壊れた分だけ地面が必要

――それでは『Fate/Zero』1stシーズン(1~13話)にて、ご自身のお仕事で「ここ頑張りました!」というものを教えて下さい
キム:第4話でセイバーとランサーが戦っているシーンです。あのシーン、戦う度に地面が壊れていくので、1カットごとに「キャラがこう動いたから、ここにまた一つヒビを入れて」と背景的にはかなり細かく作業していかなきゃいけないシーンなんです。でもたまにレイアウトがカット順に来ない時があって、後から見返したら「しまった、地面が壊れるタイミングが違う!」ってこともありました。そうすると当然直さなきゃいけないので、4話をやっている時は、寝袋を持って来て会社で寝泊まりしながら描いていました。「女としてはダメだなぁ~」なんて思いながら(笑)、でも楽しかったですね。

寺尾:全然いいと思うけど。あそこを乗り越えた後、グッとうまくなったよね。

キム:やりがいもありましたし、最終的に映像もキレイに仕上がって、何より視聴者の方が楽しんでくださってうれしかったです。

寺尾:僕は「空」ですね。もっというと空の”青”、「TYPE-MOONブルー」の表現。作中のどこにでも登場して、”TYPE-MOONのキャラクターだけが映える空のカラー”というものがあると思っています。原作の挿絵のブルーも美しいです。また「青色」といいますが、「数値で表現できる青」ではなく「印象としての青色」なのですごく繊細なんですね。こんな時はこの色、というTYPE-MOONさんの感覚や経験の積み重ねなんだろうなと。

寺尾:文字だけだとわかりにくいので、参考までに僕がTYPE-MOONの作品「空の境界」をイメージしてスタジオの屋上から撮影した写真をご紹介します。夜なのに明るい、と言われる事がありますが、実際は撮り方次第、です。(余談ですがここは14話・15話の時臣と雁夜の対決シーンのロケーション参考としても登場しています)

『Fate/Zero』2ndシーズン、いよいよフィナーレへ!

――では、いよいよ2ndシーズン放送もフィナーレへ向け動き出しましたが、現在放送された中で「ここ頑張りました!」という所はありますか?
キム:切嗣の過去回である第18話は、初出の設定(初めて描かれる背景)がほとんどなので、他話数とはまた違った大変さがありましたね。空を濃い青にしたら、演出の栖原さんに「そこまで青くしないでほしい」って言われたりといった様に、監督さんや演出さんの頭の中のイメージと自分のイメージが合わなかったら全てやり直しなので、初出は本当に大変なんですよ。

寺尾:シャーレイとケリィのデートシーンだよね、しかも最後は撮影で深い青に持っていった! もちろん栖原さんも納得したんだけど、撮影したら新しい発見があって、そこから画面の方向が変わることも多いです。

大変と楽しいって僕達には同じ意味。その上で……セカンドシーズンは、とっても楽しませてもらいました。既に放映済みの15話は3Dと2Dの素材が入り乱れるシーンが多く、3Dディレクターが自ら大海魔を操り、バーサーカーがF15にのって大暴れして……。マシンや自分たちからも何やら霧がもくもくしてた記憶すらありますが、何とか面白い表現になったと思います。後は僕はコツコツ空中戦のシーン用に雲海を作っていました。自分まで空を飛んでいるようで、それはもう “楽しかった”ですね。

また映像的には第21話のセイバーがVMAXを駆るシーンも一つの見どころとなっているはずです。ここでもカット内に2D美術とCGが入り見られます。制作も物量戦となったために放映直前まで作業させていただいたり……、この辺は限界まで時間を調整してくれた制作吉田くんの力も大きいです。

最後に、終盤の一大クライマックスシーンでの”アイオニオン・ヘタイロイ”からの一連のシーケンス。美術として、撮影として、最高の布陣で臨んでいます。ご期待いただければ幸いです。

これからの「背景」への取り組み

――お二人が思うufotableの魅力は、どんな点でしょうか?
キム:やる気があって実力があれば、新人にもチャンスがある事です。それは社長の近藤さんの考え方なんだと思いますが、例えば私はまだ3年目なのにこうしてインタビューも受けられちゃいましたからね(笑)。この自由さは本当に魅力です。

寺尾:ほんとフリーダムだね! 僕からは「一人一人が観客や作品を想って作ろう」という文化を推したい。日々何を作り、お客さんに届けるべきか考え続ける。これはスタジオから全スタッフに与えられた使命の一つです。”自由”といったけど、大規模なチームが自由を維持するのはとても難しくて。スタジオが成長する中では、チームや部署の壁が存在する理由が分かればこそ、乗り越えることも可能ですから。新人だから間違える! 背景だからやってはいけない! ”常識”は細部に及びますが、僕達は何故? と問いかけ合う様に心がけています。そうしている内に、自然、”皆で作っている”雰囲気が出来てくるんですね。これは面白いですよ。100人超のチームスタッフが全員で作品やお客さんを想って作る、すごいエネルギーです。同じ作ってる事には変わりないんですが、全然作品の空気が変わってきます。

あ、あとは、アニメ、ご飯、睡眠と全部そろってる所です!
キム:寺尾さん、いっぱい寝てます……?
寺尾:たまに、いっぱい。でも、ちゃんと寝られていますよ!

――そんなufotableの中で、お二人が近い未来(3年以内)に「こんな風になりたい」「こんな仕事がしてみたい」というものはありますか?
キム:背景と3Dを融合させて、より良い作品を作りたいです。今の時代、3Dって欠かせないものだと思うので、背景にも取り入れていかないといけないと思うんです。3Dが入ることで作業的には複雑になったりもするのですが、そういった制作のアプローチも目指していきたいなと思います。

寺尾:「背景」の寺尾としては、大作映画の様な、満腹感のある映像をアニメで作っていきたいです。アニメとしての佇(たたず)まいを維持したまま、現在よりも次元の違う映像の品質を当たり前にしたいです。そのためには、精度の高い背景美術をコンスタントに制作するノウハウが必要だと思っています。そのために全くアプローチの違う描き方を模索している所で。3年後、いや、もう少し早く作品で導入出来たらと思いますね。

――さらなるご活躍を期待しております! 本日はありがとうございました!