こんにちは。一日3時間をニコニコ動画に費やすダメ社会人、山田井ユウキです。

今日もさっそく最近流行の動画や埋もれている良動画を独断と偏見で皆さんに紹介していこうと思います。選ぶ基準はただ一つ、僕の趣味です!

ニコニコ動画内で静かなブームを巻き起こしている「垰瀬内シリーズ」というジャンルをご存じでしょうか。

そもそも「垰瀬内」を何て読むのかわからない、という方も多いと思いますが、これは「たおせない」と読み、ニコニコ動画で人気の楽曲「エアーマンが倒せない」から派生して生まれたタイトルなのです。

といってもまだ意味がわからないかと思いますので、まずは動画をご覧ください。

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初音ミクの名曲「初音ミクの消失」の歌ってみた動画――ですが、この作品のすごいところは、原曲の歌詞をすべて駅名で再現していることにあります。どういうことかというと、たとえば「かつて歌うこと」という歌詞があったとしたら、それを「楽田(がくでん)歌津(うたつ)厚東(ことう)」という風に地名で置き換えるのです。そしてこれをメロディーに乗せると、ちゃんと「かつてうたうこと」と聞こえるというわけ。

こう書くと何だか簡単そうですが、歌詞の置き換えからそれを不自然なく歌うところまで持っていくのはかなり難しい。しかも「初音ミクの消失」は、そもそもほとんどの人が歌うことすらできないと言われるほど高難度な楽曲であり、そう考えるとこの動画がどれだけ衝撃的だったかがわかるというものです。

実はこうした「地名に置き換える」という遊びは2007年のニコニコ動画初期からひっそりと行われてきており、遡ると次の動画にたどり着くようです。

当時ニコニコ動画で大流行していた「組曲『ニコニコ動画』」の「歌ってみた」。そこに投稿されたこの通称「適当組曲」は、「日本の都道府県名を連呼して無理やり歌いきる」という無茶なコンセプトでカルト的な人気を得ていました。

そんな「適当組曲」は最終的に10人以上が「歌ってみた」を投稿するという局地的な盛り上がりを見せることになるのですが、2007年11月、その流れを汲んだある動画が投稿されました。

それが冒頭でご紹介した「垰瀬内シリーズ」の元祖となる「エアーマンが垰瀬内」だったのです。

初期ニコニコ動画で大ヒットし、多数の替え歌を生み出した「エアーマンが倒せない」と、適当組曲をミックスし、都道府県名だけでなくよりマニアックな地名を採用して原曲の歌詞を再現するという試みは、ここから静かに始まりました。

……といっても、「エアーマンが垰瀬内」一曲のみではシリーズとは呼べません。垰瀬内シリーズ第二弾としてこちらの動画が投稿されたことにより、ようやくこの垰瀬内シリーズは一つのジャンルとして定着していくことになったのです。

さて、こうしてシリーズ化された「垰瀬内シリーズ」ですが、2009年に転機が訪れます。それがこの「【駅名替え歌】プラット★ホームJR」。地名ではなく駅名で歌詞を再現したこちらの動画はもともと「駅名記憶向上委員会」というタグ付けがされていた替え歌シリーズの一つで、要するに「適当組曲」の駅名版です。

歌詞の再現までは行っていなかった「適当組曲」と「駅名記憶向上委員会」の2つが「垰瀬内シリーズ」へとつながったことで、ここに新たに「名称をジャンル縛りで用いて歌詞を再現する」という、現在の「垰瀬内シリーズ」におけるポピュラーなスタイルが確立されたのでした。

現在でも、冒頭でご紹介した歌い手の「じょん」を始めとする何人かの歌い手がこのジャンルで活躍しており、いくつもの大ヒット動画が生まれています。

ニコニコ動画の大ヒット曲「メルト」の歌詞をサッカー選手の名前だけで再現した動画。元歌詞を知っていてサッカーに詳しい方なら腹を抱えて笑い転げてしまう凄まじい破壊力を秘めた作品です。

こちらはボーカロイド「猫村いろは」を用いて、アニメ「とある科学の超電磁砲」のOP曲「only my railgun」を野球選手名で再現した動画。この「only my railgun」を再現するシリーズは特に人気があり、「垰瀬内シリーズ」の中でも「とある●●の人名辞典」シリーズという独立したタグで分類されています。

ラストは現役の「垰瀬内シリーズ」の歌い手「じょん」の駅名替え歌「ローリンホーム」をご紹介。原曲はニコニコ動画の大ヒットボカロ曲「ローリンガール」をご紹介。こうして聞くと、やはり歌が難しいというよりもまず歌詞を作るのが大変だということがよくわかります。

「垰瀬内シリーズ」はどうしてもその分野に対しての膨大な知識が必要になるため、なかなか挑戦する新人が出てこないのが実情ではありますが、サブカルならではのお遊びとして今後もひっそりと長く続いてほしいなと思います。

勝手エヴァンジェリスト・山田井ユウキ

1980年生まれ。レビューサイト「カフェオレ・ライター」で、映画、漫画、ゲームなどを独自視点からレビューする他、「builder by ZDNet Japan」「ハリウッドチャンネル」など各種媒体で記事を連載中。どんなに忙しくても一日数時間ニコニコ動画に費やすという、社会人としてあるまじき生活を謳歌中。好きな動画ジャンルはゲーム実況、ボカロ、他エンタメ系全般。

(タイトルイラスト:3P3P) ※本コラムで紹介している動画は、作者やサイトなどの都合により削除されることもあります。あらかじめご了承ください。