一時は11万円台というかつてない高値を付けたキオクシア株はその後は一転急落し、本稿執筆中の2026年7月9日現在も乱高下を繰り返している。

級数的に上昇した株価の恩恵を受けた「10億りびと」などと言う言葉も飛び出し、世界の株式市場を牽引するAIブームがもたらす恩恵にようやく日本企業が本格的に参加してきた印象がある。これまでも、半導体素材/製造装置、テスター、パッケージ素材などの上流分野では日本企業が大きな活躍を見せているが、NAND型フラッシュメモリでAI半導体デバイス市場の表舞台で大きなポジションを築き上げるキオクシアの快挙は賞賛に値する。

メモリデバイス供給のひっ迫状態をうまく掬い上げたキオクシア

GPUをはじめとするAIアクセラレーターを構成するのに必須となるDRAMベースのHBM(広帯域メモリ)の需要はすでに供給能力を超えており、DRAM各社は製造能力アップのために積極投資を行うが、供給量はすぐには伸びない。

現在のDRAMメーカーの記録的な売り上げの伸びは、多少は上がった生産量もさることながら、単価の高騰が大きな要因である。AI開発技術の焦点が学習から推論分野に移る中、データセンター用のフラッシュベースSSDへの注目度が一気に上昇した。

  • キオクシアが手掛けるエンタープライズSSD各種
  • キオクシアが手掛けるエンタープライズSSD各種
  • キオクシアが手掛けるエンタープライズSSD各種
  • キオクシアが手掛けるエンタープライズSSD各種 (編集部がInterop 2026のキオクシアブースにて同社の許可を得て撮影)

キオクシアは以前から独自開発の3次元積層のフラッシュメモリ「BiCS FLASH」を市場投入しており、これがまさに「半導体メモリを食いつくす」AI市場のブームに乗る原動力となった。他のAI半導体株と同様に市場からの期待はみるみる膨らんで、一時は時価総額が60兆円というかつてなかったレベルに上昇し、トヨタを抜く日本最大のブランドとなった。

  • キオクシアのBiCS FLASHウェハ

    キオクシアのBiCS FLASHウェハ (編集部がInterop 2026のキオクシアブースにて同社の許可を得て撮影)

東芝の半導体部門としてスタートし、NAND型フラッシュメモリの発明者でもあるキオクシアは、俄かにまばゆいばかりのスポットライトを浴びる銘柄となった。急激な株価上昇は、東芝メモリがキオクシアへ社名変更して独立し、ベインキャピタル連合の支援を受けるという紆余曲折を経て、その当時から株を保有していた一部の株主には巨額の恩恵をもたらすこととなり、「10億りびと」などという言葉も飛び出した。

貼り合わせ技術で一歩リードするキオクシアと、巨額の設備投資を継続する競合各社

キオクシアが開発した3次元積層技術「BiCS FLASH」は、従来のメモリセルをひたすら平面的に展開する技法とは異なり、円柱状の電極と電荷蓄積膜を使い垂直方向に積層する技術である。しかも、メモリセルを集積したウェハと、メモリコントロールをつかさどるCMOS回路のウェハを別々に処理し、2枚のウェハを張り合わせるCBA(CMOS Directly Bonded to Array)技術を開発し、性能と電力効率を同時に向上している。

  • メモリセルとCMOS回路を貼り合わせたCBAのイメージ

    メモリセルとCMOS回路を貼り合わせたCBAのイメージ (編集部がInterop 2026のキオクシアブースにて同社の許可を得て撮影)

キオクシアは今回の急激な株価上昇の理由に、この独自技術が評価された事を強調するが、キオクシアの株価上昇に先立って、Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technologyというメモリ市場における巨大企業群の株価も急上昇しており、キオクシアの現在の状況はメモリデバイス全般における供給ひっ迫による単価上昇の結果と見るのが妥当と考えられる。実際、これらの大手メモリ半導体3社はDRAMとともにフラッシュメモリも供給していて、この3社でメモリ半導体市場の80%以上の供給力がある。

DRAMおよびNANDを併せた(NORなどもあるが)半導体メモリ市場全体におけるキオクシアのシェアは5%に満たず、その下に中国のDRAMメーカーCXMTが4%強程度で追随している状況である。

巨大企業の群雄割拠状態のAIメモリ半導体市場とダークホースの中国企業

アクセラレーター・ロジックデバイス市場では、相変わらずGPUベースのNVIDIAが主導権を握っているが、推論処理に適したアーキテクチャーが大小各社から市場に投入されている。市場拡大が現在も続いているので、多くのアーキテクチャーが群雄割拠する状態はしばらく続く見込みだ。

ロジック市場よりも速いペースで拡大するメモリ市場では、現在AI市場の需要拡大ペースに供給が追い付かない状況で、各社が巨額設備投資に走っている。そんな状況でメモリ各社の株価は大きく伸長したが、その状況に冷や水を浴びせる出来事があった。米国紙による「Appleが中国企業からメモリ調達を検討」という記事が出ると、半導体株全体での売りが加速した。直接のデータセンター投資を行っていないAppleは、半導体ユーザーとしてはiPhoneやiPadのような端末デバイスのプロファイルしか持たない。そのAppleにとって、ロジックにせよメモリにせよ、半導体各社がAIにかじを切る状況は必ずしも有利とは働かない。事実、ロジックファウンドリにTSMC以外の選択肢も検討しているという報道もある中で、メモリを中国企業から調達するという報道は、真偽は別として、中国企業が提供するデバイスの品質が以前より格段に進化している事実を物語っている。

かつてはDRAM市場の頂点に立ち、世界の半導体市場を席巻した東芝からスピンアウトしたキオクシアは、相変わらず変化を加速するAI半導体市場の真っただ中にある。今後の経営判断が将来を大きく左右することは必至だ。