みなさんは「STEM」という言葉をご存じでしょうか? Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった言葉で、先進国のなかでも、日本はSTEM分野の仕事に携わる女性が圧倒的に少ないと言われています。

そこで、企業のSTEM分野で活躍している方々との交流を通し、「STEMの仕事をもっと身近に感じてほしい」「将来の選択肢を広げてほしい」という想いから企画されたのが、東京都主催の“女子中高生向けオフィスツアー”です。

東京都主催中高生向けオフィスツアー

連載ラストの10回目となる今回は、「材料」「光学」「画像」「微細加工」を武器に、オフィスサービスや医用機器、プラネタリウムなど多彩な事業を展開する、コニカミノルタ株式会社で開催したツアーの様子をお届けします。

デジタル印刷機や医用機器など、多分野で
新しい価値を創造する電機メーカー

コニカミノルタ株式会社 オフィスツアープログラム

創業150年の老舗メーカーで活躍するエンジニアってどんなことをしているの?

お客様の「みたい」という気持ちに応える会社

コニカミノルタの「東京サイト八王子」は、研究開発活動の中枢を担っています。広大な敷地内には、研究開発棟の「コニカミノルタ八王子SKT(以下、SKT)」や、様々なデジタル印刷物を手に取って見ることができるショールームなどがあり、コニカミノルタの技術を体感できる場所です。デジタル印刷とは、印刷用の製販を使用せずに、データから紙に直接印刷する手法のことです。

SKT内のホールに集まり、事業内容の紹介がスタートしました。コニカミノルタは、「材料」「光学」「画像」「微細加工」という4つの技術を駆使し、コピー機能以外にも複数の機能が搭載された複合機、工場の生産ラインなどで使われる産業印刷機、色や光を数値化する測定器、液晶テレビ用VA-TACフィルム、医用画像診断装置などを開発。海外売上比率は80%以上、世界150ヶ国以上で販売・サービスを展開するグローバル企業です。

※VA-TACフィルム
位相差及び波長分散特性の制御を均一に行うことで、液晶画面の視野角拡大機能を持たせた薄膜フィルム。

※医用画像診断装置
X線、MRI、超音波などの、患者を撮影した画像からケガや病気の状態を確認する医療機器。

オフィスツアーの様子

コニカミノルタの事業内容を説明する技術開発本部の宮本聖さん

「お客様の“みたい”という気持ちに応えている会社」として、絵や写真を綺麗に「見たい」というリクエストには、高品質のデジタル印刷機で対応。そして、患者さんの疾病やがんの兆候を「診たい」という医療機関に向けては、優れた性能の画像診断機器を提供しています。

コニカミノルタの技術が詰まったショールームで
見て触れる体験!

事業説明の後、まず訪れたのは共創型ショールームの「カスタマーエンゲージメントセンター」。ここには、コニカミノルタの印刷技術が用いられた世界中の印刷物がディスプレイされています。

仏像の迫力がリアルに伝わってくる大型本や酒瓶に貼られたラベル、絵柄が印刷された洋服、人気漫画の巨大版など多種多様な製品が並び、参加者のみなさんは興味津々。

オフィスツアーの様子

コニカミノルタのデジタル印刷機で作られた洋服や屏風を見学する学生たち

有名炭酸飲料のポスターを触ってみると、弾けた炭酸がしずく状で立体的になっていました。プクプクと膨らんだ感触を指先で体感した中学生は「こういう印刷もできるの!? すごい!」と、感嘆の声を上げていました。

オフィスツアーの様子

立体的な印刷も可能なデジタル印刷技術に興味津々の学生たち

大型印刷機の展示スペースでは、特殊な加工も簡単に創り出せる「AccurioShine 3600」というデジタル加飾印刷機で作られた、サイコロカレンダーのキットが参加者にプレゼントされました。

オフィスツアーの様子

デジタル加飾印刷機「AccurioShine 3600」の説明を受ける学生たち

表面の光沢加工を行う技術である箔押しと、表面に細かい凹凸をつけて浮き上がらせるエンボス加工が施された高級感のあるデザインで、なんと参加者それぞれの名前入り!「かわいい! 早く作りたい!」と、みんなとても嬉しそうでした。

オフィスツアーの様子オフィスツアーの様子

「AccurioShine 3600」で印刷された、参加者の名前入りサイコロカレンダー

SKTに戻り、最上階の7階へ。こちらの建物は1階から7階まで吹き抜け状になっているため、上から各フロアを見下ろすことができ、実に壮観です。

オフィスツアーの様子

SKTの吹き抜けエリア

オンラインの仕事がしやすいよう遮音性の高い会議ブースや、リラックスした状態で作業ができるソファスペースが設置されていて、社員のみなさんが自由で快適に業務が行えるよう、工夫されたオフィス空間でした。

超音波診断装置で、さくらんぼゼリーの“診断”に挑戦!?

