住棟番号に萌える

住棟番号に注ぐ並々ならぬ愛情について熱く語ってくれた益子歩さん

ここまでの内容が団地の「概論」だったのに対し、「各論」のプレゼンテーションを行ったのが益子歩さんだ。益子さんは団地の側面などに付いている「住棟番号」に注目し、日々観察を行っているという。特に公団住宅の住棟番号は独特の角張った書体で掲示されていることが多く、書体そのものが持つ味わいに心が「キュンキュンする」(益子さん)といい、表記方法・大きさ・表示位置などの微妙な違いなどを探すのがとても楽しいのだという。

表記方法では、単にひとつの数字を掲示するのではなく、「3-14」などとハイフンで複数の数字が接続されていることもあり、これは「3街区の14号棟」といった意味となる。同様に、「2丁目5番地にある7号棟」を表すために「2-5-7」などと表記されているものもあり、益子さんが最も好きなのがこの3連タイプだという。そのほか、その棟が立てられた西暦の下2ケタを取って「84-2」としたもの、方角と組み合わせて「E-47」としたものなど、番号が持つ意味も団地によってさまざまだ。

独特の書体が目を引く住棟番号。このように3連のものもある

竣工年を住棟番号にしている例

歴史のある公団住宅の住棟番号をよく見ると、塗装ではなくタイルを並べたものを番号としているところも多い。「当時の人はこんな凝った造りをよくやったなあと思います。それだけ今に比べて余裕があったということかもしれません」(益子さん)。そのほか、パネルを打ち付ける、ワイヤーや金属板を文字の形に曲げたものを取り付けるなど、住棟番号自体の素材が何であるかも観賞のポイントとなる。

花見川団地の実際の例。小さなタイルを並べるなど手間がかかっている

新しい年代のものになるほどパネルやペイントになっていることが多い

ワイヤー状の金属を曲げて作った例。書体もポップな印象だ

文字のスタイルだけでなく掲示位置や大きさなどもさまざま。後から低い位置に同じ番号を追加で掲示したと思われるものも

それにしても、これほど住棟番号に魅せられるようになったきっかけは、一体何なのだろうか。一軒家で生まれ育った益子さんだが、小学生のころ、新しく知り合った友達の住所を教えてもらったとき、末尾に「C-7」といった謎の番号が付いていた。それを見て「自分の家に番号があるなんてすごい、かっこいい」と感じ、あるとき思わずその団地を実際に訪ねてしまった。すると初めての場所なのに、番号を追っていくだけで、確かに友達の名前が表札に書かれた家を見つけることができたという。

そのときの「番号だけでそこにたどりつけるなんて、こんなに素晴らしいことはない」という感動が、現在にまで至る住棟番号への愛情と、それがある団地への関心の源泉になっている。益子さんはこれからも、まだ見ぬ住棟番号を求めて各地の団地を訪ね、番号を写真に収めていきたいと話していた。