ではいよいよ電王戦の解説に入ろう。なお、今回の盤面解説には、iPhoneアプリ「日本棋院 囲碁フリー」を使用している。

勝負は数々のタイトル戦が行われてきた「幽玄の間」で行われた。右側に座っているのはコンピュータの代打ちを務める若手棋士

持ち時間は各20分。すべて使い切ると一手30秒の秒読みに入る(秒読みに入ると30秒以内に打たないと負けとなる)

今回解説するのは、平田智也三段がコンピュータ囲碁ソフト「Zen」と最初に対局した第一局目だ。

先手後手は対局前に「握り」という方法で決める。やり方は割愛するが、今回は「Zen」が黒番、すなわち先手となった。

白側は石を適当に握って盤上に出し、黒側は石を一つか二つ選んで盤上に出す。一つなら「奇数と予想」したということになり、二つなら「偶数と予想」したことになる。白が出した石の数が偶数か奇数かを確認し、黒の予想が当たっていれば黒側がそのまま黒を持つ。外れていたら白側が黒にチェンジする

使用する碁盤は前述した通り、19×19ではなく、9×9で構成された9路盤だ。19路盤と9路盤では同じ囲碁であっても別のゲームと言えるくらいに戦略が違ってくる。

こちらが今回使用する9路盤

こちらが通常プロ棋士が対局で用いる19路盤

囲碁は将棋と違い、交互に置くというルールさえ守っていれば、盤面のどの場所に石を置いても問題ない。その代わり、一度置いた石は動かせない。

9路盤では一手目の選択肢が9×9で81あることになるが、19路盤では19×19で361もあることになる。もちろん、「最初に置く場所はこのあたりがベターである」というセオリーはあるものの、その後の展開まで合わせて考えると、パターンの数はほとんど無限にあると言える。特に序盤における展開の自由度は他のボードゲームに比べても圧倒的に高い。それこそ、コンピュータの計算力をもってしても計算しきれないレベルである。

感覚や感情を持たず、理詰めで考えるコンピュータにとって、この「自由度の高さ」こそが最大のネックになる。

また、将棋と違って囲碁は石の価値がすべて等しく、「歩よりも飛の方が重要」といった単純な重み付けができない。戦況によって「今重要な石」が刻々と変わっていくのだ。最初は何の意味もないと思われていた石が、後半になって重要なキーパーソンとなることも珍しくない。この「価値付けできない」という点もまた、コンピュータにとって苦手とする部分なのだ。

こうした面から、最強囲碁ソフト「Zen」といえども、19路盤ではまだまだプロ棋士には遠く及ばないのが現状だ。しかし、逆にいえばコンピュータの苦手な面を取り払ってやれば、プロ棋士とも互角に勝負できるのではないか。

そこで今回、行われることになったのが9路盤勝負である。……続きを読む