みなさんは「STEM」という言葉をご存じでしょうか? Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった言葉で、先進国のなかでも、日本はSTEM分野の仕事に携わる女性が圧倒的に少ないと言われています。
そこで、企業のSTEM分野で活躍している方々との交流を通し、「STEMの仕事をもっと身近に感じてほしい」「将来の選択肢を広げてほしい」という想いから企画されたのが、東京都主催の“女子中高生向けオフィスツアー”です。

今回は、高度な技術を有する自動車メーカー、株式会社SUBARUの東京事業所で開催したツアーの様子をお届けします。

SUBARU オフィスツアープログラム
安全を追求し、笑顔をつくる会社
株式会社SUBARUの東京事業所に集まったのは、30名の女子中高生。今回のオフィスツアーでは、運転支援システム「アイサイト」試乗やオフィス見学、女性社員との座談会などのプログラムを通して、人を中心にして考え、安全を追求する、SUBARUのクルマづくりを探ります。
オフィスツアーは会社紹介からスタート。
「SUBARU」の起源は、1917年に設立された中島飛行機に遡ります。当時、飛行機について先進的な技術を持っていたフランスから学んで、海軍や陸軍で使われる戦闘機をメインに、安全性と運動性を重視した商品を開発してきました。「現在もこの思想は脈々と受け継がれています」と、司会の稲森さんからSUBARUの歴史について説明がありました。
戦後、中島飛行機は解体、再編され、1953年に富士重工業株式会社が設立。そして、2017年に社名を株式会社SUBARUに変更しました。

人事部ダイバーシティ推進室の稲森さん
「衝突安全の法規がない時代にも独自の安全技術を開発し、現在も運転支援システム『アイサイト』をはじめ、安全性や操縦のしやすさに重きを置いたクルマづくりを続けています。また、あまり知られていませんが、現在も乗用車だけでなく、固定翼機、無人機、ヘリコプターなどの飛行機の製造にも携わっています。SUBARUは日本の自動車メーカーですが、実は販売台数の70%以上をアメリカやカナダの北米が占めています」

日本での販売台数は12%で、あとは海外が占めているとのこと
また販売台数の70%以上が北米ということで、現地でのブランディングについても話してくれました。
「SUBARUのアメリカ子会社では2008年から『ラブキャンペーン』をスタートしており、これはお客様の気持ちや価値観に寄り添った取組になります。代表的なものだと、ホリデーシーズンに行っている『シェア・ザ・ラブイベント』。この期間中は、お客様が選択した興味のある慈善団体に対して代わりに寄付をおこなっています」

消費者の気持ちや価値観に寄り添った取組を通して、他社との差別化を実施
続いて、SUBARUの社風や雰囲気についても話してくれました。
「SUBARUの働き方の特徴に、一人ひとりの仕事の幅が広く、裁量権が大きい風土があります。若いうちから大きな仕事を任せてもらえるため、いろいろなスキルを身につけながら成長できます。また従業員のワークライフバランスも大切に、いきいきと働き続けられる職場の実現を目指しています。安心と愉しさを軸に、お客様にも従業員にも『笑顔をつくる会社』であり続けるというのが、SUBARUの理想の姿です」
本当にピタッと止まる! 運転支援システム「アイサイト」試乗体験
会社の説明を聞いたあとは、“ぶつからない”をサポートする独自の安全技術「アイサイト」を体感!
「アイサイトは、衝突被害軽減ブレーキによる衝突回避を目指した機能『プリクラッシュブレーキ』のことを指します。3つのカメラとレーダーで、ブレーキを踏むのを忘れたときに自動的に止まる技術です」と担当者の鴨下さんが教えてくれました。