オフィスツアー後はSKT内のホールに戻り、ヘルスケア事業本部の大沼憲司さんと赤堀博美さんからヘルスケア技術の紹介がありました。

オフィスツアーの様子

ヘルスケア事業本部の大沼憲司さん

「コニカミノルタのヘルスケア事業本部では、画像診断によって、人々の病気の兆候や状態、痛みの原因を明らかにするための医用機器を開発しています。たとえば、X線撮影装置、超音波診断装置、バイタルセンシング機器など診断を行うことができるような機器や、医療ITシステムです」(大沼さん)

今回はそれらのうちの一つ、超音波診断装置を体験しました。超音波診断は、耳では聞こえないほど高い周波数の音(超音波)を体にあてて診る方法で「体内で反射して戻ってくる音の時間差を使って、中の様子を画像化」しているのだとか。この技術で腹部や循環器の症状、胎児の状態などが診断できます。

オフィスツアーの様子

超音波診断装置について説明をするヘルスケア事業本部の赤堀博美さん

今回はさくらんぼゼリーを人体に見立て、患者さんの体に当てる部分(プローブ)をゼリーの表面にあてがって、ゼリー中に浮かぶさくらんぼの中身を見てみました。

オフィスツアーの様子

超音波診断装置を体験中の学生

医用機器に興味があるという参加者は「これは、さくらんぼのどの断面の画像ですか?」と質問し、熱心にメモを取っている様子が印象的でした。

「自分が作ったものが動くと、感動する」
エンジニア4名とパネルディスカッション!

最後は技術開発本部の大西和子さんの進行のもと、4名のエンジニアのみなさんによるパネルディスカッションが行われました。

オフィスツアーの様子

(写真左)IJコンポーネント事業部の稲村奈月さん
(写真右)プロフェッショナルプリント事業本部の小崎栄里子さん

稲村奈月さんはIJコンポーネント事業部に所属。インクジェットプリンタで使用する部品のインクジェットヘッドに入っている電装基板の設計や、正常に動作しているかについての評価、そして不具合の原因調査などを担当しています。
小崎栄里子さんはプロフェッショナルプリント事業本部に所属し、商業用デジタル印刷システムのオプション製品を担当。印刷された紙に裁断や紙に切り取り線を入れて、ハガキ、チラシ、名刺などを作る機械を開発しています。

オフィスツアーの様子

(写真左)技術開発本部兼FORXAI事業統括部の五寳匡郎さん
(写真右)機能材料事業部の藤枝奈々恵さん

五寳匡郎さんは、2度の転職を経て、コニカミノルタに入社。現在は技術開発本部とFORXAI事業統括部に所属し、「エンジニアファーストな環境や風土づくり」を推進するシニアエキスパートを務めています。
藤枝奈々恵さんは、機能材料事業部に所属していて、現在3歳の息子さんを育てるママ。テレビやスマートフォンなどに入っている、ディスプレイ用フィルムの材料の開発をしています。

4名の方の自己紹介が終わり、早速パネルディスカッションへ! さまざまなお話を聞くことができました。

Q.

高校時代に理系・文系を選択した理由を教えてください。

オフィスツアーの様子

質問に答える小崎栄里子さん(写真左)五寳匡郎さん(写真右)

A.

理系科目が好きで、逆に文系科目には苦手意識がありました。進路選択を考える際、モノづくりが好きだったことをきっかけに、理工学部に進学しようと決めました。(小崎さん)

私も中高生時代は理科が好きで得意だったので、理系の職種やSEに憧れていました。大学は工学部と教育学部に受かったのですが、やりたいことが明確に決まっていなかったので幅広い選択肢が持てる教育学部に進学し、教育学部の中で生物学を学ぶことにしました。(五寳さん)

Q.

仕事をしていて、これが楽しい! と思う瞬間はありますか?

