すでに航空機を対象とする戦闘識別の話は取り上げているが、それは有人機が相手だった。では、2022年にロシアがウクライナに侵攻したあたりから急速に顕在化した新たな課題、すなわちC-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)の分野はどうだろうか。

ロシア・ウクライナ戦争で急速に重要性が高まったC-UASでは、敵味方をどう見分けるのか。その現実を見ていく。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • ポーランドのWBグループが「DSEI Japan 2025」で展示していた、同社製無人機の模型。敵軍が無人機を活用するなら、こちらはそれに対処する必然性がある 撮影:井上孝司

    ポーランドのWBグループが「DSEI Japan 2025」で展示していた、同社製無人機の模型。敵軍が無人機を活用するなら、こちらはそれに対処する必然性がある 撮影:井上孝司

高価な無人機にはIFFがあるが、小型ドローンにはない

まっとうな軍用機や艦艇ならIFF(Identification Friend or Foe)を備えているから、インテロゲーターが誰何すれば、(事前に正しいコードを設定しているという前提の下で)正しい応答が返ってくると期待できる。しかし、安価なFPVドローンや自爆無人機に、IFFトランスポンダなんていうゴージャスなデバイスは載ってない。

ただし、有人機との空域共有に対応している “高級な” 無人機であれば、IFFトランスポンダは備えているはずである。なぜかといえば、航空管制システムに対して自機の情報を知らせなければならないからだ。

例えば、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)のMQ-9リーパーは、IFFトランスポンダを備えている。それをオフにして敵対的な空域を飛んでいたら、ドイツ海軍のフリゲートに誤射されそうになったことがある(2024年2月の出来事)。

そこで「はて、どんなIFF機材を載せていただろうか」と思って調べたら、ちゃんと手元にデータがあった。イタリア向けに輸出したMQ-9ブロック5に関する輸出の通告で、IFFトランスポンダとしてAN/APX-119を、さらにIFF暗号化装置KIV-77を機体とともに輸出する、との記述があったからだ。

余談だが、IFFは機密性が高い装備であるから、輸出の際には仕向地によって内容に差異が生じる可能性がある。

先に挙げたイタリア向けMQ-9みたいに、米国防安全保障協力局(DSCA : Defense Security Cooperation Agency)がFMS(Foreign Military Sales)に関する告知を行うときが情報を知るチャンスである。航空機なら、機体そのものだけでなく通信機やIFF機器に関する情報も載ることが多い。だから、そうした公開情報を記録・比較してみると面白いかも知れない。

喪失を前提とする……というか、喪失しても諦めがつくことも無人機のメリットのひとつなので、コストを抑えるに越したことはない。すると、機体の価格を押し上げるIFFみたいな機材を、わざわざ積むんですか? という話になってしまう。

しかも、秘匿性という課題がある上に、設定内容をその都度変えなければならないのがIFFである。すると、これは無人機の運用とはあまり相性がよろしくないデバイスでもある。

C-UASの話からは外れてしまうが。有人ヴィークルとの関わりを避けられないのは、洋上で運用する無人船(USV)も同様である。なぜなら、港湾への出入りが不可欠である以上、そこでは必ず行会船との衝突を避けるという課題が発生するからだ。

よって、USVの分野では識別装置やレーダーといった機材は不可欠であり、そこのところは有人機と空域を共有する無人機と同じ話になる。

  • シンガポールのSTエンジニアリングが「DSEI Japan 2025」で展示していた、C-UAS指揮管制システムのデモンストレーション画面例 撮影:井上孝司

    シンガポールのSTエンジニアリングが「DSEI Japan 2025」で展示していた、C-UAS指揮管制システムのデモンストレーション画面例 撮影:井上孝司

  • 米海軍が2023年9月に横須賀に持ち込んだ大型USV「レンジャー」。マストに、FURUNOの航海用レーダーや周辺監視用のカメラを装備しているのが分かる。おそらく、なんらかの識別用デバイスも備えているはずだ 撮影:井上孝司

    米海軍が2023年9月に横須賀に持ち込んだ大型USV「レンジャー」。マストに、FURUNOの航海用レーダーや周辺監視用のカメラを装備しているのが分かる。おそらく、なんらかの識別用デバイスも備えているはずだ 撮影:井上孝司

見て識別する、動きで識別する

C-UASシステムの中には、EO/IR(Electro-Optical/Infrared)センサーを備えるものもある。そうしたセンサーの映像で対象物を直接見ることができれば、機種が分かる可能性はある。

また、遠隔操縦・遠隔管制、データ送信などで発生する電磁波放射も手がかりになる可能性がある。ただしこれは、事前にELINT(Electronic Intelligence、電子情報)を収集していれば、という前提での話になる。

実は、戦地において、もっともシンプルで分かりやすい方法は、特定の空域について「そこに味方はいないから、飛んでる誰かさんがいたら敵だ」とする方法であろう。しかしこれは現実問題として難しい。実際には彼我の無人機が入り乱れることもあろうし、ことに自爆無人機を迎撃無人機の体当たりで撃ち落とすような場面ではそうだ。

すると、レーダーで探知した機体を捕捉追尾して、針路や速力などの挙動を解析した上で“意図を読む”手も考えられる。特定の拠点、施設、あるいは地域を護るためのC-UAS任務であれば、一定の“線引き”をして、そこを踏み越えて突っ込んでくる機体なら無条件に敵性と見做しても問題ないと思われる。「立ち入り禁止に指定した空域に侵入した機体は無条件に撃ち落とす」というやつである。

こうしていろいろ考えてみると、特定の方法だけで識別ができるという “銀の弾丸” は存在しないのではないか。むしろ、利用可能なさまざまな情報を組み合わせて識別の努力をしたり、誤射を防いだりするのが、C-UASシステムにおける現実的な対処ではないか。

この、複数の手段を組み合わせる方が望ましそうなところは、C-UASの探知・識別だけでなく、エフェクターも同じである。

民間向けDRIは軍用では役に立たない

民間分野では、機体の基本情報をブロードキャストするDRI(Direct Remote-ID)というシステムがある。運用者の登録番号、シリアルナンバー、機体の位置や高度、オペレーターの位置といった情報を共有できる。

しかし、すべての機体がDRIに対応しているとは思えないし、特に軍用についてはそうだ。だから、軍事作戦におけるC-UASでは、DRIの存在を前提にして対策を考えるのは、あまり現実的とはいえないのではないか。

そもそも論として、例えばイラン製の自爆無人機が御丁寧にもDRIに対応するとは思えない。

最後に身も蓋もないことを

最後に身も蓋もないことを書くならば、無人機を誤射して撃ち落としても死人は出ない。間違って友軍の機体を撃ち落としてしまった場合には、後で謝ればなんとかなる(かもしれない)。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。