『若者はなぜ3年で辞めるのか?』という著書がヒットして久しいですが、若者の早期退職傾向はとどまることはなく、むしろ一つの会社で定年まで働く志向を持つ人の方が少なくなってきています。直近の調査によると、社会人2~3年目の約半数が、既に転職を経験したり、転職を検討または希望しているとのデータも。(株式会社クロスマーケティング「若手社員の就労意識調査」より)

優秀な人材を育て、長く活躍して欲しいと願う企業と、安定した職に就きたいと願いつつも自分の希望する仕事に就けず早々に見切りをつけて辞めてしまう若者。両者の溝を埋めるためには、どんな制度や文化が必要なのでしょうか。

日本を代表する大手広告会社の博報堂では、「社内転職」とも呼べるような多様なキャリアを築くための充実した人材育成制度が用意されていると言います。それが「多段階キャリア育成制度」と「博報堂大学」。

今回は、博報堂の人材育成の強みを裏付ける社内制度について、ご自身もこれらの制度の恩恵を受けてキャリアチェンジしてきたという、人材開発戦略室の木瀬友理さんにお話を伺ってきました。

社内で2回の転職を経験できる人事制度とは……!?

博報堂が推進する、「多段階キャリア育成」制度とは、簡単に言うと、20代のうちに3つの領域のキャリアを経験し、異なった分野で見識を広げることを目的とした人材開発プログラム。高い専門性に加え、幅広い領域の知識、価値観を身につけることで、より幅広い発想力や変化への対応力を持った人材を育てるといいます。

――それでは、まずは「多段階キャリア育成制度」について詳しくお伺いできればと思います。宜しくお願い致します

木瀬さん:はーい、宜しくお願いします。

博報堂 人材開発戦略室 木瀬友理さん

――元気いいですね(笑)

木瀬さん:よく言われます(笑)

――まずは「多段階キャリア育成制度」について、内容をお伺いできますか?

木瀬さん:一般的には、専門性って深めれば深める方がいいと言われますが、これからの時代、一つの専門性だけでは広告のプロとしての幅が限られてしまいますよね。一つの強みを軸としつつも、想定外に領域を変化させていくことで、専門性の幹を太くしていくことを目指しています。

――なるほど、確かに営業は営業、クリエイティブはクリエイティブのように、かつては完全分業が基本だった広告会社ですが、もはやそうした枠組みではクライアントの多様なニーズに答えられませんよね

木瀬さん:おっしゃる通りです。そうしたクライアントニーズの変化に対応することはもちろん、社員一人一人にプロフェッショナルとしての高い能力を身につけてもらい、大きな舞台で活躍して欲しいという想いもあって生まれた制度ですね。

3年ごとに異なる職種や部署を経験

――木瀬さんも制度の恩恵を受けているそうですが、ご自身のキャリアの変遷について教えてください

木瀬さん:基本的には、3年1単位で、大きく異動するのは4年目と7年目です。私の場合は、2000年に入社して最初の配属は営業職だったのですが、その後、4年目に志望していたマーケティング職に異動。現在の人材開発戦略室へ来たのは、出産によって育児休業を取得して、復帰したタイミングでした。自分ではまったく想定していない配属先だったので、ちょっと驚きましたね。

――配属先はどのように決められるのでしょうか?

木瀬さん:社員本人の希望と上司の意見を聞きつつ、会社側から見た適性や育成されるべき方向性について加味しながら、2週間くらいかけてじっくり検討した上で決定します。できるだけ本人のキャリアビジョンを尊重したい風土もあるので、異動対象者には全員「なぜその職種を志望するのか」など、理由をかなり詳しく書いてもらうようにしています。

キャリアプラン実現のための社内転職活動が活発に!?

――御社のような大手企業になると対象者の人数も多いですよね?

木瀬さん:今年度の異動対象者は、博報堂と博報堂DYメディアパートナーズを合わせて200人位です。

――200人!!! そんなに多くの方たち一人一人について、本人の意見を尊重しながら適性を見極めて決定されているとは

木瀬さん:いやいや普通ですよ(笑)。例えば新入社員の子たちは入社前から研修で接点がありますし、入社後も新人研修で1カ月間毎日会うので、全然知らない人の適性を見極めるわけではありませんから。

――なるほど。確かに木瀬さんのように明るくて包容力のある方だと、親しみやすくて安心して自分のキャリアについて相談できそうですね

木瀬さん:本当ですか? ありがとうございます。実はちょっと抜けているところもあるのか、知らないうちに社内で「サザエさん」なんてあだ名を付けられてたりするんですけどね……。

――サザエさん! 確かにそのイメージ、わかります

木瀬さん:私は認めてないです(笑)。セルフイメージでは、真面目でしっかり者で頼れるお姉さんなので。あ、これはオフレコで。

――かしこまりました(バッチリ書かせていただきます)。最近だと、入社してすぐに「自分には合わない」と判断したり、将来が見通せなくて辞めてしまう若者も多いですが、最初から複数領域を経験できることが決まっていると、キャリアプランを考える楽しみも増しそうですね

木瀬さん:まさにその通りで、みんな2回チャンスがあると分かっているので、次にチャレンジしたい職場の先輩社員に話を聞きに行ったり人脈を築いたり、自主的に「社内転職活動」を始める人もいます。社内で積極的にネットワークを作って交流する人が増えたというのは、想定外の副産物と言えますね。