『Fate/Zero』の映像制作を支えるufotableの新進気鋭スタッフを7つのカテゴリーから紹介。今回は「背景」のお二人に話を聞きました。

はじめまして、キム・ミンジさん・寺尾優一さん

――まずは、自己紹介をお願いいたします
キム:『Fate/Zero』で「背景」を担当していますキム・ミンジ(写真左)です。ufotableには2009年4月に入社しました。
寺尾:同じく『Fate/Zero』で「背景」を担当しています寺尾優一(写真右)です。僕は2003年12月に入社しました。

背景:キム・ミンジさん・寺尾優一さん

――寺尾さんは撮影監督でもありますが、本日は「背景」でのご登場ですね
寺尾:はい、「背景」としてインタビューを受けるのは初めてなので楽しみです。どうして「背景」としてなのかは、後ほどお話ししますね。

――ありがとうございます。ではまずお二人は、どういった経緯でufotableに入ることになったのですか?
キム:アニメ業界の就職先を探していて、ある時ufotableのHPを見たら「募集要項」に「勝負服で来てください」って書いてあったんですよ(笑)。「個性的で面白い会社だな、これは私に合っているかも」と思って履歴書を出しました。面接も雑談中心で面白かったですね。

寺尾:僕は学生時代、大阪の大学に通って自主制作映画のアニメを作っていまして、関東の大学のサークルと一緒に上映会をやったりもしていました。それで、大学3年のある時、世界を船で廻る旅に出たらお金がなくなっちゃって(笑)、「とにかくお金を稼がなきゃ! 働こう! でもどこで?」と考えていた時に、たまたま先輩にアニメの制作会社に詳しい人がいて、その人にufotableを教えてもらって面接を受けました。

――お二人は最初から「背景」として入社されたんですか?
キム:はい、私は「背景」として入社しました。もともと漫画やアニメが好きで、韓国から日本へ留学に来た際に日本のアニメの良さに触れてアニメ関係で働きたいと思ったんです。絵を描くのが好きで最初は作画希望だったんですけど、学校に入って勉強している内に背景が面白くなってきて、気がついたら背景美術の世界に進みたいと思っていました。

寺尾:僕は当初「制作部」を希望していたのですが、入社が決まって配属されたのがufotable内に出来たばっかりの「撮影部(現・デジタル映像部)」だったんです。その時はアニメの撮影が何するのかすら全然知らなかったんですけど、今では撮影監督をやらせて頂けるまでになりました。『Fate/Zero』では、金さんとはちょっと似ているけど全然違う作り方で「背景」を作っているんです。

「背景」の奥深い世界

――アニメの背景は、最終的に「撮影」でキャラクターと重ねるかと思いますが、背景自体は、具体的に、いつ、どのタイミングで、どうやって描くものなのでしょうか?
キム:まず、各話各カットの作画さんが、絵コンテを元に画面設計図であるレイアウトを描いたら、それが美術に廻ってきます。それを元に、まず「背景の設定」を決めます。そのシーンに合うものを何度か描きながら打ち合わせをして「これでこの場面の設定が決定」となったら、その設定をもとに、各カットの背景を描いていきます。その背景のシーンが10カットあったら基本的には10枚必要です。今はほとんどデジタル作業ですが、時によっては手作業で紙に描いたりもしています。いいものを仕上げるのにデジタルか手書きなのかは関係ないんですよね。

――さて、ここで「撮影監督」の寺尾さんが、なぜ今回「背景」として登場されているのかお伺いしてもよろしいでしょうか?
寺尾:映像内の各カット、一つの”画”の印象の多くは”光の表現”で成り立っています。いわゆる”アニメ”の作り方だと背景の領分に当たるんですが、ufotableの撮影チームはそこに積極的に踏み込んでいくんです。ufotableでは撮影と美術(背景)の境界がすごく薄くなっているので、近藤的に「寺尾は背景としてインタビューを受けて来い」って事になったんだと思います。

キム:最初は正直「何そのやり方?」っていう感じに抵抗感もあったんですが、結果として「それで最終的に良い映像になって成功するならいいね!」って事になったんです。

寺尾:僕達は座席も美術さんの近くの席に座って、美術を描いてもらっている段階で「僕だったらこうする(こうしたい)」と言って、試しにキャラを背景に載せて撮影したものを美術に戻したりして、最終的な画面からの逆算で背景を作ってもらったりするんです。

キム:ファーストシーズンの第4話・5話はそんな作り方でしたよね。

寺尾:そうだね。おかげで街灯の照り返しやキャラクターへの照明効果、スモークのゆらぎ、剣撃エフェクトに集中出来た。制作期間の中でも細部を作りこむ事が出来るのはそれを許してくれる皆のキャラクターとこの距離のおかげだね。こういうコミュニケーションはufotableの特徴の一つだと思う。