オフィスツアーの様子

質問に答える五寳匡郎さん

A.

難しい課題にぶつかったときに、周りにアドバイスをもらいながら解決策が見えてくると嬉しいです。解決策を自分自身で出せると、特にやりがいを感じます。(小崎さん)

私が入社する以前に設計されたインクジェットヘッドが経年劣化によって不具合を起こした場合、その原因を解析するケースがあります。一から仕様書を見直して確認して原因がわかると、達成感があり、楽しいと思います。(稲村さん)

私が担当している製品は、開発だけでなく、生産、営業、材料調達の部門など、いろいろな部署の人と協力しないと作れません。最初はたった一人で、A4サイズで試作していたフィルムが、周りの人と力を合わせ、最後は幅2メートルほどの大きな製品に仕上がるという瞬間を迎えた時は本当に嬉しかったです。(藤枝さん)

作ったものが実際に動くと感激します。それが試作品だとしても、出来上がって動くと感動です。(五寳さん)

Q.

女性エンジニアの割合はどのくらいですか? 女性が働きやすい環境ですか?

オフィスツアーの様子

質問に答える稲村奈月さん

A.

コニカミノルタに在籍する女性エンジニアは、全社員のうち20%ほどです。私が所属しているIJコンポーネント事業部の電気チームでは私一人ですが、他のチームのみなさんと集まる女子会が開催されるので交流があります! その人たちとは会社ですれ違うと少し立ち話をすることもありますよ。(稲村さん)

オフィスツアーの様子

質問に答える藤枝奈々恵さん

女性が働きやすいと思います。コニカミノルタは、子どもが小学校を卒業するまで時短勤務が可能で、私も活用しました。その後、育児も仕事も両方頑張っている自分が一番好きと気づき、現在フルタイムで働いています。時短勤務かフルタイム、働き方を選べる職場で幸せだと感じています。(藤枝さん)

また、出産後に復職している方は100%ということで、復帰しやすく、子供を産んでも働きやすい職場であることが伺えます。

Q.

最後に、みなさんから中高生に向けてメッセージをお願いします。

オフィスツアーの様子

パネルディスカッションの様子

A.

これから先、いろいろな場面で伝える力が大事になってくると思います。アニメや漫画の内容を友達や家族に伝えることでも力が付くと思いますので、ぜひやってみてください!(小崎さん)

私は、大学進学の際、周りの意見を参考にしていました。進路をどんな形で決定するにしても、最終的には、自分の腑に落ちる決め方をおすすめします。(稲村さん)

私はずっと、次に進む道を、その場その場で決断してきました。先のことを思い悩むより、今しか経験できないことを堪能してほしいです。部活や学園祭などを思いきり楽しんでください!(藤枝さん)

自分がやりたいと思う仕事に就けるのは、宝くじに当たるほどまれなことです。これから先、想像と違うと思うこともあるかもしれませんが、あきらめないで。すべてが次につながっていて無駄なことはないですよ。(五寳さん)

参加者の感想は?

社員の方に熱心に質問していた2名の学生さんに感想を聞いてみました!

参加者

私は情報科学に興味があるのですが、今回参加したことで工学系機械系の仕事にも関心が湧きました。エンジニアのみなさんの話は、全部ためになりました!

参加者

医療機器や素粒子に興味があり、医療機器を開発している現場を見たくて参加しました。超音波診断の体験が面白く、社員の方々の、『難しいことを乗り越えた時に成果は得られる』『無駄なことはない』という話が印象に残りました。

一連のオフィスツアー参加者の評価をまとめてみました!

全10回の連載企画でお届けしてきたオフィスツアーのレポート。STEM分野で働く魅力を感じてもらえましたでしょうか。参加者へ行った主なアンケート結果についてご紹介します。多くの参加者がSTEM分野で働くことに対して肯定的でした。

アンケート結果 アンケート結果

アンケート結果

「もともと理科や数学が好き」という参加者も、「私は文系だから理系の仕事は無理だと思う……」と不安を抱いていた参加者も、現場の様子を見て、技術を体験し、そこで働く人たちの話を聴くことで、表情が活き活きと輝いていった様子が印象的でした。皆さんも、是非、10回に渡るオフィスツアーレポートをご覧いただき、将来の選択肢や可能性を考えるきっかけにしていただけると嬉しいです!