東京大学(東大)は7月28日、深海性チョウチンアンコウの一部の種で見られる、オスがメスの体に永久に結合し、メスから栄養をもらいながら繁殖を行うという、繁殖機会を確保できるものの、雌雄それぞれに負担のかかる極めて特殊な繁殖戦略「寄生雄」が進化する条件を、数理モデルを用いた解析によって理論的に解明したと発表した。
同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科の佐藤雄亮大学院生(現・沖縄科学技術大学院大学 定量マクロ生態学グループ 博士研究員)、同・瀧本岳准教授の研究チームによるもの。詳細は、英国王立協会が刊行する、生物学全般を扱う旗艦オープンアクセスジャーナル「Proceedings of the Royal Society B」に掲載された。
謎めく深海の繁殖戦略を数理モデルで解き明かす
水深2000mもの深海に暮らす種もいるチョウチンアンコウは、頭部から伸びた釣り竿のような器官「誘引突起」を発光させて(発光できないものもいる)、獲物をおびき寄せることで知られる深海魚だ。
またその仲間には、オスがメスの体に永久に結合して生活する、極めて特殊な繁殖戦略「寄生雄」を取る種がいることでも有名だ。寄生したオスは血管を組織融合させてメスから栄養を受け取りながら精子を提供し続けるという、脊椎動物の中でも独特な生態を示す。しかし、このような繁殖戦略がなぜ進化したのか、その進化的な仕組みは十分に解明されていない。
従来は、深海は同種の個体群密度が低く、繁殖相手と出会う機会が限られるため、寄生雄は将来の繁殖機会を確保するための適応であると考えられてきた。しかし、寄生雄では、確実に交配できる「繁殖保証」というメリットが得られる一方、雌雄それぞれにさまざまな負担(コスト)が伴うのも事実だ。このようなメリットとデメリットのトレードオフがある中で、出会う機会が限られる環境が、どのような進化的メカニズムを通じて寄生雄の進化を促すのかについては、理論的な検討がほとんど行われていなかったとする。
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パートナーと出会いにくい深海で寄生雄が進化する仕組み。深海では個体群密度が低く、オスとメスが出会う機会が限られる。今回の研究は、このような環境では繁殖機会を確保する利益(繁殖保証)が大きくなり、寄生雄が進化しやすくなることが示された。(出所:東大Webサイト)
そこで研究チームは今回、オスがメスへの寄生を試みる確率と、メスが寄生を受け入れる確率という雌雄双方の行動が進化する数理モデルを構築し、寄生雄が進化する条件を解析したという。
今回構築された数理モデルでは、寄生によってオスもメスも将来の繁殖機会を確保できるとされた。加えて、メスは寄生したオスを維持するために栄養を使うので、寄生が成立したペアでは産む子の数(産子数)が減少すること、オスは一度寄生すると他のメスと繁殖する機会を失うといった負担が仮定された。これにより雌雄双方のメリットとデメリットの双方が考慮された。
解析の結果、雌雄が出会いにくい環境では、オスが寄生を試みる確率とメスが寄生を受け入れる確率の双方が進化しやすくなり、寄生雄が成立することが示された。これは、将来の繁殖機会を確保すること、つまり「繁殖保証」の利益によるものだという。一方で、寄生によるコストが大きい場合には寄生雄は進化しにくくなり、繁殖保証の利益と寄生のコストのバランスが重要であることが明らかにされた。なお、雌雄が出会いやすくなると、一部のペアのみで寄生雄が起こる状態も予測された。
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寄生雄が進化する条件。オスとメスが出会いにくく、寄生のコストが小さいほど寄生雄が進化しやすくなることが示された。オスとメスが出会いやすくなると、一部のペアのみで寄生が起こる状態も予測された。(出所:東大Webサイト)
今回の研究は、寄生雄の進化を繁殖保証という進化メカニズムから説明した初めての理論研究となる。得られた成果は、チョウチンアンコウの独特な繁殖戦略の理解に貢献するだけでなく、生物が繁殖相手を見つけにくい過酷な環境にどのように適応してきたのかを理解するための新たな知見を提供するという。また、他の植物や動物で見られる単為生殖や自家受粉などの多様な繁殖保証戦略の進化を理解する上でも、重要な理論的基盤になることが期待されるとしている。