人間とコンピュータ囲碁ソフトが対局する「囲碁電王戦」が2月11日、日本棋院で開催され、プロ棋士の張豊猷八段と平田智也三段がコンピュータを相手に4戦全勝。人間の力を見せつけた。

対局の場所となったのは日本棋院の幽玄の間。数々のタイトル戦が行われてきた囲碁ファンにとっての聖地だ

将棋における電王戦はすでに過去2回開催されており、コンピュータがプロ棋士と五番勝負を行って勝ち越すまでになっている。そうなると、次は囲碁だろうと誰もが予想していた矢先のイベントだったこともあり、注目を集めていた。

ただし、コンピュータ囲碁はまだまだ発展途上なこともあり、プロ棋士と勝負できるまでには至っていない。そこで今回の囲碁電王戦では、通常プロ棋士同士の対局で用いられる19路盤ではなく、9路盤を用いての対局が行われることになった。19路盤と9路盤の違いについては後述する。

張豊猷八段(32)

平田智也三段(19)

プロ棋士側から勝負に挑むのは張豊猷八段(32)と平田智也三段(19)。張豊猷八段は12歳で台湾から来日し、プロ棋士としての経験を積んだベテランで、平田智也三段は若手期待のホープだ。電王戦では、この2人のプロ棋士が最強のコンピュータ囲碁ソフトとして名高い「Zen」と3番勝負を行い、先に2勝した方が勝利となるルールで行われた。

「Zen」開発チームの加藤英樹氏

勝負の結果はすでに報じられている通り、プロ棋士側の4戦全勝という結果で終わったわけだが、コンピュータ側も以前からは考えられないほど善戦していた。何しろほんの10年ほど前までは、プロはおろかアマチュアの有段者にすら勝てないレベルだったのだ。最近になってモンテカルロ探索と呼ばれるアルゴリズムが応用されるようになり、コンピュータ囲碁は急速に力を増してきたのである。

では対局の解説に入る前に、まずは囲碁の簡単なルールから説明しておこう。知っている人は読み飛ばしていただいて構わない。

囲碁は、19本の縦線と19本の横線からなる格子状の盤面をフィールドにして行われる戦略ゲームである。片方が黒石を、もう片方が白石を持ち、線と線が交わる交点に置いていく。最初に置くのは黒石側で、以降、白石、黒石、白石……という具合に交互に置き進めていく。よく勘違いしている人がいるが、マス目に置くのはオセロなのでご注意を。

囲碁は一見するとややこしそうに思えるかもしれないが、実はルールそのものは非常に単純だ。囲碁のルールを理解するためには、次の3点を覚えておけばいい。ゲームの勝利条件と、石の生死の条件、そしてゲームの終了条件だ。

1.【ゲームの勝利条件】囲碁は石で囲んだ場所が自分の陣地となり、最終的に相手よりも「陣地」を多く取ったときに勝利となる。

この場合だと黒が囲んだ場所が4つ。白が囲んだ場所が2つなので、4対2で黒がリードしていることになる

2.【石(兵士)の生死を決める条件】囲碁では相手に四方を囲まれたとき、その石が死ぬ。死んだ石は殺した側が取得するが、将棋のように自分の戦力として再度使うことはできない(死んだら死んだまま)。

黒に四方を囲まれている白はこれで「死」となり、黒側に取られてしまう

白石が取られた跡地には、黒石に囲まれた場所ができあがる。取った相手の石は手元にある碁石の入れ物の"フタ"の部分に置いておく。画像右下に白石が一つ入っていることが確認できるだろう

相手の石を囲んで取得するということは、同時に自分の石で囲んだ場所を作ることにもつながる。すなわち「相手の石を取ることが陣地獲得にもなる」ので一石二鳥というわけだ。相手の石をたくさん殺しても、それが直接勝利条件となるわけではないが、殺せば殺すほど陣地を増やすのに有利になるため、結果として勝利に近づいていく。

3.【ゲームの終了条件】お互いに陣地を取り尽くし、これ以上戦っても状況は動かないと判断したらゲーム終了となる。最終的に獲得した陣地を数えて、多い方が勝者となる。

右側を黒が、左側を白が囲んでおり、境界線もはっきりした状態。お互いにこれ以上戦っても仕方ないと判断すればその時点で終了となり、陣地の数を計算する。ちなみに盤の端っこは見えない壁があるようなものなので、囲う必要はない

囲碁で最初に覚えておくべきことはこれだけだ。とてもシンプルで簡単だろう。囲碁では将棋のように石に名前がついているわけではない。一度置いた石を後から動かすことはできず、石の価値はすべて平等だ。

将棋は「相手の王将を取ること」が勝利条件なので、いわば局地戦。囲碁は「相手よりも多くの陣地を取ること」が勝利条件なので、いわば国取りゲームといえるだろう。両者は似て非なるものなのである。

さあ、これで囲碁の簡単なルールは理解できただろうか。次のページから本格的な解説をしていこう。……続きを読む