3月23日、将棋のプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが対峙する「第2回将棋電王戦」が開幕した。

勝負は、日本将棋連盟に所属する現役プロ棋士5人と、第22回世界コンピュータ将棋選手権で上位に入った5つのソフトが、5対5の団体戦形式で戦う。持ち時間は各4時間。対局は3月23日~4月20日まで毎週土曜日に一局ずつ行われ、結果3勝した方が勝者となる。

電王戦の主催は、ニコニコ動画でおなじみのドワンゴとプロ棋士の総本山である公益社団法人日本将棋連盟。対局の模様はニコニコ生放送で全対局が生中継されるほか、モバイル用棋譜中継ソフトの「日本将棋連盟モバイル」でも配信される。

対局が行われる将棋会館。ちょっと古くさ……いや歴史を感じる建物である

人間対コンピュータ、戦いの経緯

第一局の模様をレポートする前に、どうしてプロ棋士とコンピュータが戦うことになったのか、その経緯について説明しておきたい。そこには目頭が熱くなるような人間ドラマもあり、これを知らずして電王戦は語れないのである。

プロ棋士対コンピュータ将棋の公式戦

・2006年 渡辺明竜王 ○-● ボナンザ
・2010年 清水市代女流王将 ●-○ あから2010
・2012年 米長邦雄永世棋聖 ●-○ ボンクラーズ(第1回将棋電王戦)

初めてコンピュータ将棋と対戦した棋士は渡辺明竜王だ。「竜王」という、いかにも強そうな響きから想像できるように、この人はただものではない。相撲で言えば「横綱」にあたるような、将棋界の第一人者。

いきなりラスボスクラスが登場したのにはわけがあって、当時はコンピュータの実力がよくわかっておらず、「横綱が大学相撲の優勝者に胸を貸す」程度の軽いノリで引き受けたのだろう。ところが、コンピュータの実力はプロ一歩手前まで迫っており、渡辺竜王が「途中敗戦を覚悟した瞬間もあった」と対局後に述べるなど、プロをギリギリまで追い詰めたのである。

「やべ いきなりラスボス倒されるところだった」と慌てたのか、次の対戦が行われたのは4年後であった。次に登場したのは、男性プロ棋士に近い実力を持つ女流トップ棋士の清水市代女流王将(当時)。しかし、結果はコンピュータ将棋の快勝に終わる。この一戦で「コンピュータはプロ並みに強い」という認識が一気に広まったのである。

次はいよいよ男性プロ棋士の登場かと思われたが、その前にひとりの男が立ち上がった。当時の日本将棋連盟会長で、往年の大棋士である米長邦雄永世棋聖(故人)だ。現役プロ棋士を除けば、人間側も最強のボスキャラの登場である。十分な研究を行い、必勝作戦を引っ提げて対局に臨んだ米長永世棋聖。しかし、たった一手のミスにより構想は崩壊してしまう。結果はコンピュータ将棋の圧勝に終わったのである。

以上が、これまでの人間対コンピュータの戦いの経緯である。そして、女流トップ棋士と、往年の大棋士が立て続けに完敗したことで、将棋ファンや関係者の中にある疑念が生まれる。

「コンピュータ将棋って、もうとっくにプロ棋士を越えてるんじゃね?」

この疑念を払うべく米長永世棋聖は、現役プロ棋士が団体戦でコンピュータ将棋と戦うことを発表した。そして、ボンクラーズとの対局当時、すでに病に侵されていた米長永世棋聖は、コンピュータ将棋を迎え撃つ5人のプロ棋士を選ぶと、後の全てを託して昨年12月に他界したのである。

つまり、今回のプロ棋士代表の人は、ファンの疑念を払拭する使命を持つだけでなく、亡くなった米長邦雄永世棋聖の意思を継ぎ、コンピュータ将棋へのリベンジを誓ったメンバーであり、文字どおり弔い合戦なのである。……続きを読む