4月に入り、約40本もの新作アニメがスタートする。しかし大量の作品を前に「で、どれが面白いの?」という悩みを抱えた人も多いはず。そこで本記事では、新番組の枠からは外れた見落としがちなおすすめアニメを2本紹介しておきたい。どちらも日本、そしてアジアという舞台にこだわった完成度の高い作品となっている。

1本目は『精霊の守り人』。昨年2007年にNHK-BS2で放送された作品で、ついにこの度地上波にお目見えとなった。4月5日からNHK教育にて、毎週土曜日朝9時より放送が行われる。

物語の中心となるのは女用心棒バルサと皇子チャグム。バルサは、とある事故からチャグムの命を救った腕を買われ、チャグムを逃がしてほしいと妃から頼まれる。チャグムは水の精霊の卵を体内に宿していた。物語はバルサとチャグムの逃亡劇を軸に展開していく。

短槍の名手である女用心棒バルサ。神山作品としては『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の草薙素子に続いて、大人の女性が主人公となった

川に投げ出されたチャグムを救おうとしたバルサは謎の光を目にする。それはチャグムが体内に宿した水の精霊によるものだった

圧倒的なスピードで展開されるアクションシーンも作品の大きな見どころ。バルサ姐さん、めっぽう強いです

『精霊の守り人』のキーワードは「ハイ・ファンタジー」。ハイ・ファンタジーとは舞台の架空世界を丸ごと作り上げたファンタジー作品を示す言葉で、『指輪物語』(=『ロード・オブ・ザ・リング』)や『ゲド戦記』などがこれにあたる。異世界ファンタジーに近い意味合いだが、本格的なハイ・ファンタジーとなると架空世界の文化や言語、歴史や生態系などを作り込む必要があるため、作り手に要求される労力は並大抵ではない。『精霊の守り人』は、原作・アニメ版とも見事にこのハイ・ファンタジーとしての要素を満たしており、西洋ファンタジーとは一線を画した、東洋的な世界観であるため、しばしば「アジアン・ハイ・ファンタジー」と呼ばれている。

原作は文化人類学者でもある作家、上橋菜穂子による同名児童文学。監督と脚本(共同)は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズで一躍注目を集めたアニメ演出家、神山健治が務めた。制作は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』以外にも多数の代表作を持つProductionI.Gが手がけ、テレビアニメながら、劇場用アニメ並の密度を備えた画面作りが行われている。

原作の映像化にあたり、神山監督以下アニメスタッフが取った手段は真っ向勝負。原作の描写と挿絵のイメージを元にしながら、活気に満ちた市場や、青々とした夏の田園風景、奥深い広葉樹林などが丹念に映像化されている。東アジアの原風景を巧みにブレンドした独自の世界観は、我々日本人にとって初めて見るのに懐かしいものばかりだ。

ドラマ面の見どころも多い。もともとしっかりと作られた原作をさらに肉付けし、バルサとチャグムの血縁を超えた絆が全26本通してじっくりと描かれている。アニメ版ではとくに脇役たちのドラマが厚みを増している印象で、それぞれの立場でプロの大人が知恵を絞って問題に立ち向かう姿は古代の『プロジェクトX』でもある。単純な善人や悪人がひとりも登場しなかったり、作中の人物たちが言葉よりもまず行動してみせたりと、作り手たちの「大人の背中」を随所に感じさせてくれる作品だ。

生きるとは、親子とは、といった普遍的なテーマに取り組みつつ、エンターテインメントの要素もしっかり持ち合わせた『精霊の守り人』には「原作の理想的な映像化」という単純な誉め言葉では追いつかないほどの凄みがある。テレビアニメの地域格差が叫ばれる昨今、NHK教育で全国放送される本作を見逃してしまうのはあまりにももったいない。放送直前ではあるが、ぜひとも毎週追いかけて見てほしい1本だ。

DVDはジェネオン エンタテインメントより毎月リリース中。また4月18日発売のマンガ雑誌「ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス刊)では『ジン ~アニメ 精霊の守り人外伝~』が連載開始。アニメ版のキャラクターデザインを務めたマンガ家、麻生我等が自ら作画を行うスピンオフ作品とあって、こちらも期待したい。

バルサの過去が明らかになるDVD第11巻はジェネオン エンタテインメントより4月25日に発売。価格は6,090円

「ヤングガンガン」でスタートする『ジン ~アニメ 精霊の守り人外伝~』の予告カットから。バルサと戦った隠密集団のひとり、ジンの物語が描かれる

(C)上橋菜穂子/偕成社/「精霊の守り人」製作委員会