もうひとつの注目作は、4月11日にバンダイビジュアルよりDVDとBDがリリースされる2007年公開の劇場用アニメ『ストレンヂア 無皇刃譚』(以下『ストレンヂア』)。
舞台は戦国時代。刀を封印した凄腕の素浪人「名無し」と謎を宿した少年「仔太郎」のコンビを軸に、大陸から渡来した明国の刺客との血で血を洗う死闘が、怒涛の勢いで展開される。
本作のキーワードは、なんと言っても「チャンバラ」。息詰まる剣戟の魅力に徹底的にこだわった作品で、アクション映画や時代劇好きにはたまらない内容となっている。チャンバラ以外にも「黒澤映画」「カウボーイビバップ」「戦国時代」「異種格闘技」という単語にピンと来る人には、とくに強くおすすめしたい。
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素性も経歴も名前も不明という主人公、名無し。TOKIOの長瀬智也が野性味のなかにも暖かみを持った主人公像を好演 |
最強の敵となる大陸の剣士、羅狼。山ちゃんことベテラン声優の山寺宏一が中国語のセリフもこなしている |
ここで本作のアクションの凄みについて徹底的に語ることももちろん可能なのだが、DVDとブルーレイの発売に合わせた特設サイトでは、壮絶なアクションが展開する冒頭5分間が無料で配信されている。なにを置いても実際の映像を見てもらったほうが話は早いので、いますぐ映像を確かめてみてほしい。
と、『ストレンヂア』の一端を見ていただいたところで作品解説を続けていきたい。本作の制作は『鋼の錬金術師』などを代表作に持ち、アクションアニメを得意中の得意とするボンズ。『ストレンヂア』に連なるハードな作品としては『カウボーイビバップ 天国の扉』も手がけている。
監督は数々のボンズ作品に作画や演出で参加してきた安藤真裕で、本作が初監督作品。アニメーター出身の安藤監督が率いただけあって、作画陣の持ち味をフルに活用したフィルムに仕上がった。脚本は実在感のあるアニメ演出が持ち味の高山文彦(『機動戦士ガンダム0080』監督など)が担当。シンプルかつ深みのあるストーリーテリングを行っている。
アクションのためのアクション映画としてまとめられているものの、ひと癖もふた癖もあるキャラクターや、日本らしい風景を描き出した美術、太鼓を用いて戦いを盛り上げる音楽など、それ以外の見どころもしっかりと備えているのが心憎い。直球勝負だが脇も堅いという、質実剛健なフィルムに仕上がっているので、見返す度に発見があるはずだ。
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様々な武器を携え、名無しと仔太郎に迫る明国の刺客たち。安藤監督は忍者と異なる暗殺集団を登場させたかったのだとか |
名無しと羅狼の印象的な出会いのシーンから。ドライな死生観で貫かれた乱世の戦いには、寒々とした日本の冬がよく似合う |
「完全オリジナルの時代劇アニメ映画を作る」という果敢な挑戦を行い、見事それをやってのけた本作には、周囲の人間もやはりエールを送りたくなるらしい。公式サイトには応援コメントとして、庵野秀明(『新世紀エヴァンゲリオン』)、大友克洋(『AKIRA』)、押井守(『イノセンス』)、原恵一(『クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』)、西尾鉄也(『イノセンス』)、水島精二(『機動戦士ガンダム00』)、今敏(『パプリカ』)、スタン・リー(『スパイダーマン』)、ゆうきまさみ(『機動警察パトレイバー』)、島本和彦(『逆境ナイン』)といった錚々たる顔ぶれが思い思いの感想を寄せている。『精霊の守り人』の神山健治監督も賛辞を送っているほか、意外なところではマンガ家の吉田戦車もイラストと長文で本作を熱く語っているので、こちらもチェックしておきたい。
実写映画、マンガ、ゲームなどの分野で、時代劇や戦国時代に題材を取ったアクション作品は数多いが『ストレンヂア』はアニメ界の代表選手として申し分ない作品だ。上映館数も限られていたので、見逃してしまった人は今回のソフト化で日本最先端のアクションアニメを堪能してみてほしい。
奇しくも2007年の同時期に世に送り出された『精霊の守り人』と『ストレンヂア 無皇刃譚』。どちらも美少女やロボットが売りのアニメではないので、ともすれば地味と取られてしまう両作品だが、それ以外の要素は余りあるほど込められている。ネットの言葉を借りるなら「もっと評価されるべき」作品だ。普段アニメを見る人もそうでない人も、これを機会に作品に触れてみてはいかがだろうか。
(C)BONES/ストレンヂア製作委員会2007