はじめに
車載システムでは、数多くのECU(Electronic Control Unit)が使用されます。その目的は、コンパクトな組み込みコンピュータ・デバイスによって、機械的なサブシステムを電子的に制御/管理することです。現代の自動車は多種多様な制御の要件に対応しなければなりません。そのため、従来は特定の機能を実行するように設計されたECUを数多く搭載する必要がありました。ただ、最近では1つのECUによって複数種の制御機能を実行できるようにするケースが増えています。その場合、非常に高い処理能力を備えるSoCによって集中管理を実現することになります。その結果、SoCに必要な電流量は大幅に増加します。
図1に示したのはSoCの構成例です。この例の場合、SoCがPMICを内蔵しています。その集積度の高いPMICによって、CPUやメモリといった内部ブロックに必要な値の異なる複数種の電圧を生成します。通常、PMIC自体は3.3Vの電源電圧によって動作します。車載システムの場合、一般的には主電源として鉛蓄電池が使用されます。その公称電圧は約12V~14Vです。PMICに必要な3.3Vの電源電圧は、本稿の主題である電源IC(1次電源IC)によって生成します。このICには、10A以上の負荷電流を供給する能力が求められます。また、PMICの入力電圧範囲は比較的狭いので、1次電源ICは高い精度で出力電圧を生成する必要があります。つまり、1次電源ICとしては、リップルや負荷に起因する変動を厳密に制御することが可能な製品が必要になります。
大電流への対応
一般に、10Aを超える負荷電流の供給が必要な場合には、外付けのパワー・スイッチ(パワーMOSFETなど)とその制御を担うコントローラICを組み合わせることで電源が構成されます。大電流とそれに伴う発熱に対処するには、パワー・スイッチとコントローラICが別に実装されている方が都合が良いからです。一般に、パワーMOSFETを内蔵するモノリシック型の電源IC(コンバータIC)は、大電流の供給が必要で、大きな熱ストレスにさらされるアプリケーションには適しているとは言えません。しかし、本稿で紹介する「LT8648S」はその例外となります。このモノリシック型の電源ICであれば、SoCアプリケーションに求められる大電流の供給という要件に対応することが可能です。実際、同ICは、車載ECUにおいてSoC用のPMICに給電する用途で既に活用されています。
図2に示したのは、電源ICを実装した基板(評価用ボード)の例です。左の基板では、コントローラICとパワー・スイッチを組み合わせて使用しています。それに対し、右の基板ではLT8648Sのようなモノリシック型の電源ICを採用しています。外付けのパワー・スイッチを必要とするコントローラICを使う場合と比べて、同スイッチを内蔵するモノリシック型の電源ICを採用すれば、基板面積を大幅に削減できます。
SoCの性能が向上するにつれ、供給しなければならない電流の量も増加します。上述したように、LT8648Sは量産化に成功しており、車載システムのPMICに給電する1次電源ICとして既に活用されています。しかし、負荷電流の増加が更に進んでいることに伴い、熱性能を高める必要が生じました。この要求に応えるために開発されたのが「LT8648SP」です。
図3(a)に示すように、LT8648Sはシリコン・ダイを樹脂で封止するタイプのパッケージを採用しています。その場合、熱は主にパッケージ底面の端子を通じて基板に放散されることになります。一方、LT8648SPでは、図3(b)に示したようにパッケージの上面にシリコン・ダイが露出しています。この露出したダイにヒート・シンクを直接取り付けることで、非常に効率的な放熱が可能になります。図4に示すように、LT8648SPにヒート・シンクを適用しない場合、LT8648Sと同等の熱性能しか得られません。しかし、LT8648SPにヒート・シンクを取り付けると、温度上昇はLT8648Sの半分未満に抑えられます。このような改善によって、LT8648SPは格段に多い負荷電流に対応できるようになりました。
EMC性能の確保
先述したとおり、SoCは非常に多くの負荷電流を必要とします。負荷電流が増えれば、EMCに関する課題が深刻化します。その結果、対策用のフィルタや外付け部品を追加しなければならなくなり、システムの複雑さが増します。バッテリに直接接続される1次電源ICは、ECU全体のEMC性能に特に大きな影響を及ぼします。そのため、同ICは、放射エミッション/伝導エミッションの面で優れた特性を備えていなければなりません。
