最近日本で開催された展示会「Interop」でのAMDの発表に注目した。トヨタグループのシミュレーション部門責任者を壇上に招いて、AMDのサーバーCPU「EPYC」の優位性を強調したのは圧巻の迫力であった。そこには半導体技術を中心にAIインフラに必要な要件を広範囲に整備しつつある新たなAMDの姿を見た気がした。これまでのGPUの大量購入によるスケールアウトでデータセンターの能力を増加させようとする力業には限界が生じ、今後はCPUによるGPUの効率的な割り振り、各CPUコアの使用率をレジスターの割り当てレベルまで最適化するきめ細やかな調整が重要となる。急増するAIワークロードに対し、GPU/CPU先端製品の両輪でAI業界を牽引するAMDの技術力が光った。

  • Interop 2026のAMDブースの様子

    Interop 2026のAMDブースの様子 (編集部撮影)

1.GPUとCPUの両輪でAIワークロード処理を高速化するAMD

Interopで強調されたのが、エージェンティックAIの発展と推論処理の急激な増加に対応するために、システム構成においてGPU/CPU比率に大きな変化が生まれている今日のトレンドだ。

これまでCPUの主な役割はGPUクラスターの管理だったが、現在では推論、データの制御、GPU以外の多種多様なリソースの管理までがその守備範囲となり、GPU/CPU比率はほとんど“1対1”に近づいているという。AMDはx86アーキテクチャー市場をIntelと2分するが、今後この市場自体が拡大することが予想されている。拡大するCPU市場にはx86アーキテクチャーだけでなくArmアーキテクチャーも積極的に参入している。NVIDIAやQualcommといったブランドがデータセンターとエッジノードのワークロードを効率よく処理するデバイスを投入している。

  • 「Instinct MI350P」

    PCIe Gen5デュアルスロット対応GPU推論アクセラレータカード「Instinct MI350P」 (編集部撮影)

最近のAMDの動きで目を引いたのが、2024年にAMDがIntelと立ち上げたEAG(x86 Ecosystem Advisory Group)での新たな試みだ。EAGはx86アーキテクチャーの今後の成長を支えるために命令セットなどを含む基本となる技術の共通化を図り、ソフトウェア開発者に対するサポートを強化する両社の協業体制だ。仇敵の関係にあるAMDとIntelだが、Armアーキテクチャーという外敵に対しては共同戦線で対抗する。最近の発表で明らかになったのが、x86アーキテクチャー向けのAI拡張命令「ACE(AI Compute Extentions)」の追加だ。かつて両社はマルチメディア・ソフトウェア開発サポート用のSIMD命令「MMX(Multi Media Extentions)」を共通化したが、今回はAI処理で多用される「行列乗算」を高速化させるのが狙いだ。x86アーキテクチャーをサポートするAIソフトウェア開発の現場には朗報だろう。

2.システムレベルのインフラ整備を主導する近年のAMD

かつてのAMDは「自社の顧客の競合にはならない」という企業哲学を持ち、システムレベルでの技術独占の方向性を常に探っていたIntelとの差別化を企業価値の根幹としていた。

しかし、技術革新が加速化するAI市場においては、顧客にシステムレベルでの技術サポートを提供することが重要となってきている。多くの顧客をサポートする中立的立場にある半導体企業にシステム構築に必要な技術ノウハウが集まるのは多々あるケースである。こうしたノウハウを結集したシステムレベルの技術サポートを具現化したのが、今年のCES 2026でAMDが公開したAIデータセンター向けの大規模ラックスケール・アーキテクチャーの「AMD Helios」である。多数のAMD Instinct MI455X GPUとEPYC CPUで構成されたこの大規模システムは、一基で小型自動車2台分の重量があるというから、巨大規模のシステムだが、HPEやSupermicroなどのサーバーブランドがいち早く採用している。

  • AMD Helios

    Interop 2026のAMDの基調講演でHeliosを紹介した一幕。「最先端インフラへの取り組み:シリコンイノベーションが作り出す課題と未来」と題した基調講演をAMD CVP, EBG(Enterprise Business Group)のDerek Dicker氏が行った (編集部撮影)

もう一つ、AIインフラの多方向での整備を鋭意進める新たなAMDを象徴する発表があった。AI分野でのメモリー最適化技術を持つスタートアップMEXT社の買収である。発表されたばかりで技術の詳細は明かにされていないが、この技術を実装することによって、OSがフラッシュメモリーなどの不揮発性メモリをDRAMのように認識するという。昨今のDRAMベースのHBM(広帯域メモリー)の供給不足とコストの高騰を見越しての技術の取り込みは、かつてのAMDにはない素早い動きで、CEOのLisa Suの経営センスが冴える。

汎用CPU/GPU市場に深くかかわるAMDはAI市場の急拡大を受けて高いノウハウを蓄積した半導体ブランドとしての存在感を増している。半導体企業としては売り上げでAMDを超えるBroadcomのようなAIアクセラレーターSoCの供給者にはできない動きであり、ファウンドリビジネスに軸足を動かしつつあるIntelとも対象的な動きを見せる。

システムレベルでのインフラ整備に舵を切ったAMDの今後が楽しみである。