日々の報道に巨額資金の数字が躍っている。注目されたSpaceXのIPO(新規株式公開)では、大株主のElon Musk氏が2兆ドルを超える資金を調達し、その資金の巨大さは今後もAIをはじめとする技術革新の可能性がさらに広がる事を示している。将来の継続的な成長への大きな期待が、こうした巨額の資金を市場から吸い上げる原動力となっているが、膨張する経済圏が社会全体に与える影響に今後国家がどう対応していくのかは大きな課題となる様相だ。そうした中、今年の10月にもIPOを予定しているAIプラットフォーマーのAnthropicが提供する最先端モデル「ミュトス級(Claud Mytos 5、Claud Fable 5)」AIが米政府による輸出管理対象となった事は、膨張するAI経済圏に対する国家が、その対応として結局、「とりあえず輸出規制」、という古典的な手を使わざるを得なかったという印象で、かなりの衝撃だった。

時価総額ランキングのトップ10を巨大プラットフォーマー企業群が占める米国の現実

米国の上場企業の時価総額ランキングでは、トップを走るNVIDIAをはじめとして、トップ10企業全てがAI技術を柱とする巨大企業が占めている。

かつて国家経済を支える産業として資金を集めてきた重工業や自動車といった産業に代わって、AIを中心とするデジタル経済への構造的変化が急激に起こっていることを実感する。この構造変化は社会全体に大きな影響を与える。

今回米政府が輸出規制の対象とした「ミュトス」を生み出したAnthropic社は、つい最近、自社製品の自律型AI兵器と国民の監視用途への転用について米政府との亀裂が起こり、米政府から「サプライチェーン上のリスク」と認定され政府機関での採用を禁止されたばかりだ。今回米政府がミュトス級AIの提供について、規制対象とした理由は「安全保障上の理由」としているが、サイバー防御の構築を目指す日本政府を含むメガバンク等での使用をも規制するかどうかは明かになっていない。国境をまたぐサイバー空間でビジネスを展開するAnthropicのような企業に輸出規制で対応せざるを得ない政府当局の管理能力の限界は明らかで、その実施がどうされるのかは今後の展開次第である印象がある。

AI経済圏を支える半導体市場にも大きな変化が

AI経済圏を技術で支えるのが先端半導体である。この市場にもかつてなかった大きな変化が起こりつつある。AIアクセラレーターをサポートする記憶素子への急激な需要増加だ。かつては「低価格なコモディティー製品」分野として景気の変化をまともに受けるビジネスだったDRAM製品は、この2-3年で高付加価値のHBM(広帯域メモリー)へと一気にシフトした。

  • MicronのHBM4

    MicronのHBM4 (編集部撮影)

この結果、SK hynix、Micron Technology、Samsung Electronics(サムスン)などのDRAM企業の時価総額は大きく増加した。そして、ここにきてさらに安価で集積度向上に優れるフラッシュメモリーが注目され始めた。そのタイミングを見計らったように独自開発の3次元フラッシュ製品のタイムリーな市場投入で、長年景気の浮き沈みに影響を受けてきたキオクシア社の株価が急騰した。今や、キオクシアの時価総額はトヨタを凌ぐことになり、日本を代表する世界企業となった。

  • 「KIOXIA GPシリーズ」

    キオクシアがAIシステム向け新タイプSSD「Super High IOPS SSD」として位置づける「KIOXIA GPシリーズ」 (編集部撮影)

NVIDIAは依然としてAI市場全体を支配する存在だが、AI技術の進化とともにアクセラレーターの構成にも変化が生じている。多種多様のタスクを効率よく処理するのに向いているCPUへの需要が急増している。この影響でIntelの株価はAMDとともに急上昇している。ファウンドリビジネスの本格的立ち上げを目指すIntelはカスタム製品の製造にも意欲を見せる。

  • 「Xeon 6+」のウェハ

    推論で高まるCPU需要への対応に向けたIntelのサーバ向けCPUの最新製品「Xeon 6+」のウェハ (出所:Intel)

業界標準を打ち立て、高付加価値の汎用品市場を独占的に掌握するかつてのIntelのビジネスモデルに大きな変化が現れるということだ。

加速するAI経済圏の膨張とその統制に限界が見える米国政府の対応

当初、輸入関税と輸出規制という政府にとっての「伝家の宝刀」を振りかざし、貿易現場に大きな混乱をもたらしたトランプ米政権だが、図らずも、AI経済圏の急激な膨張という現実に直面して、その統制能力にも限界が見えてきた。NVIDIAの技術流出を、製品ごとの輸出規制対応で中国に対する牽制を行っているかに見えるが、AI覇権での遅れを挽回しようとする中国のあの手この手の方策の結果で、その優位性はいつまでも揺るぎないものとは言い切れない状況になっている。ましてや、サイバー空間、宇宙空間に市場を求めるAI技術企業のビジネスを統制することはますます困難になっている。