AIの進化によって脆弱性の発見と悪用のスピードが加速している。グーグル・クラウド・ジャパンは「Google Cloud Next Tokyo 26」で、AIを活用して脆弱性の検出から修復、監視までを支援する「Google AI Threat Defence」の詳細を説明した。

AI時代の脆弱性管理が課題に - IDCが示す国内企業のセキュリティ実態

まずは、日本国内におけるサイバーセキュリティの現状認識について、IDC Japan リサーチマネージャー Network & Security, Researchの山下頼行氏が解説を行った。

  • IDC Japan リサーチマネージャー Network & Security, Researchの山下頼行氏

    IDC Japan リサーチマネージャー Network & Security, Researchの山下頼行氏

同社が3月に実施した調査では、企業が最も懸念しているセキュリティリスクはランサムウェア(17.6%)となった。背景としては2025年はアサヒグループホールディングスをはじめ、大企業におけるランサムウェアのインシデントが相次いだことが影響しているという。山下氏は「2026年4月以降、セキュリティ分野でもAI関連の脅威への関心が増加している。実際、フロンティアAIの浸透により、サイバーセキュリティへの影響が話題になっている」と話す。

  • 2026年3月時点で企業が最も懸念する脅威はランサムウェアがトップとなった

    2026年3月時点で企業が最も懸念する脅威はランサムウェアがトップとなった

このような状況に対して日本政府も対策に本腰を入れるべく、5月に国家安全保障局と国家サイバー統括室が中心となり、AI技術の急速な進化・高度化に対応するための政府全体のサイバーセキュリティ対策パッケージ「Project YATA-Shield」を発表。重要インフラ事業者や金融機関、医療機関に注意喚起、対応の要請を行っている。経営層の関与、基本的なサイバーセキュリティ対策の徹底、高性能AIにより高速化する脆弱性の発見・修正への対応が求められている。

IDC Japanの調査では、生成AIやAIエージェントの業務利用によるリスクの懸念を尋ねたところ、全体では「外部AIへの機密情報の入力」(19.8%)が最多となったが、従業員1000人以上の大企業では「AI生成コードの脆弱性」(23.6%)となり、AIが生成したコードの品質やセキュリティリスクへの警戒感が高いという。

昨今では、高性能AIが脆弱性を大量に発見するようになり、主要なソフトウェアベンダーからのパッチのリリースが急増し「Patch Wave」と呼ばれる現象が起きているという。この状況について山下氏は「政府からもパッチ適用の増強が要請されているが、膨大な量のため人手で処理するのは困難であり、対応の高速化・自動化が急務だ」と強調する。

  • パッチのリリースが急増し「Patch Wave」と呼ばれる現象が起きている

    パッチのリリースが急増し「Patch Wave」と呼ばれる現象が起きている

しかし、調査ではセキュリティ運用における自動化については「許容できない」との回答が約半数を占め、技術力だけでなく「いかに信頼して任せてもらえるか」がセキュリティベンダーの重要課題であるとの見立てだ。

そのうえで、山下氏は「信頼を満たす設計が必要。それは『自動化対処の根拠を説明可能にする設計』『人間とAIの役割分担』『実績の開示』の3要素を満たす設計だ」と説明していた。

AIが脆弱性発見を加速、攻撃者とのスピード競争が激化

ここからはGoogle AI Threat Defenseについて見ていこう。同ソリューションについては、Google Cloud Security & Mandiant CTO(最高技術責任者)のスティーブ・レザン氏と、グーグル・クラウド・ジャパン 執行役員 カスタマー エンジニアリング統括の渕野大輔氏が解説した。

レザン氏は「AIは脆弱性発見を得意としているが、攻撃者もAIを活用し始めている。2020年から2026年にかけて脆弱性件数は約3倍に増加し、MTTE(悪用までの平均時間)は1.3年から1.6日に短縮された。防御側は従来以上の速度で脆弱性へ対応する必要がある」と危機感を示した。

  • Google Cloud Security & Mandiant CTO(最高技術責任者)のスティーブ・レザン氏

    Google Cloud Security & Mandiant CTO(最高技術責任者)のスティーブ・レザン氏

昨今では、攻撃対象が自社開発プログラムにとどまらず、OS、オープンソースソフトウェア、クラウドの権限設定など多様化しており、脆弱性スキャンを実行すると修正不可能なほど大量のアラートが発生し、人手での対応は限界となっている。

Googleは2023年からセキュリティ運用に関するプロジェクトとして「Project Naptime」に取り組み、AIエージェントやLLM(大規模言語モデル)を活用し、運用の効率化と自動化を目指している。

渕野氏は、セキュリティAIエージェントに関して「モデル(頭脳)」「エージェント(手足)」「ハーネス(安全装置)」の3つの要素から構成されるシステムとして捉える必要があるとの認識を示す。同氏は「特にハーネスはエージェントの行動を制限し、逸脱を防ぐための最重要のコンポーネントとなり、緊急停止や全行動の証跡を記録するなどの機能を担う」と説く。