アイサイトが搭載されたクルマに乗って、数メートル先の車体が印刷されたパネルに向かって時速20Kmほどで走ります
早速、参加者は3名1組になり、この技術を実際に試乗して体験することに。クルマから降りてきた参加者は「本当にピタッと止まった!」「最初からブレーキがかかるのではなく、警報音と警告表示で、段階的に注意を喚起してくれるという仕組みに驚いた!」と、みなさん興奮気味でした。ちなみに「アイサイト」は、SUBARUの販売店やイベントでも気軽に試せるので、興味がある方はぜひ!
-30℃から50℃まで温度の変化によってクルマの動きをチェックする環境試験室を見学
次に訪れたのは、環境試験室なる開発設備がある場所。「ここは-30℃から50℃までの温度設定のほか、酸素の薄い高地、ガソリンの種類など、環境をいろいろと変えられる場所です。クルマは、我々と一緒で空気を吸って、それをエネルギーに変えて走っています。だから、花粉や黄砂が舞っていたり、気温の差が激しかったりする環境下では調子が悪くなるんです。そこで、どんな状況下でも安心して運転できるクルマをお客様へお届けするために、ここで何度も試験を繰り返しています。SUBARUのクルマは海外での販売が多くを占めていますが、実際に試作中のクルマを現地に運ぶのは相当なコストがかかることもあり、様々な環境を設定して試験が行えるこうした試験室で日々開発をしています」と担当者である技術管理部の藤井さんから説明がありました。

環境試験室でどのようなことを行っているか、身振りを交えながら解説する藤井さん
そして実際に試験室の中へ! 今日は-11℃に設定して試験中ということで、参加者からは一同に『寒い!!』との悲鳴が。「ガソリンの種類とはどんなものがあるのですか?」という参加者からの質問には「温度に強いものや弱いものなど様々な種類があります。国によっても使用しているものが異なるので、入れるガソリンを変えることでクルマの動きにどんな違いが生まれるか確認するのは非常に重要なんです」との回答。みなさん、興味深そうに見学していました。
クルマの心臓部・パワートレイン設計部のオフィス内に潜入!
次は、パワートレイン設計部のオフィス見学。案内してくれたのは、この部署に所属する技術職の周藤さんと小幡さん。
「パワートレインは、エンジン、モーターとそこから発生する力をタイヤに伝える役割を果たすトランスミッションなどを指し、設計部では企画、開発、設計をしています。ちなみに、パワートレイン全てを自社で企画、開発、設計、製造している自動車メーカーはあまり多くありません。自社開発のための技術力が必要になりますが、クルマ一台としての安全性をはじめとした高い性能を確保できるという考えから、我々は自社開発製にこだわっています」と教えてくれました。

部品の構造を映したモニターの前で、どのような部品の製作に関わる部署なのか説明してくれました
そして部内をぐるっと一周。フリーアドレスを導入しているため、みなさん自由に好きな場所で働いており、交流が活発化してビジネスアイデアが生まれやすい職場であることがわかりました。部内を歩いていて女性社員の姿が少ないことに気づいた参加者から「女性で大変だったことは?」という質問が。「確かにSUBARUの女性社員は全体の1割にも満たないので少ないですね。業界的にも男性が圧倒的に多いですが、私の場合、女性が少ないからこそ自分の意見を尊重してくれるのでとても働きやすいです」と頼もしい答えが返ってきました。