LT8648S/LT8648SPには、アナログ・デバイセズが特許取得済みのSilent Switcher(サイレント・スイッチャ) 2のアーキテクチャが適用されています。Silent Switcher技術では、入力コンデンサを対称的に配置することによって磁気放射を低減します(図5)。それによりICの近傍に磁界が閉じ込められるので、EMC性能が大幅に向上します。また、Silent Switcher 2技術では、パッケージ内で入力コンデンサをシリコン・ダイのすぐ隣に配置することにより、EMC性能を更に高めます(図6)。そのため、LT8648S/LT8648SPであれば、車載EMCの規格であるCISPR 25で定められたクラス5の上限値を余裕を持ってクリアできます(図7)。
優れた負荷過渡応答の実現
車両が動作する際、SoCの処理負荷は急激かつ大きく変動します。それに応じて、SoCに供給しなければならない電流量も変動します。従って、1次電源ICとしては優れた負荷過渡応答を示すものを採用しなければなりません。
図8に、LT8648S/LT8648SPの負荷過渡応答を示しました。ご覧のように、負荷電流に大きな過渡的変化が生じた場合でも、オーバーシュート/アンダーシュートは最小限に抑えられ、プログラムされた出力電圧の値に迅速に復帰します。この特性は、SoCの給電に用いられる入力電圧範囲の狭いPMICに対応するために不可欠なものです。
サスペンド・モードにおける消費電力
車両が動作していない場合には、静止電流(自己消費電流)が少ないことが非常に重要になります。サスペンド・モードの間、SoCは定期的なウェイクアップとして知られる動作を維持します。つまり、定期的に起動して検出処理を実行し、その後再びスリープ状態に戻るという動作を繰り返します。このモードにおいて、LT8648S/LT8648SPは自身の消費電流を最小限に抑えた状態で電力を供給しなければなりません。アナログ・デバイセズの特許技術であるBurst ModeでLT8648S/LT8648SPを動作させれば、軽負荷時の消費電流を大幅に低減できます。
図9に、Burst Modeと強制連続モードにおけるスイッチング波形とインダクタの電流波形を示しました。Burst Modeでは、固定周波数で動作するのではなく、出力電圧があらかじめ定義された閾値を下回ったときだけスイッチングを実行します。つまり、スイッチングの回数が減少するので、軽負荷時にも高い効率を維持できます。サスペンド・モードの間は、LT8648S/LT8648SPのSYNCピンをローに設定することでBurst Modeを有効にします。一方、通常動作時には、SYNCピンをハイに設定して強制連続モードを有効にします。モードの切り替えはシームレスに行われ、出力電圧が乱れることはありません。
更なる大電流への対応
SoCの性能が進化し続ければ、負荷電流は更に増加すると予想されます。LT8648S/LT8648SPであれば、この課題にも対応可能です。図10に示すように2つのLT8648S/LT8648SPの入力と出力をそれぞれ接続して並列に動作させれば、負荷に供給する電流量を増やせます。図11に示すように、負荷のレベルが30Aを超える場合でも、出力電圧の変動を最小限に抑えられます。このように使う場合、LT8648S/LT8648SPはスイッチング時の位相を自動的にインターリーブします。それにより、並列動作時のEMC性能の低下を防ぎます。
まとめ
LT8648S/LT8648SPは、パワーMOSFETを内蔵するモノリシック型の電源ICです。入力電圧範囲と動作温度範囲が広く、非常に高い精度で安定した電圧とより多くの電流を出力できます。また、EMC性能が高く静止電流が少ないという車載アプリケーションに不可欠な特性を備えています。そのため、LT8648S/LT8648SPはコンパクトなサイズと大電流への対応能力が求められるECUの用途に対応可能です。
本記事はAnalog Devicesが「Embedded Computing Design」に寄稿した記事「High-Power Monolithic IC for System on a Chip」を翻訳・改編したものとなります










