命の対局がスタートした

天元とは、碁盤のど真ん中の場所のことである。19路盤ではほとんど見ない珍しい手だが、狭い9路盤では一手で四方を睨むことができるため、よく見る戦略だ。余談だが、『ヒカルの碁』では19路盤で初手天元が登場し、周りが驚くという場面があった。

平田三段は上辺に石を展開

対する平田三段は天元の2つ上、5の三と白石を打った。囲碁の序盤は、お互いに様子を伺いながら「だいたいこのへんを陣地にしていきたいな~」という感じで石を配置していくのが常だ。この場合、全体を睨む一手を打ったZenに対し、平田三段は盤の上付近を陣地にしていくぞという意思表示をしたことになる。

下半分を狙うZen

これに対してZenは先ほどの黒石の2つ右に三手目を打った。上半分を陣地にしたい白に対し、下半分を陣地にしていきたい構えを見せたわけだ。このまま境界線が左右に伸びていくとすると、下半分の方が大きくなってしまう。白はどこかで黒に戦いを仕掛ける必要が出てきた。

冷静に足元を固める平田三段

が、平田三段は冷静に四手目を左上に放った。戦争を仕掛けるタイミングを伺いながら、まずは当初の予定通り、上半分を確実に陣地化していこうという作戦である。

Zenの五手目

ここでZenは五手目をこの位置に打った。これはつまり、右下を黒の陣地にしていくぞというZenの戦略が表れた一手なのだが、普通に考えるともっと欲張ってもいいのではないかと思うところである。

こちらに打って境界線を引く手もあったか

すなわち、五手目をここに打つことで境界線を引き、下半分をすべて囲ってしまうという戦略だ。もし黒がこう打っていたらどうなったのかを少し追いかけよう。……続きを読む