米有力紙に「AppleがIntelに半導体製品の一部を生産委託?」と題する記事が掲載され話題になっている。

この事案については今年に入って噂がしきりだったが、複数関係者の発言を引用している有力紙による記事ということであれば、何の根拠もないということではあるまい。具体的にAppleのどの半導体製品がIntelで生産されるのかは明らかにされていないが、Apple Silicon製品の一部がIntel Foundryで製造されると考えられる。

事実であれば昨年まで自社製品以外の大手顧客がなかったIntel Foundryにとって、事業本格化の大きなきっかけとなることは間違いない。カリフォルニア州クパチーノに本社を構えるAppleと、サンタクララのIntelというシリコンバレーの代表的企業の関係の歴史は、そのまま電子デバイスとそれをサポートする半導体の歴史と言ってもいいだろう。車で20分くらいしか離れていない場所に本社を構える2社の関係は、発足以来“付かず離れず”の状態を保って業界を牽引している。

衝撃的だったMacintoshの登場と歴代CPUの変遷

Appleが1984年にリリースしたMacintoshの出現は衝撃的だった。1986年に“ほんの偶然で”AMDの日本支社に入社した私にとって、まるで未知の環境でコンピューターや半導体を身近に感じるきっかけを作ってくれたのがMacintoshだった。私がAMDに入社した1986年当時、この小さなコンピューターはAMDのエンジニア達の間で大変に人気があり、私自身も訳が分からず一台買ってしまったが、それ以来電子機器のマニュアルは一切読まなくなった。

Macintoshの革新的なGUIは技術好きのオタクのみならず、瞬く間に世界中の一般ユーザーから支持を獲得し大成功を収めた。AppleはMacintoshのCPUにMotorola社の16ビットCPU「MC68000」を選んだ。当時のAppleは、IBMがPC(Personal Computer)の構成として、IntelのCPUとMicrosoftのOSを採用したのに真っ向から対抗軸を打ち出していた。16ビットのCPU市場でIntelの80286と覇権を争ったMotorolaの高性能CPU「MC68000」だったが、IBMのPCクローン機が爆発的に市場を埋めつくすと、出荷数ではIntelのx86アーキテクチャーに軍配が上がった。

その後、AppleはMotorola/IBMと共同でCISC(Complexed Instruction Set Computer)のx86アーキテクチャーに対抗し、パフォーマンス重視のRISC(Reduced Instruction Set Computer)のPowerPCアーキテクチャーを開発し、それを搭載したPower Macintoshを後継機として発表した。しかし、IntelとAMDが競合しながら進化を続けるx86アーキテクチャーは、企業系のクライアント・サーバー市場へ進出することで出荷数は飛躍的に伸びることになった。伸びる出荷数とアーキテクチャーの絶え間ない改良で、コストパフォーマンスに優れるx86アーキテクチャーをAppleが採用するのではないかという噂が業界に広がる中、AppleのSteve Jobsは2006年、iMacにIntelのCore Duoプロセッサーを搭載するという発表を行って業界を驚かせた。このニュースは、当時Windows PCを嫌っていたAppleのコアユーザーからは大きな反発を受けたが、独自路線を進もうとしたAppleもx86アーキテクチャーの圧倒的なコストパフォーマンスには抗しきれなかったというのが実情だった。発表会では、Steve Jobsが半導体工場の白いクリーンルーム作業着(いわゆる“Bunny Suits”)を着て登場したIntelのCEO、Paul Otellini(当時)を大々的に紹介してAppleとIntelの蜜月時代を印象付けた。

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この2社の関係は、2021年にAppleが自社開発のApple Siliconの最初の製品「Apple M1」をMacに搭載する事を発表するまで続いた。以来、Apple SiliconはTSMCとの協業のもとでMacBookを含むあらゆるApple製品に採用されることになる。

衝撃的だったiPhoneの登場と幻に終わったIntelとの協業

Appleによる革新的なもう1つの製品と言えばやはりiPhoneだろう。シリコンバレーのカリスマ、Steve Jobsが2007年開催のイベント「MacWorld」で高々と掲げたのは、いかにも格好がよいキーボード不在の携帯デバイスでウェッブサーチも、音楽/画像もやり取りできる夢のような携帯デバイスだった(ちなみに、私自身は仕事ではBlackberryユーザーだった)。

衝撃的なiPhoneの登場だったが、初期のiPhoneのメインCPUについてはSteve Jobsが最初に設計を依頼したのが、実はIntelのCEOであったPaul Otellini(当時)であったことが判明している。若くして亡くなったOtellini自身のインタビューで、「AppleにiPhone用のSoCを供給する決断をできなかったのは痛恨の失敗だった」と語っている。PC/サーバー市場を独占したIntelにとって、Appleの携帯デバイスのSoCの価格はどうしても実現できないレベルだった。結局初期のiPhoneを駆動していたのはサムスン電子が開発したモバイル・プロセッサーであった。

しかし、この関係もApple Siliconの登場でMシリーズに置き換わることになる。

Intelにとってはこのチャンスを逃すことで、その後のモバイル半導体への本格参入は永く閉ざされることになった。

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再びIntelとの協業を検討するApple

こうした歴史があるAppleとIntelが、再び協業を検討しているというのは非常に興味深い。この背景には、AIの登場で製造キャパシティーをAI半導体にシフトするTSMCと、米中の技術覇権競争の中で揺れる台湾という地政学的不安定さがある。Intelは多額の政府資金を獲得し、米国内でのファウンドリ事業構築で先端品生産に意欲を見せる。

IntelがApple Siliconの需要を満たせるかどうかは、ファウンドリとしての今後の製造技術のいかんにかかっている。