阿部四段、昼食注文でも関係者を驚かせる!

先手が端歩を突き越してからは、しばらく常識的な指し手が続く。32手目まで進んだ時点でボンクラーズの評価もだいぶ戻って習甦の+65。互角といっていい差である。その局面で12:00を回り対局は一時中断、13:00まで昼食休憩に入った。

ちなみに対局者の昼食は出前がとられたが、阿部四段の注文がすごいことになっていた。なんと、うな重(松)と、まぐろづくし(特上)である。控室にこの情報が入ると「おいおい……これは」「将棋会館の出前史上最高金額かもしれない」と話題になったほど。阿部四段、もう気合い入りまくりなのである。

ここがプロ棋士が検討したり、報道陣が取材する控室

昼食休憩が終わり対局が再開されると、盤上で大きな動きがあった。習甦が桂を跳ねて攻撃を開始したのである。

控室では驚きの声があがった。まずプロ棋士や将棋界関係者の声。

「桂馬跳ねたんですか? 単に? ひえー」
「これは阿部さんが待っていた手では?」
「自分なら攻めを続ける自信がないなあ」

そして、さらにコンピュータ将棋の関係者からも驚きの声があがる。

「習甦が自分から攻めるなんて珍しい」
「らしくない感じがします」
「習甦は受けを得意とするソフトなので、先に攻めるとは思わなかった」

図5(34手目)△6五桂の局面、控室を驚かせた習甦の桂跳

プロ棋士とボンクラーズ、割れる見解

習甦の指した手は、明らかな悪手というわけではない。しかし、プロ棋士の感覚では、よほど好条件が整わないと指しにくい手だという。本局の場合、阿部四段が端歩を突き越していることが、習甦から見た場合悪条件となっており、「この局面で桂馬を跳ねて攻めるプロはほとんどいないだろう」という評判だった。しかし、本来「攻めない棋風」であるはずの習甦は、何かに魅入られたように桂馬を跳ねてしまったのだ。

実は、今回の対局に先だって、開発者の竹内氏から習甦のサンプルソフトが阿部四段に提供されている。阿部四段は、そのサンプルを使った事前研究で、このような局面に持ち込めば習甦が桂馬を跳ねて攻めてくるクセがあることを見抜いていたのだ。そして、その先の戦いを徹底的に研究していたのである。

習甦が桂を跳ねてからしばらくは、控室のプロ棋士が予想した通りに進んでいく。局面の評価は、プロ棋士は「難しいが、人間側が良くできそうな気がする」と阿部四段にプラス評価を付けたい雰囲気。対してボンクラーズの評価は、局面が進むにつれて少しずつ習甦有利に振れていった。

ボンクラーズの評価値についてコンピュータ将棋の関係者は、「100点~200点は誤差の範囲。300点差でわずかにリードしたといえるぐらい。500点差つけば有利になった可能性が高い」と説明した。そしてボンクラーズが習甦の+431と評価したのが次の局面だ。

図6(47手目)△5六飛▲同歩の局面、習甦は飛車銀交換で駒損しているが、それよりも先手玉を攻めていることが大きいと評価している

対して控室のプロ棋士が、先手有利と断言し始めたのは上の図から4手後の局面。

図7(51手目)△4四角▲9八玉の局面、この局面でプロは阿部四段有利と断言した

「この局面は、端歩を突き越していることが生きている」というのがプロ棋士の見解。ボンクラーズの評価値は少し下がったが、それでもまだ習甦の+423となっている。

ボンクラーズの評価を、プロ棋士は「そんなことがあるのだろうか」と半信半疑で見ている。コンピュータ将棋の関係者は、500点という有利の目安に達するかどうかを固唾をのんで見守っている。プロ棋士とコンピュータ、果たしてどちらの評価が正しいのだろうか……。

おやつを食べて、終盤戦へ

時間は3:00、対局室におやつが運ばれた。プロとコンピュータの評価が割れて、緊張感が高まったタイミングで「3時のおやつ」とは、なんとも粋な計らいである。これはプロ同士のタイトル戦などでも行われるもので、脳をフル回転させるプロ棋士にとっては甘いものの補給が必須。

ちなみに、習甦の開発者の竹内氏にもおやつが運ばれたが、習甦の代理で駒を動かす役の奨励会員にはなし。ニコニコ生放送では、奨励会員に同情するコメントが流れた。……続きを読む

こちらは六本木にある、ニコニコ動画のライブ会場のニコファーレ。阿久津主税七段の解説はこの会場から放送されていた

会場には電王戦スペシャルバージョンのプリクラがあった

用意されていたのはプロ棋士代表5人のフレーム。うーむ、女流棋士のほうがよかったんじゃ……