白としては当然、こんなにも黒に大きく陣地を囲われるのを見逃すわけにはいかない。

黒にとってはちょっとまずい展開

ということで、黒が「囲うぞ」と意思表示していた場所に、白はこんなふうに六手目を叩き込んでくることになる。「ここ、陣地にします」と意思表示していた場所に相手が入り込んでくると、いよいよ戦争が始まるのだ。

しかし、この戦いはいわば白に上下から挟み撃ちを喰らったようなもので、黒が不利になる。そもそも、境界線を真ん中よりも上に引いて「下半分以上もらいます」と宣言するのは欲張りすぎなのだ。

あえての選択だった

……ということで、黒はあえて五手目をここに置き、右下を囲うことにしたのである。陣地の大きさは控えめになったが、それでも十分と見ての戦略だ。

こうした序盤の展開や駆け引きは、計算ではなく「勘」や「感覚」「経験」などがモノを言う。それは人間にしか備わっていない能力であり、だからこそ囲碁ソフトはこれまで人間に勝てなかったのだ。右下を本格的に囲い始め、陣地として宣言し始めた黒側のZen。これに対して白はどのような戦略をとるのかに個性が出る。

平田三段が黒陣に侵入

平田三段がとった次の一手は、黒が「陣地にするよ」と宣言した右下に入っていくというものだった。もしこの白石を放置してこのまま右下にのさばれると、せっかく黒が囲おうとしている陣地がなくなってしまう。

迎え撃つZen

ということで、当然、黒は自分の懐に入ってきた白石に攻撃を仕掛けることになる。ルール説明で述べたように、石は周りを囲うことで取ることができる。逆にいえば周りを囲われなければ取られることはない。

取るか取られるかという攻防が始まると、いよいよ囲碁は中盤戦へと突入していく。

平田三段はさらに戦力を投入していく

攻撃を仕掛けてきた黒に対して、平田三段は戦力をさらに右下に投入していく。この八手目が右の白と隣接していることは、囲碁的にはちゃんとした意味がある。

おさらいしよう

石が一つの場合、四方を囲まれると取られてしまう。では二つ隣接している状態の石を取るためにはどうすればいいかというと、二つ並んだ状態の周囲六カ所をすべて囲う必要があるのだ。

石が二つ隣接している場合は

その両方を囲わなければ取れない

すなわち、石は一つではなく並べてつなげていくことで、どんどん取られにくくなるのである。

ということで平田三段は八手目で石を連結させ、取られにくい状態にしたわけだ。しかし、そうはいっても白の本陣は左上であり、右下はもともと黒の領域である。囲碁が交互に打っていくゲームである以上、数の不利はいかんともしがたい。……続きを読む