  • Google Cloud Security & Mandiant CTO(最高技術責任者)のスティーブ・レザン氏

    グーグル・クラウド・ジャパン 執行役員 カスタマー エンジニアリング統括の渕野大輔氏

Google AI Threat Defenseとは - 準備・スキャン・修復・監視の4段階

こうした脅威環境に加え、Googleがこれまで培ってきた知見やインサイトを内包したものがGoogle AI Threat Defenseだ。その特徴は、セキュリティライフサイクル全体を管理するため「準備」「スキャン」「修復」「監視」の4段階のフレームワークとして設計されている。

準備では、本格的なスキャンを実施する前に戦略的なリソース配分を行う。AIによる脆弱性スキャンでは有限のトークン予算を消費するため、限られたリソースを最大限に有効活用するため重要な資産や想定される脅威経路の順位付けを行う。

スキャンは、Geminiを基盤にするセキュリティエージェント「CodeMender」を利用し、AIによる高度なコード解析を実行し、コードの文脈・構造そのものを理解しながら分析を行うことで、複雑で発見が難しい脆弱性の特定を目指す。

修復は、スキャン後に脆弱性一覧を提示するだけではなく、実際に悪用可能か否かを検証してリスクにもとづく優先順位付けを行うほか、脆弱性を修正するためのパッチを生成することで実行可能な対策まで提供する。

監視では、侵入を前提とした考えのもと不正侵入を迅速に検知し、ビジネスに影響が及ぶ前に封じ込め、阻止することを可能とする。

  • 4段階のフレームワーク

    4段階のフレームワーク

Wiz・CodeMender・Mandiant・Google SecOpsで実現するAI時代の防御基盤

そして、Google AI Threat Defenseを構成するものはWizのサービス群、CodeMender、Mandiantの専門的な知見、「Google Security Operations(SecOps)」となる。

  • Google AI Threat Defenseの概要

    Google AI Threat Defenseの概要

Wizの「AI Application Protection Platform」は、AIアプリケーション保護プラットフォームだ。コードやクラウド、ランタイム環境のコンテキスト情報を収集し、セキュリティグラフに統合することで環境全体を可視化する。レザン氏は「防御側の優位性を実現する」と話す。

CodeMenderはレザン氏が「Google AI Threat Defenseを構成する極めて重要な要素の1つ」と述べており、コード内部に潜む脆弱性をAIで分析・検出して優先順位付けを行い、修復までを自動化することができる。GoogleのAI研究開発を担うGoogle DeepMindのAI研究から生まれている。

  • CodeMenderの概要

    CodeMenderの概要

同氏は「CodeMenderは現在、Geminiを基盤に構築しているが、将来的にはGeminiの複数のモデルを選択できるようにするほか、他社製のモデルへの対応を計画している。また、ハーネス機能を備えており、顧客が用途やコストに応じて最適なモデルを選択できるようにしている」と、そのメリットを語っていた。

Mandiantでは適切な技術を導入するだけなく、AI時代にあわせて業務プロセスそのものを変革することを支援する。

Google SecOpsはSOC(Security Operatin Center)で利用されるソフトウェア。現在のSOCは大量のアラートと人材不足のため、これらの課題に対処するためAIを活用し、調査業務を自動化する。AIによる自動化でアナリストが30分かけていた調査を1分未満で実行できるようにすることを目指している。

グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の三上智子氏は「サイバーセキュリティは、事業における最優先事項の1つとして位置付けている。月間数万件以上のセキュリティレポートを処理しており、AIの活用で処理時間を90%以上削減した実績がある。こうした知見をそのままお客さまに提供するため、Google AI Threat Defenseを発表した」と述べていた。

  • グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の三上智子氏

    グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の三上智子氏

なお、Google AI Threat Defenseの国内パートナーはNEC、日立製作所、富士通、グローバルではアクセンチュア、NTTデータ、デロイトトーマツとなる。また、クラウド環境の脆弱性可視化と対策の優先順位付けを行うセキュリティアセスメントを年内は無償で提供する。

AIの進化は、防御側だけでなく攻撃者側にも大きな変化をもたらしている。脆弱性の発見件数が増加し、悪用までの時間が短縮する中、従来の人手中心のセキュリティ運用では対応が難しくなりつつある。

Google AI Threat Defenseは、Wizによる可視化、CodeMenderによる脆弱性分析と修復、Mandiantによるプロセス変革支援、Google SecOpsによる運用自動化を組み合わせることで、この課題の解決を目指す。AIを活用した攻撃と防御の競争が激化する中、Googleは自社で培った知見を顧客企業へ展開し、AI時代に適した新たなセキュリティ運用モデルの確立を狙っている。