オフィスは開放感があり、集中エリア、コミュニケーションエリア、会議エリアと分かれています
6名の女性社員による座談会ではざっくばらんな意見がたくさん
最後は、技術職で働く6名の女性社員が登壇。まず全体で自己紹介とパネルディスカッションを実施しました。
登壇者
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CBPM(※)
是常友紀さん
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バッテリーシステム開発部
⽮⽥堀真友さん
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⾞両環境開発部
岩城茉佑⾹さん
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パワートレイン設計部
岡本迪さん
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⾞両環境開発部
若⼭綾那さん
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材料研究部
⼭本絢⾹さん
(※)Connected Business Planning and Management
各所属は2025年3月時点のものになります
- Q.
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理系に進んで楽しかったこと、よかったことはありますか?
- A.
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私はもともと数学が好きで、計算をしていくと明確な答えが出るところに惹かれました。理系であれば物理や化学も答えが必ず出るので、そこが⾮常に楽しくて迷わず理系に進みました。現在もそうですが、好きなことをやっていると何をやっても楽しいなと感じます(⼭本さん)
材料研究部の⼭本さん。様々な材料の信頼性評価、適⽤検討の業務を担当
私も同じで、やはり決まった答えがあるので問題を解けたときの快感が好きで、理系に進みました。今の仕事に就いてからも、実際に⾃分で考えたことが⽬に⾒えて形になっていくところはすごい楽しいし、⼤きなやりがいを感じています(岡本さん)
パワートレイン設計部の岡本さん。モーター基礎先⾏開発に携わっている
- Q.
-
⾃動⾞業界に就職しようと考えたのはいつですか?
- A.
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私は正直、⼤学で就職活動を始めるまで業界とかはあまり決めていませんでした。⼤学時代にSUBARUの開発責任者の講演を聴いて、その⽅が⾃分と同じ出⾝⼤学だったのがきっかけで興味を持ちました。そこからいろいろ調べて、⾃分が勉強していることや研究室のテーマにも近かったので、やりがいがありそうだと思い⼊社を決めました(岩城さん)
⾞両環境開発部の岩城さん。高電圧部品の電気・環境系信頼性開発に携わっている
- Q.
-
中⾼⽣時代にこれだけは勉強しておけばよかったと、感じることはありますか?
- A.
-
私は中学⽣ぐらいから理系1本に決めてしまったのですが、もっと視野を広げていろいろな科⽬を幅広く学んでいればよかったなと、今さらながら思っているところはあります。でも理系に関わる仕事はワクワクすることが多いので、後悔はしていません(⽮⽥堀さん)
バッテリーシステム開発部の⽮⽥堀さん。バッテリーのリサイクル技術の開発、電池の劣化予測システムの構築を担当
やっておけばよかったなと思うことは、個⼈的には英語ですね。理系に進んでもそれなりにはやりますが、やっぱり数学や物理がメインになってしまってどうしても疎かになりがちな科⽬なんです。でも⽂理関係なく⼤事な科⽬だと思うので、英語はやっておいたほうがいいと思います(若⼭さん)
⾞両環境開発部の若⼭さん。四輪駆動⾞のAWD制御開発に携わっている
- Q.
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この会社での働きやすさやメリットがあれば教えてください
- A.
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SUBARUでは新しいことに挑戦させてくれるのがすごくいいと思っています。私は現在コネクテッドという事業に関わっているのですが、始まったばかりの技術で⼤きな可能性を秘めているのでとてもワクワクする仕事です。また3⼈⼦どもがいるのですが、周りの社員のみなさんも⼦育てに関して理解があり、すごく充実した⽣活が送れています(是常さん)
CBPM(※)所属の是常さん。電気自動車の次世代コネクテッドに関する窓口、契約交渉を担当。3児の母 (※)Connected Business Planning and Management
その後にグループに分かれて行われた⼥性社員との座談会では、「給料は満⾜していますか?」といったリアルな質問から、「⽂理選択に迷っています」「いつ頃から就職先を意識すればよいですか?」「技術職でも結婚や⼦育てと両⽴できますか?」など、⾃分⾃⾝の悩みを打ち明ける参加者も多く、⼥性社員たちはその声⼀つひとつに⽿を傾け、真摯に応えていました。
参加者の感想は?

以前からCMなどで「アイサイト」の技術を知っていたので、今⽇体験できてうれしかったです。また⼥性社員さんの話で、仕事と⼦育てを両⽴しながら楽しく働けると聞いて、⾃分もそういう会社を選びたいと⼼から思いました。

⾼校3年で⽂理選択をどうしようか迷っていたのですが、理系の現場でバリバリ活躍されている⼥性社員の姿を⾒て、希望が持てて悩まず理系に進もうと思いました。これまで技術職には興味がなかったのですが、もっと柔軟にいろいろな⼈の話を聞きながら、広い視野を持って⼤学の学部や職業を選択しようと思いました。
SUBARUを⽀える社員から 中高生に向けてのメッセージ
自動車メーカーというとクルマ好きの人が働く会社というイメージが強いかもしれませんが、SUBARUではクルマが好きな人もそうでない人も経験や強みを活かし活躍しています。様々な分野で輝ける環境があるので、ぜひみなさんが将来のキャリアを考える際に“SUBARU”を思い出していただけるとうれしいです。
最初は未来に漠然とした不安を抱えていた参加者たちも、実際に働く⼥性社員の先輩から会社や製品についての想いを聞いたり、働く様⼦を⽬の当たりにしたりすることで、希望や⽬標を持つきっかけになったようでした。
夏のツアーを含めると、オフィスツアーレポートは全12回! 様々な企業のレポートをご覧いただき、将来の選択肢や可能性を考えるきっかけにしていただけるとうれしいです!