コンピュータ将棋が序盤の壁を越え、勝負は互角の展開へ
飛車先交換の価値がわからず、簡単に許してしまったponanza。山本氏はさして気にしていなかったものの、この展開は第一局で習甦が端歩を突く手の価値を分からずに不利になった展開と似ており、控室の関係者間では「第二局もプロ棋士が完勝か」という空気が漂い始めていた。しかし、そんな空気を吹き飛ばす驚きの手が指される。ponanzaが自ら端歩をズンズンと2回突いたのだ。
端歩を2回連続で突くことを「突き越す」という。第一局では阿部四段が指して、終盤で勝利に結びつく重要なポイントになった手である。その時と同じ意味、同じ状況ではないにせよ、本局ではコンピュータが端歩を突き越した。これは凄いことで、コンピュータ将棋の歴史に残る手といえる。
端歩の突き越しはどんな時でも好手になるとは限らない。しかし、ponanzaの指した端歩はプロにも好評価で、飛車先の歩交換で「後手有利」と言われていたものが「ほとんど互角になった感じがする」と言われていた。同じ時期、ボンクラーズの評価は揺れていた。端歩をひとつ突いたところでは先手の+100程度だったが、突き越したところでは逆に後手の+25となっている。ボンクラーズは、端歩の価値を正確に評価していないということで、ponanzaは序盤の能力でボンクラーズを上回っている可能性が高いといえるだろう。
プロ棋士とコンピュータの読みを上回る、佐藤四段渾身の一手
おやつ勝負で優位に立った佐藤四段。将棋のほうは本格的な戦いが始まって一進一退の攻防が続いていた。そのバランスに変化が生じたのが次の局面だ。
図の△4八馬という手は、難しい手というわけではなく、控室のプロも一番に予想して検討していた手だ。だが、検討が進むと「△4八馬と指したいけれど、後の攻めが続かない」としてこの手を却下していた。また、終局後に山本さんに聞くと、ponanzaも△4八馬は想定していたが、この手なら自分が優勢になると判断していたそうである。
プロもコンピュータも△4八馬と指せば後手が不利になると予想した。しかし、佐藤四段はその△4八馬を指す。当然、控室では驚きの声があがる。
「え、△4八馬指したの?」
「これはつらいのでは」
「何か(控室の検討で見落としている手が)あるのかな……」
ともかく、佐藤四段が指したということで、控室ではあらためて検討が行われた。その結果、先の検討では見落としていた手が発見され「なるほどこれなら悪くない。△4八馬は好手だ」と評価が訂正された。同時に対局中のponanzaも読み筋に異変が起こる。
「今日はponanzaの読み筋を上回る手をたくさん指されて、プロ棋士の強さに驚きましたが、一番びっくりしたのは△4八馬と指された時です。ponanzaは△4八馬なら自分が優勢と読んでいたのに、指されてから読みだすとどんどん評価値が下がってしまった。これには本当に驚きました」
これは終局後に山本氏が語った言葉である。控室のプロとコンピュータ将棋、どちらの読み筋をも上回る渾身の一手で佐藤四段がペースをつかんだ。ボンクラーズの評価も△4八馬が指された直後はコンピュータ側を100点ほど優勢と見ていたが、数手進んだところでは人間側がわずかにプラスになっている。そして局面はいよいよ終盤戦へ突入する。……続きを読む